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2007年1月 9日 (火)

観劇公演パンフレット(5) 阿佐ヶ谷スパイダース 「イヌの日」

阿佐ヶ谷スパイダース 「イヌの日」公演パンフレット2006 阿佐ヶ谷スパイダースの「イヌの日」(作・演出:長塚圭史)の公演パンフレットを紹介します。2006年に再演された時のパンフレットです。

「イヌの日」はゆがんだ愛情がテーマとなっている作品で、イヤーな人しか出てこないイヤーな芝居です。小学生時代に同級生数人を騙して自宅の庭にある防空壕跡に閉じこめ、そのまま17年も監禁し続けている男(中津)、その男に異様なまでの愛情を注ぐ母親、男の母親と関係を持ち、情事の模様をカメラに収めていた警察官、働かずに彼女に金をせびってばかりの中津の友人などろくでもない人ばかり出てきます。

また防空壕跡に閉じこめられた中津の元同級生達の大人なのに成長していない姿も薄気味悪く、ごく一般的な面白さとは真逆の地点を目指した作品であるといえます。長塚の意図も観る者にイヤーな感じを与えることにあったと思われますが、観る者がそのイヤーな感じから何を受け取るかで評価の分かれる作品です。ゆがんだ登場人物が登場するゆがんだ構造を持つ芝居であり、この作品の感想を「面白い」もしくは「つまらない」の二者択一的な一言で片付けようとする人こそが、実は「イヌの日」の登場人物に重なるような不気味さを持っているのかも知れません。

パンフレットは200ページ近いボリュームを持つもので、出演者全13人へのインタビュー、長塚圭史の手による「Dog Days イヌの日外伝」という短編小説、長塚圭史と日比野克彦の対談などが収録された大変充実したものです。

「イヌの日」の感想

阿佐ヶ谷スパイダースの「イヌの日」を観る。2000年に初演された作品であり、今回は台本に加筆しての再演となる。作・演出はいうまでもなく長塚圭史。出演は、内田滋(うちだ・しげ)、伊達暁(だて・さとる)、八嶋智人、美保純、劔持たまき、村岡希美、大堀こういち、長塚圭史ほか。

中津家の居間と寝室、そして裏庭の防空壕内が舞台。
中ちゃんこと中津(伊達暁)は母親の和子(美保純)と二人暮らしであるが、中津家には中津の友人が数多く集まる。警官の五味(大堀こういち)、遊び人の明夫(長塚圭史)、広瀬(内田滋)など。五味や明夫は中津の母親である和子と関係を持っている。和子はもともとは淫売であった。中津はそんな和子に敵愾心を抱き、その影響からか女性恐怖症でもあるようだ。
そんな中津には実は秘密があった。17年前、当時小学5年生であった同級生ら4人を自宅の裏手にある元防空壕に監禁していたのだ。といっても中津は暴力的手段ではなく、同級生達を「外の世界は壊滅状態であり、危険すぎる」と騙すことで恐怖心を与え、外に出ないよう諭すことで監禁状態を作りだしていた…。

正直、大嫌いな種類の芝居である。とにかくまともな人が一人も出てこない。この手の芝居が苦手なのは私だけではないようで(当たり前だが)初演の時も評判は悪かったそうだ(「ほんとにつまんないって言われたし、怒って帰る人もいた」。長塚圭史・談。『イヌの日パンフレット』より)。しかし、私は大笑いし、切なさも覚え、優れた舞台だと思った。感心した。

監禁状態にあったため、年は取っても内面が成熟していない大人のなりをした子供達=“Grownup Babys”は不気味であり、実際、舞台中でも「不気味」、「気持ち悪い」といった言葉は沢山出てくる。しかし、一見すると大人に見える中津の内面が実は一番子供じみていることが徐々にわかってくる。なぜ中津がそういう大人になってしまったのか、また同級生達を監禁した理由を中津は「10年ぐらい閉じこめておいたらどうなるか」という興味からと広瀬に語るのだが、実際は、中津は菊沢(劔持たまき)という女の子が好きであり、彼女が美人であるにも関わらず性格が暗かったため苛められているのを不憫に思って、というのが最初の動機らしい。そして菊沢が「一人じゃ寂しい」というので害の無さそうな他の同級生を連れてきて一緒に閉じこめたのだ。監禁というと性的な連想がすぐに浮かぶが、中津は母親への嫌悪からか菊沢が好きなのに彼女を神聖視したのか、いつまで経っても関係を持とうとしなかった。それどころか、菊沢をずっとイノセントの状態で保とうとした。だから、明夫(母親と情交している場面を目撃して中津は激怒、明夫を元防空壕内に生き埋めにするが明夫は菊沢に助け出される)が菊沢と関係を持ったことを知った中津はほとんど錯乱状態になる。

ふしだらな母親・和子も息子である中津にだけは良く思われたかった。子供から愛して貰いたかった。しかし母子の心はずっとすれ違ったままである。

本当は残酷ではない人間が残酷な地獄を作りだし、自らもそこへ堕ちていく様を炙り出す劇であり、グロテスクなストーリーの裏に、「人間」の哀しみへの温かい眼差しが感じられる芝居でもあった。

2006年12月5日 大阪・茶屋町のシアター・ドラマシティにて観劇

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