« 大きな子供たちの帝国 若林亜紀 『公務員の異常な世界』(幻冬舎新書) | トップページ | 讃歌としてのレクイエム サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団ほか ブラームス 「ドイツ・レクイエム」 »

2008年5月18日 (日)

21世紀のマエストロ ニコラス・ケニヨン著『サイモン・ラトル ベルリン・フィルへの軌跡』(音楽之友社)

世界最高のオーケストラといわれるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の現在の音楽監督、サー・サイモン・ラトル。
1955年、イギリス・リヴァプール生まれの指揮者です。
1980年に、わずか25歳でバーミンガム市交響楽団(CBSO)の音楽監督に就任。以後、CBSOのレベルを飛躍的にアップさせ、世界的な脚光を浴びます。
そして1999年、ラトルはベルリン・フィルの第5代音楽監督への就任を決めました。

ニコラス・ケニヨン著・山田真一訳 『サイモン・ラトル ベルリン・フィルへの軌跡』(音楽之友社)

順風満帆に見えるラトルの音楽人生。しかし、ラトルにもラトルなりの苦労があります。ニコラス・ケニヨンが書いた『サイモン・ラトル ベルリン・フィルへの軌跡』(山田真一訳。音楽之友社)は、生い立ちからベルリン・フィルの音楽監督になるまでのラトルの人生に迫った評伝。

音楽好きの両親のもとに生まれたサイモン・ラトル。特に父親のデニス・ラトルはジャズ・ピアノやギターが得意で、息子のサイモンが成長したらジャズ・ドラムを教えて一緒にバンドを組もうと考えていたようです。しかし、サイモンは4歳の頃からクラシック音楽に興味を示し、ピアノやパーカッションなどを習い始めるとすぐに上達。母親の影響で読書が好きになったサイモンは音楽書や楽譜を貪り読みます。7歳の時の愛読書は何とベルリオーズの『管弦楽法』。「音楽に取り憑かれていた」とサイモン自身も語っています。

出身地のオーケストラであるロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の演奏会を聴いたラトル少年は、演奏家になることを決め、15歳で学生オーケストラを指揮する機会を得、それ以降は、指揮者以外の職業に就くという選択肢は彼の中から消えました。

しかし、神童ラトルといえども、指揮者になるには苦難の道が待っています。20世紀前半を代表する指揮者の一人であるブルーノ・ワルターは、「ピアニストやヴァイオリニストは楽器を相手に練習できます。しかし哀れな指揮者はというと、大勢の演奏家達、それも自分より遙かに年上で音楽のキャリアも長い演奏家達の前に立たないと指揮を練習することも出来ないのです。最初は何をしていいかもわからないということになります」とテレビインタビューで語っていましたが、ラトルにとってもそれは同じで、初めてプロのオーケストラの立ったときに彼は、「いったい何をすればいいのかまるで見当がつきませんでした」と本書の中で語っています。
その初めて振ったプロのオーケストラであるボーンマス交響楽団のメンバーの若きラトルへの評価は決して高いものではなく、ラトルはその後もレパートリーの問題も含めて多くの壁にぶつかります。
指揮者として功成り名を遂げた後も、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団やクリーヴランド管弦楽団など、ラトルと上手くいかなかった楽団は存在します。

現代音楽を得意とし、ベルリン・フィルでも積極的に現代音楽を取り入れるラトル。しかし、現代音楽はオーケストラメンバーも含め、音楽愛好家に必ずしも好意的には受け止められていません。
ベルリン・フィルとの新しい時代を築きつつあるラトル。ラトルの音楽性と音楽人生知り、そしてベルリン・フィルとの今後を占う上でも、『サイモン・ラトル ベルリン・フィルへの軌跡』は重要な書籍であるといえます。

Book/サイモン ラトル ベルリン フィル

|

« 大きな子供たちの帝国 若林亜紀 『公務員の異常な世界』(幻冬舎新書) | トップページ | 讃歌としてのレクイエム サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団ほか ブラームス 「ドイツ・レクイエム」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/41240880

この記事へのトラックバック一覧です: 21世紀のマエストロ ニコラス・ケニヨン著『サイモン・ラトル ベルリン・フィルへの軌跡』(音楽之友社):

« 大きな子供たちの帝国 若林亜紀 『公務員の異常な世界』(幻冬舎新書) | トップページ | 讃歌としてのレクイエム サー・サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団ほか ブラームス 「ドイツ・レクイエム」 »