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2008年2月13日 (水)

観劇感想精選(29) 兵庫県立ピッコロ劇団・秋浜悟史追悼公演

2006年6月13日 兵庫県尼崎市の兵庫県立ピッコロシアターにて観劇

尼崎へ。兵庫県立ピッコロシアターで行われる秋浜悟史追悼公演を観るためである。

秋浜悟史は、1934年、岩手県渋民村の生まれ。石川啄木と同郷である。早稲田大学在学中に演劇を始め、卒業後は岩波映画で助監督や脚本の仕事をしていたが8年後に退社。劇団三十人会を創設し、劇作・演出・劇団代表としての活動を開始し、第1回紀伊國屋演劇賞や岸田国士戯曲賞を受賞する。しかし、劇団三十人会は7年で解散、秋浜は京都に転居する。その後、更に奈良に移った秋浜は、大阪芸術大学、ピッコロ演劇学校、兵庫県立宝塚北高校などで教鞭を執るようになる。1994年に、今回、追悼公演を行う兵庫県立ピッコロ劇団を創設、劇団代表を長きに渡って務めた。2005年の7月に他界している。

今回上演されるのは、第1回紀伊國屋演劇賞を受賞した「喜劇 ほらんばか」と、秋浜の演出で連続上演を行った清水邦夫作品から「楽屋 ─流れ去るものはやがてなつかしき─」の2本。演出は文学座の鵜山仁。

「喜劇 ほらんばか」は東北弁を使った芝居である。
東北地方のとある寒村。かってはその村の指導者的立場にあった青年、工藤充年は、ある事件をきっかけに、毎年春になると「ほらんばか」(ほら吹き男)になってしまう。今日も牛舎の前で一人ぶつくさと語り続ける工藤、そこへ野間さち、野間なちの姉妹が工藤をからかいに来る。実は野間さちは工藤を愛しているのだが、彼がほらんばかであるために結婚できない。他の男との結婚を決めようと思うと、さちは工藤に打ち明けるのだった……。

小説を読んでいるような、あるいは小説で読んだ方が良いような物語である。もちろんラストの迫力は小説では絶対に出せないし、映画にすると大仰で、演劇として表現する意義はある。ただ工藤が場を外している間に、さちが妹のなちに工藤の来歴を語ったりと、演劇としてのスタイルの古さはどうしても否めない。上演時間40分の短編で、よくまとまってはいるのだが、それ以上のものを望みたくなる。
演技面では、心理表現が類型化されているのが気になった。心の変化が四角四面なのである。典型的な「喜・怒・哀・楽」がシステマチックに入れ替わるだけで、その間のグラデーションに乏しい。それだけに登場人物の心理状態はよくわかるが、人物としての奥行きに欠けるのである。とはいえ、この欠点は役者の演技力や鵜山の演出よりも秋山の脚本に因るところが大きいように思う。やはり当時はこれが正統的な演劇だったのだろう。悲劇的色彩が濃い劇なのに、「喜劇」と銘打っているのはチェーホフの影響だと思われる。

清水邦夫の「楽屋 ─流れ去るものはやがてなつかしき─」。
ある劇場の楽屋。亡霊となった二人の女優がメイクをしている。彼女たちが舞台に上がることは永遠にない。しかし、女優への思い入れが強いのか、ずっと楽屋に居続けているのである。太平洋戦争の空襲で顔に傷を負った女優Aと、男に騙されて自殺未遂をしたことのある(あるいは自殺してしまったのか)女優B。二人とも女優としてはうだつが上がらず、生涯プロンプターとして終わった。
劇場ではチェーホフの「かもめ」が上演されている。ニーナを演じている女優Cは不満を抱えつつも女優であることに誇りを持っているようだ。そこへ、精神病院を退院したばかりの女優Dが現れる。「病気が良くなったのでニーナ役を返して欲しい」と女優Cに迫る女優D。しかし女優Dはプロンプター専門であり、実はニーナを演じていたというのは彼女の妄想なのだった。しつこく迫る女優Dの頭を思わず殴りつけてしまう女優C。女優Dは楽屋を去るが、打ち所が悪かったのか、亡霊となって再び現る……。

あらすじだけ書くと悲劇かホラーのようであるが、実はコメディーである。「かもめ」のニーナ役や、「三人姉妹」のオーリガ、マーシャ、イリーナに女優の感情と苦悩と本質を重ねる手法は斬新ではないが巧い。4人の女優も好演。演出も舞台美術も良く、素敵な舞台になった。
「良いものを観たな」、と思う。帰りの電車の中でも幸せ気分は持続する。

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