« ウラ県民性診断 | トップページ | こら! ニフティ »

2008年10月28日 (火)

コンサートの記(25) ファジル・サイ・ピアノリサイタル2006神戸

2006年10月4日 神戸新聞松方ホールにて

神戸へ。神戸新聞松方ホールで、トルコ出身のピアニスト、ファジル・サイのリサイタルを聴くためである。

神戸新聞松方ホールのソワレは、午後7時15分という他のホールとは違った時間に始まることが多い。今日のファジル・サイのリサイタルもやはり午後7時15分に始まった。

曲目は、前半がモーツァルトの「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲(通称:キラキラ星変奏曲)とピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」、J・S・バッハの「パッカサリアハ短調 BWV.582」。前半は当初、オール・モーツァルト・プログラムの予定であったが、3曲目の「幻想曲ニ短調 K397」が外され、代わりに大バッハの作品が入れられた。後半は、J・S・バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番より「シャコンヌ」ピアノ編曲版(ピアノ編曲:ブゾーニ)とベートーヴェンのピアノ・ソナタ第23番「熱情」という組み合わせ。

1970年、トルコの首都アンカラに生まれたファジル・サイは当地の音楽院で学んだ後、ドイツ・デュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院、更にベルリン芸術大学で学んでいる。作曲家でもあり、アンコールでは自作も演奏された。

さて、このファジル・サイ。かなり変わった人だとは聞いていたが、百聞は一見にしかず。グレン・グールドも真っ青の変人ピアニストであった。

まず、ピアノを弾きながら歌う。左手を無意味に高く上げる。観客の方を向きながら、反っくり返るようにしてピアノを弾く、かと思ったら、誰もいない後方をずっと見つめながら弾き出す(私には見えなかったがモーツァルトの霊でもいたのだろうか)。ピアノに向かって投げキッスを繰り返す。ピアニッシモを奏でる時は口に指を当てて「シーッ」という仕草をする、などなど、数え上げたらキリがないほど多くの奇行を見せる。この手の変人ピアニストは20世紀で絶滅したかと思っていたが、まだ生きていた。優等生的なピアニストが大多数を占めている中で、ファジル・サイのようなピアニストは貴重である。

キラキラ星変奏曲では、旋律を強調し、別の曲のようににしてしまった。しかし、才能は確かで、基本的にモノクロームの楽器と言われるピアノから多彩な色合いの音を引き出す。テクニックも素晴らしい。弱音の美しさ、強奏の迫力なども特筆ものである。

ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲付き」も自在な表現。曲想の描き分けの上手さ、ノリノリのトルコ行進曲の楽しさなど、ピアノ演奏の醍醐味を味わわせてくれる。ただ全てが素晴らしいというわけではなく、第1楽章などでは余りに乱暴な演奏に唖然とさせられたりもした。本当のモーツァルト好きが聴いたら怒り出すんじゃないだろうか。

J・S・バッハの2曲は一転して壮絶な演奏であった。「パッカサリア」ではバッハの音楽には不釣り合いなほど雄大なスケールの演奏を展開し、天才という触れ込みが嘘でないことを確認する。

「シャコンヌ」は更に優れている。ブゾーニ編曲のピアノ版「シャコンヌ」は様々なピアニストのコンサートで採り上げられる曲であり、録音も比較的多い。しかし、ファジル・サイの「シャコンヌ」演奏はこれまで聴いたことのあるどのピアニストの演奏とも違う、桁外れの名演であった。雄大なスケール。深い音色。一音符毎に変わる表情。
これまで、「シャコンヌ」はあくまでヴァイオリン用の曲で、ブゾーニの編曲は、そのエッセンスをピアノに移植しただけに過ぎないと思っていた。ブゾーニのピアノ編曲版は原典のヴァイオリン版には勝てないと。しかし、ファジル・サイの演奏するピアノ版「シャコンヌ」は平凡なヴァイオリニストが奏でるそれよりも数段上であった。ファジル・サイのテクニックは完璧であるが、それよりも音楽性の豊かさが目立つ。曲の掘り下げも素晴らしい。となるとピアノの音量は、ヴァイオリンなど比較にならないほど豊かであり、ヴァイオリンを上回る演奏が生まれたとしても不思議ではない。その不思議ではないことが私の前で初めて起きたのだ。

ベートーヴェンの「熱情」ソナタも最上級の名演。音の強弱を極端なほどにつけた演奏であったが、それが不自然とは全く思われないというところに、ファジル・サイというピアニストの傑出したセンスが現れている。

アンコールは3曲。まず、ファジル・サイの作曲作品である「ブラック・アース」が演奏される。左手でピアノの弦に直接触れて震動を抑え、右手でその部分の鍵盤を押すことであたかも弦楽器をつま弾いているような音色を出すという面白い曲である。作風はどことなく坂本龍一に似ている。

続いて、ガーシュインの「アイ・ガッタ・リズム」変奏曲。ジャズも演奏するというファジル・サイだけにノリがいい。

そして最後は、モーツァルトの「トルコ行進曲」ジャズ編曲。ファジル・サイの才能がピアノから噴き出す様が見えるような快演。聴衆が大いに沸く。

|

« ウラ県民性診断 | トップページ | こら! ニフティ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/42928592

この記事へのトラックバック一覧です: コンサートの記(25) ファジル・サイ・ピアノリサイタル2006神戸:

« ウラ県民性診断 | トップページ | こら! ニフティ »