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2008年7月25日 (金)

観劇感想精選(42) スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」

2008年5月15日 大阪・道頓堀の大阪松竹座にて観劇

午後4時30分から、大阪・道頓堀にある大阪松竹座でスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」を観る。梅原猛の作、市川猿之助の脚本・演出。

スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」

「ヤマトタケル」は、梅原猛が市川猿之助のために書いた作品であるが、猿之助は病気のためステージに上がるのは困難であり、門下である市川段治郎と市川右近が交代で主役であるヤマトタケルを演じる。本日午後の公演は、段治郎がヤマトタケルを、右近はタケヒコを演じた。

出演は他に、市川笑三郎、市川笑也、市川春猿、市川猿弥、市川猿紫、市川門之助など。市川猿之助のところは、長男の香川照之が歌舞伎を継がなかったので、弟の段四郎と、段四郎の子の亀治郎しか一族がいない。ということで、門下の大半は歌舞伎の家の出身ではない。

京都造形大で市川笑也の講演を聞いたことがあるが、笑也も歌舞伎とは何の関係ない家の出身。美大受験に失敗して(「高校時代にアイスホッケーをやっていて、それが悪かったと思うのですが、見事に滑りまして」と本人は洒落を言っていた。「ここ笑うところですよ」とも言っていたが、周囲は笑えずにただただ驚くばかりであった)、予備校に通おうとしていたところ、何かの拍子で国立劇場の歌舞伎俳優研修所研修生の募集広告を見て、軽い気持ちで受けたら受かってしまって(何のことはない、受験者全員が合格だったとのこと)、そのまま歌舞伎俳優になってしまったという。

余談だが、歌舞伎の女形には本当に男の方が好きな人が多いとも話していた。笑也も女形だが、ある劇場で、笑也が女形の歌舞伎俳優二人と同室になったことがあり、その二人がどんな男がタイプか話していたという。それで、その二人の女形が笑也に話しかけてきた。

女形A「ねえねえ、笑也さんは女が好きなの? 男が好きなの?」
笑也「女です」
女形B「えー! 女が好きなの?!」
女形A「(女形Bに)変態よねえ!?」
笑也「………」

……なんだか凄い世界である。笑也も「とんでもないところに入って来てしまった」と思ったそうだ。

それはともかくとして、「ヤマトタケル」。タイトル通り、日本の古代神話の英雄である日本武尊命を主人公にした物語。

大和国。大碓命(市川段治郎)が朝廷に出仕しないのを、帝(市川猿弥)が怒っている。大碓命の弟である小碓命(のちのヤマトタケル。段治郎の二役)は、大碓命に出仕するよう促すが、大碓命は「朝廷に自分達兄弟を亡き者にしようという動きがある」と、これを聞き入れない。それでも執拗に迫る小碓命に大碓命は怒って斬りつける。

ここは早替えにより、段治郎が二役を演じる。大碓命が表にいる時は小碓命は奥にいて、小碓命が表にいるときはその逆。奥にいる方のセリフをテープを使って出していると思われる。大碓命と小碓命の斬り合いの場面では、段治郎の他にもう一人、誰だかわからない俳優を用いて、柱の後ろに回った時に、早替えをする。客席に顔を向けている方が段治郎である。

笑三郎、笑也、春猿、門之助など、いずれも歌舞伎界のトップランクの女形の共演も凄い。みな、女声に似た声を出せるが、笑也と門之助の声はじっくり聞いても女声にしか聞こえない。

熊襲タケル兄弟との死闘では、ヤマトタケルの女装があり(男役と女形の二つが出来るので、梅原猛は「ヤマトタケル」を題材に選んだと猿之助が語っているのを聞いたことがある)、屋台崩しがあり、熊襲タケル配下役の歌舞伎役者達が次々ととんぼを切るなど、視覚効果は抜群である。

猿之助は、「歌舞伎はつまらない」と公言している。知識がないと楽しめないというのがその理由。そこでスーパー歌舞伎は知識がなくてもわかることを第一に考えて作られている。しかし、セリフのほとんどが傍白を含む状況説明と、直接的な心情吐露とで出来ているため、本としてのクオリティは低くなる。仕方ないことではあるが。

草薙の剣で有名な焼津の場面、弟橘姫(スーパー歌舞伎では、橘の弟姫。春猿が演じた)が身投げする走水の海の場面などでも視覚効果は高い。ヤマトタケルが白鳥になって飛んでいくラストの宙乗りの効果が高いのは言うまでもない。

梅原猛の脚本は、ヤマトタケルの英雄的要素だけでなく、侵略者としての側面にもわずかながら触れているのが興味深い。

また、橘の弟姫(おとひめ)の入水場面で、海の帝のもとへ行くという解釈は、考えようによっては「浦島太郎」に通ずる可能性がある(「乙姫」は固有名詞ではなく、「姉妹の妹の方の姫」という意味である。しかし竜宮城にいるのが乙姫様で、浦島太郎が最後に鶴になり、ヤマトタケルが最後に白鳥になるという共通点がある)。昔話というのは、大抵元ネタがあるものだが、ヤマトタケルの神話が浦島太郎の元ネタである可能性もある。ちなみに、ヤマトタケルと弟橘姫の話も浦島太郎の話も、ともに舞台は三浦半島である。

更にいうと、スーパー歌舞伎「ヤマトタケル」において、ヤマトタケルと共に東征する吉備国出身のタケヒコ(市川右近が演じた)はおそらく稚武彦で、稚武彦は桃太郎のモデルともされる人物である。

更に、鎮西に赴き、東国に赴き、大和に帰ることなく没したヤマトタケルは、もともとは祟り神だったのかも知れない。複数の英雄の功績を一人の人物にまとめた形で生まれたというヤマトタケル。しかし実際は大和朝廷のために命を落とした多くの若者の魂を鎮めるために、一人の英雄として創作されたのではないだろうか。

劇を観ていて、そうした可能性が頭に浮かんだ。

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