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2012年4月11日 (水)

観劇感想精選(94) 下鴨車窓 「王様」

2010年12月20日 アトリエ劇研にて観劇

午後7時30分より、アトリエ劇研で下鴨車窓の舞台「王様」を観る。作・演出:田辺剛。出演:岡嶋秀昭、河合良平、鈴木正悟、藤原大介、高澤理恵、筒井加寿子。

最近の田辺さんの作風の傾向は今回も続いており、隠喩、寓意といった修辞法が用いられているが、ここ何作かに比べると物語性がやや強く、そこに今回はミステリーの要素も加わる。

 

舞台は、いつとも知れない時代のどことも知れない国。街では野犬達がもたらす奇病が流行っているが、王室は「西の国」と戦争中で、民のための対策を何ら講じることが出来ないでいる。

 

劇の冒頭は、シェイクスピアの「ハムレット」の冒頭シーンが、ト書きも含めてほぼそのまま語られ、「松明の灯が見える」というセリフあたりからオリジナルのストーリーに傾いていく。

 

劇のあらすじを続けるが、葬送の音楽(J・S・バッハの「無伴奏チェロ組曲」)が鳴る中で、第二王子(岡嶋秀昭)により、王が「西の国」との戦争で崩御したことがモノローグによって語らる。しかし、王の亡骸が突然、煙のように消えてしまうと事件が起こる。財務大臣(藤原大介)が何らかの秘密を知っているようなのだが、はっきりとはしない。そこへ戦いで傷ついた第一王子(河合良平)が帰還する。しかし、第一王子は野犬(鈴木正悟)に噛まれ、感情が犬のようになるという奇病に罹ってしまう。

王の死を嘆いていた王妃(筒井加寿子)は、王の亡骸が消えたことで、本当は王が生きているのではという「希望」に取り憑かれ、やがて使者を名乗る男から王が5日前にしたためたという手紙が届き、7日前に死んだはずの王が5日前に手紙を託したというのなら王の死は誤報で、王はまだ生きているのではという「希望」は更につのる。そして使者を名乗る男の正体が、かつて戦で勝手な指揮をしたことにより追放されていた第三王子(これも鈴木正悟が演じる)であることがわかる。謎はさらに深まり、王は戦死したのではなく、毒蛇に噛まれた、更には何者かに毒をもられたのではという説まで飛び出し、毒殺の下手人として財務大臣が浮かび上がるのだが、これもはっきりしない……。

 

街が野犬による奇病に蝕まれているというのに、空転してばかりの王室はさながら現代政治の写し絵のよう。また、第一王子は奇病のために隔離され、王位を継いだ第二王子は人望がなく、財務大臣は謎に包まれ、王妃や第三王子は「希望」を夢想してばかりといった構図からは、繋がりを失った現代社会の縮図が浮かび上がる。奇病の正体は、私には、「孤独」「孤立」「虚無」「不信」といった現代人が抱える病のように見えた。劇中で「ハムレット」の話が語られ、王の亡霊(これも藤原大介が演じた)も登場するのだが、「ハムレット」と違い、王の亡霊が何も語ることがないのもデスコミュニケーションに陥った現代世界を描いているようにも見える。また王の死の謎や、財務大臣の正体、王の亡骸消失の理由などが明かされないことにより、そうした社会の得体の知れない恐怖が逆にくっきりと照射された印象を受けた。良くできた芝居だと思う。

 

新王となった第二王子が「誰かいないのか!」と叫んでも誰も応える者のいないシーンや、休戦交渉のために「西の国」に赴く途中で病に倒れた第三王子が、近くにいた女(高澤理恵)に語りかけるのだが、女は何も応えず、息絶えた第三王子のそばに再び戻ってきた女が、第三王子を見て、「あ、犬」と語るシーン(もはや相手を人間とすら認めていない)などは特に強く心に残る。

 

役者では、今や京都を代表する女優となった筒井加寿子の感情表現の巧みさが印象的。男優陣も熱演だったが、時折、段取り芝居になったり、名付けるなら「稽古場芝居」(稽古場でなら通用する芝居)とでもいった演技に陥ったり、感情が先走り過ぎるなどの瑕疵があり、アンサンブルは残念ながら万全とはいかなかったように思う。演技スタイルも、古典演劇を演じるのに相応しい新劇調を基本としながら、たまに小演劇スタイルの癖が出てしまうのが気になった(敢えてそうしているのかも知れないが、この劇における演技スタイルは首尾一貫していた方がいいように思う)。

 

最後に照明の効果が抜群であったことを記しておきたい。

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