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2012年2月の2件の記事

2012年2月29日 (水)

観劇感想精選(89) 上川隆也主演「隠蔽捜査」

2011年11月10日 京都四条南座にて観劇

午後4時から、京都四条南座で「隠蔽捜査」を観る。天才俳優・上川隆也の京都初見参である。しかも上川隆也の十八番である刑事ものである。ハズレの可能性はまずない。
ということで、南座のロビーで、この公演のDVDの予約を受け付けていたのだが(東京・足立区のシアター1010で収録されたもの)、開演前で内容も知らないのに、DVDの予約をしてしまった。

「隠蔽捜査」は、今野敏の原作、脚本:笹部博司、上演台本・演出:高橋いさを。実は私が「演劇をやろう」と思い立って、最初に読んだ本が高橋いさをの著書であった。

主演:上川隆也。出演:中村扇雀、近江谷太郎(おうみや・たろう)、板尾創路(いたお・いつじ)、本郷弦、浅倉信二、小林十市(こばやし・じゅういち)、平賀雅臣、宮本大誠、斉藤レイ、西田奈津実、岸田タツヤ。実力派揃いである。近江谷太郎は上川が所属していた演劇集団キャラメルボックスの出身。しかも二人は同期でいわば盟友である。板尾創路は本職は吉本興業所属のお笑い芸人であるが、深夜枠ながら連続ドラマの主演を務めたこともある演技派であり、更には映画監督としても活躍する多彩な人である。ちなみに役名は坂上であったが、中村扇雀による「坂上って奴は吉本の板尾に似てるなあ」という笑いを取るセリフがあった。板尾は「東スポ」名物のインチキ記事をネタにするセリフ(「宇宙人が捕まったそうだ」)を振られていたが、京都の人は「東スポ」といわれてもピンと来ないようで、笑ったのは関東出身である私を含め、数人だけであった。

上川隆也が演じるのは警察庁長官官房総務課課長の竜崎伸也。日本最難関の東京大学法学部卒で、国家試験を突破したいわゆる「キャリア」である。大変、有能な男なのだが、性格はお堅い。四角四面である。同じ警察庁の人間からも「変わり者」だと思われている。清廉潔白ではあるが、「白河の清き流れに魚棲まず」というタイプである。「自分の職務は国を守ることだ」と本気で信じている。専業主婦の妻と一男一女の家庭を持つ。妻の冴子(斉藤レイ)とは東大在学中に知り合った。冴子が同じ東大のサークルの一学年上で、いわゆる姉さん女房である(竜崎家は亭主関白に見えるが、実際は冴子が実権を握っていて竜崎に泳がせているだけのようである)。息子の邦彦(岸田タツヤ)は有名私立大学に現役合格したが、竜崎は「東大以外は大学ではない」として、息子に浪人をさせていた。

連続殺人事件が起こる。最初の事件の被害者は暴力団抗争に巻き込まれての死亡とされたが、被害者はかつて東京都足立区綾瀬で起こった女子高校生暴行殺人事件(全く同じ場所で起こった「女子高生コンクリート詰め殺人事件」がモデルである)の犯人であった。続く殺人事件の被害者もやはり同じであった。綾瀬の事件発生当時、犯人達は未成年だったため、実刑には問われず、少年院で数年を過ごして出所していた。義侠心による犯行であろうことは間違いない。

この連続殺人事件を追っているのが、伊丹俊太郎(中村扇雀。狂言回しも務める)。警視庁刑事部長である。実は竜崎と伊丹は小学校の頃の同級生で、伊丹は竜崎をいじめていた。そんな二人が警察にいる。竜崎は警察庁のエリート。伊丹の地位はそれよりもずっと下である。しかし、二人の間には奇妙な友情があった。

そんな中、第三の殺人事件が起こる。今度の被害者もかつて事件を起こしたことのある人物であった。
伊丹は竜崎に犯行の起こった日にちを告げる。4勤1休のスケジュールに合う。実はこれは警察官の勤務日程であり、非番の日に犯行が行われていたのだ。そんな中、予備校に通う息子の邦彦がクスリに手を出した場面を竜崎は目撃してしまう…

刑事ものではあるが、推理ものではなく、心理劇である。警察官が犯人であろうことは、私はすぐにわかった。少年院で過ごしたかつての犯罪者の現在の住所を知りうることの出来る職業は一つしかない。警察官である。

ということで、伊丹が竜崎に犯人が警察官である可能性を告げる場面も、「うーん、ちょっと気付くのが遅いんでないかい」としか思わなかった。作家陣の読みは私に限っては外れてしまったことになる。ただ、心理劇としては見事であった。ちなみに国松長官狙撃事件もセリフの中に出てくる。

上川隆也の演技は「見事」の一言である。竜崎を上川隆也がどう演じたかというと、早口で、セリフの返しが誰よりも早い人物として表現した。普通は他の役者がセリフを言い終わるの待ってテンポ良くセリフをいうのが王道であるが、上川隆也はそれを破って、前の人のセリフが終わるとほぼ同時にセリフを発するというケースが多かった。どういうことかというと、竜崎が頭の回転の速い男だということを示しているのである。
また佇まいも隙がないが、書類を渡すときに「流石!」と思える演技をした。普通は手を伸ばしたまま書類を渡すのだが、上川隆也は書類を持った右手をいったん伸ばして、肘を急に左に曲げて渡すという角張った動きをした。いかにも竜崎がやりそうな動きであるし、竜崎の四角四面の性格をこの動きで表したのである。これは並の俳優では出来ない。上川がまさに天才俳優である証拠である。天才といっても上川隆也は閃きタイプではなく、台本を読み込んで計算し、役を作り上げるタイプである。だから演技は盗める。女優では松たか子がこのタイプである。というわけで、役者を志している人には「上川隆也と松たか子の演技を見ろ」と薦める。同じ天才俳優でも大竹しのぶは真似することは出来ないタイプである。

終演後、客席は総立ち(自慢してもいいが、真っ先に立ったのは私である。上川隆也氏も私を見て「おっ!」という表情をする)。中村扇雀は歌舞伎俳優なので(坂田藤十郎と扇千景の次男である)四条南座の舞台は何度も踏んでいるが、これほど盛り上がったことはないという。勿論、歌舞伎ではスタンディングオベーションは基本的にないから比較できないが、四条南座が総立ちになった現代劇は少なくとも私は観たことがない。そもそも京都人はクールなので、なかなかスタンディングで称えるということはしない。そんな京都人が総立ちになったのである。京都四条南座は130年以上の歴史があるが、これほど終演後に客席が盛り上がったのはおそらく初めてなのではないだろうか。歴史的公演である。

上川隆也のスピーチ。実は上川隆也はとてもシャイな人である。にも関わらず女ったらしという悪い癖があったが、これも結婚してなくなった。
シャイなので他の出演者が客席に向かって手を振っても、上川は一度振ろうとして、結局は手を下ろしてしまった。
上川は「これ(客席が盛り上がったこと)も全て我々出演者のお陰です」と冗談をいう。更に立て続けに「全て私のお陰です」と冗談を言うが、これは冗談ではなく、本当に上川隆也主演だったからここまで成功したのである。
原作者の今野敏が客席から呼ばれ、舞台に上がる。上川はいったん、全員で捌けようとするが、岸田タツヤが「今野先生にスピーチを」という仕草をしたので、上川も今野に一言求める。今野は「この舞台は原作を超えました」とのみスピーチ。上川は「それだけですか?」と突っ込む。

上手に上川が一人残って頭を下げる。二人が「ブラボー!」と声を掛ける。まあ、そのうちの一人は私なのだが。

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2012年2月 2日 (木)

観劇感想精選(88) 「I LOVE YOU(I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE)」

2011年11月3日 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて観劇

西宮にある兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで正午開演の公演「I LOVE YOU(I LOVE YOU,YOU'RE PERFECT,NOW CHANGE)」を観る。オフ・ブロードウェイで5003回の上演を記録したミュージカルの日本版上演である。演出:ジョエル・ビショップ、台本・作詞:ジョー・ディピエトロ、音楽:ジミー・ロバーツ。中川晃教、白羽ゆり、神田沙也加、米倉利紀の4人によるミュージカル。オムニバス形式の公演で、固定された役はなく、その時、その時によって役者が演じる役は異なる。

まず、4人が、レインコートのような服を着て、恋愛の哲学性や奥深さを語る。ラストでも同じシーンは繰り返され、恋愛に関する有名なセリフが語られる。これにより、深みは増したように見えるが、実はこのミュージカルはライトコメディである。要するに「難しい理屈よりも楽しい恋をした者の勝ち」ということである。

いかにもありそうなシチュエーションから、勝手に恋愛の定義をしたり、恋愛を却ってややこしくしてしまう人、彼氏を家に誘うために大急ぎで料理の勉強をする人、なぜ結婚が難しいのか(理想が高すぎるから)という問い、息子が婚約したと知って大喜びしたのに…というブラックな展開なと、多種多様な恋愛が舞台上で繰り広げられる。

ライトコメディなので、深さはないし、心には残らないけれど、単純に面白い。こういう公演があってもいいのである。

米倉利紀は年齢には勝てないのかかなり太っていたが、貫禄が増したと好意的に解釈しておこう。安定した演技を見せていた。
男性ミュージカルスターとして日本トップクラスの中川晃教、元宝塚の白羽ゆりも勿論素晴らしい。
神田沙也加も達者な演技で、もう「松田聖子の娘」という余計な肩書きは不要であろう。神田沙也加は「女性芸能人にしては顔が大きい」と言われることがあるが、舞台では顔は大きい方がいい。宮﨑あおいのように小さいと、遠目からだと表情がわからなかったりする。そもそも「小顔はいいこと」なんて誰が決めたんだ?

ということで、楽しい時間を過ごすことが出来た。

なお、中川晃教は仙台市の、白羽ゆりは福島市の出身で、ともに東日本大震災で被災した地域の生まれである。カーテンコールで、米倉利紀は東日本大震災に触れ、「仙台公演をやったのですが、仙台の街は震災以前の姿に戻りつつあります。我々が出来るのは笑いをお届けすることだと思います」というようなことを言って締めた。

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