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2012年3月10日 (土)

観劇感想精選(92) 「キネマの天地」

2011年10月4日 梅田芸術劇場シアタードラマシティにて観劇

梅田芸術劇場シアタードラマシティで、こまつ座の公演「キネマの天地」を観る。午後7時開演。松竹の同名映画の続編である。作は映画「キネマの天地」に脚本家として参加した井上ひさし、演出は栗山民也。出演は、麻実れい、三田和代、秋山菜津子、大和田美帆、木場勝己、古河耕史、浅野和之。
実力派女優4人(大和田美帆は大和田獏と岡江久美子のお嬢さんで、美男美女の娘さんだけに美人である。二世タレントであるが、自分からそれを明かすことはなく、日大芸術学部映画学科で学び、その後実力で勝負している。舞台ではすでにかなりの売れっ子である)を主役に、ベテランの木場勝己、イケメンの古河耕史、名優・浅野和之を配するなど、かなり魅力的な布陣である。

舞台「キネマの天地」は多重入れ子構造になっている喜劇ミステリー。細部まで計算し尽くされた本であるが、遅筆で知られる井上ひさしだけに本が完成したのは公演初日直前だったという。

 

舞台は1935年(昭和10年)、築地の東京劇場(モデルになっているのは新劇の殿堂であった築地小劇場)の裸舞台。新作映画の顔合わせをするということで、4人の女優が集まるのだが、揃いも揃って、自己中心的でプライドが高く、わがままな人ばかりである。田中小春(大和田美帆)は恩義ある映画監督・小倉虎吉郎(浅野和之)のことを「オグトラ」と略称で呼ぶし、、滝沢菊江(秋山菜津子)は田中小春の演技をけなすし、徳川駒子(三田和代)は嫌味なことをいうし、立花かず子(麻実れい)は気に入らないとすぐに「車を呼んで」と行って帰ろうとする。そんな人達ばかりなので険悪なムードが漂う。東京帝大卒の助監督・島田健二郎(古河耕史)は新作映画は「諏訪峠」だと話し、なんとか皆をなだめすかそうとするが、女優達は自慢話ばかりしたり、互いの悪口を言い合うなど空気は更に悪くなる。

そこにようやく監督の小倉虎吉郎が現れる。小倉は今日行うのは映画「諏訪峠」の読み合わせではなく、舞台「ぶた草物語」の読み合わせだと告げる。女優達は文句を言い、日頃、自分達がどれだけ苦労しているかを自慢し合う。人目が気になるのでトイレにも入れず、頻尿や膀胱炎になるのだという。舞台の読み合わせの前にみなではばかりに行くことにするが、それを見計らってうだつの上がらない俳優・尾上竹之助(木場勝己)が現れる。小倉はある企みのために尾上を呼んだのだった……。

 

スリリングでありながら笑えるという井上ひさしならではの芝居。井上ひさしの舞台はわかりやすくするのが特徴なので、最初は説明ゼリフが延々と続くが、設定が定まると、あとは難度の高い作劇法が次々に繰り出されて、観ていて舌を巻くことになる。
田中小春を演じた大和田美帆は可憐だし、滝沢菊江役の秋山菜津子は才気が感じられるし、徳川駒子の三田和代は安定感抜群、一番格上の女優・立花かず子に扮した麻実れいは威厳がある。

だが、やはりこの芝居で一番の巧さを見せたのは浅野和之である。ミステリーであり、真相が徐々に明らかになるのだが、私はかなり早い時点で真相に気付いた。監督の小倉虎吉郎が一芝居打ったのである。なぜわかったのかというと、小倉を演じる浅野和之がさりげなくわざと下手に演じ始めたのに気付いたからである。私は浅野和之の芝居を何本も観ているのでそれに気付くことが出来たのだ。わざと下手に、それもさりげなく演じてくれと言われ(おそらく演出の栗山民也から指示はあったものと思われる)本当にその通りに演じることが出来てしまうのだから、名優というのは凄い。

 

劇の構造自体も多重入れ子構造という高度な技術を用いているが、多角的な要素を持つ作品であり、スター女優の光と影、なぜ俳優が尊敬されるべき仕事なのか、優れた演技とはどういうものなのか、なぜコメディーが素晴らしいのか、本当に優れた俳優とは何かというメッセージが決して押しつけがましくなく自然に伝えられる。前にも書いたがスリリングなのに笑える、更に悲劇的なセリフが続くのに笑えるという奇妙な展開から、井上ひさしがいかに明晰な頭脳の持ち主だったかということがわかり、感心させられる。これらは劇作の最上級テクニックである。現役の作家では三谷幸喜ぐらいしか出来ないのではないだろうか。いや、スリリングなのに笑えるは三谷幸喜も実際にやっているが、悲劇的なセリフが続くのに笑えるの方は現時点の三谷では無理かな。

ラストは演劇という芸術への讃歌であり、俳優の情熱への頌歌である。

 

栗山民也の演出はPAの使い方が効果的であった。一歩間違うとあざとくなるところであるが、勝負に出て、見事に成功してみせた。

 

カーテンコールでは、松竹の社歌である「蒲田行進曲」が出演者全員によって歌われ、会場は大いに盛り上がった。

 

台本の出来が余りにいいので、少し高かったが「キネマの天地」の台本の入った本を購入する。

 

さて、井上ひさしが脚本家として参加した松竹映画「キネマの天地」は、同じ松竹映画の「蒲田行進曲」(原作・脚本:つかこうへい)に対抗して作られたものである。対抗とはどういうことかというと、「蒲田行進曲」は松竹映画でありながら、舞台となるのは松竹蒲田撮影所ではなく、東映京都撮影所であり、監督も東映出身の深作欣二が手掛けるというひねくれた映画であるため、松竹の野村芳太郎がそれを快く思わず、「蒲田行進曲」を超える作品を作るべく、各界から選りすぐりの人材を集めて作られた映画だということある。監督は山田洋次、脚本には山田洋次と井上ひさしの他に、山田洋次の右腕といわれた浅間義隆、更に山田太一まで加わるという念の入れようであった。

私は、「蒲田行進曲」と「キネマの天地」の両方の映画を観ているが、興行収入では「蒲田行進曲」が勝ったものの、内容は「キネマの天地」が勝っており、引き分けだろうと思った。


「蒲田行進曲」の、つかこうへいと、「キネマの天地」の井上ひさしは好対照な作家である。共に小説家であり、劇作家であるが、井上が喜劇作家であるのに対して、つかこうへいは自身の作品にも笑いの部分はあるのにも関わらずコメディー嫌いで、「私はコメディーなどという下司なものは書いたことがないし、書く気もありません」とまで言っている。そんな二人がともに松竹の社歌がタイトルの由来である映画において対決し、同じ年に亡くなるというのは因縁を感じずにはいられない。

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