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2013年5月17日 (金)

コンサートの記(88) Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra 2013 in Festival Hall

2013年5月7日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島に再建されたフェスティバルホールで、festival hall オープニングシリーズ「Ryuichi Sakamoto Playing the Orchestra 2013 in Festival Hall」を聴く。2008年暮れに大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団ほかのベートーヴェン「第九」を最後に解体され、同じ場所に再建された新しいフェスティバルホールでの公演である。新しいフェスティバルホールはこの4月に完成したばかり、チョン・ミョンフン指揮フェニーチェ歌劇場の来日公演でこけら落としが行われ、日本の団体による初演奏は大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団ほかによるマーラーの交響曲第2番「復活」であった。「復活」は聴いておきたかったのだが、チケット争奪戦はやはり激しく、聴くことは叶わなかった。ということで、今日は再建後初のフェスティバルホール体験である。

 

新しいフェスティバルホールは、段差が低く、長いレッドカーペットの階段を上ったところに入り口があるのだが、このいわば大階段がお洒落でハレの感じを演出してくれる。

 

今日は3階、天井桟敷での鑑賞。いくら坂本龍一の公演でも良い席は値段が高すぎて食指が動かない。この3階席であるが、視覚優先のためか急傾斜であり、ステージを真上から見ているような錯覚に陥るので、高所恐怖症の人は少し怖く思うかも知れない。

 

大階段を上がったところが1階だが、席があるのは長いエスカレーターを上った先にある2階からであり、建物の2階が1階席という構造である。これはザ・シンフォニーホールや京都コンサートホールと一緒だ。長いエスカレーターは段差が低く、低速度で、お年寄りや子供にも負担がないよう配慮されている。多くの古いホールはトイレが狭いという問題を抱えているが(森ノ宮ピロティホールなどはトイレに関しては落第点である)、新しいフェスティバルホールはトイレは比較的広めである(ただし、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールよりは立地条件のためか狭い)。

 

3階ホワイエにはかつてのフェスティバルホールで最も使用頻度の多かったスタインウェイのピアノが展示されている。内部には先頃亡くなったヴァン・クライバーンのサインがあるという(写真で紹介)。このピアノを使ったことがあるソリストは、ヴァン・クライバーンを始め、リリー・クラウス、マウリツォ・ポリーニ、マルタ・アルゲリッチ、ブルーノ・レオナルド・ゲルバー、ヴィルヘルム・ケンプ、園田高弘など錚々たる顔ぶれが並ぶ。

 

さて、今回の坂本龍一「Playing the orchestra 2013 in Festival Hall」(アナウンスのお姉さんが「プレイング・ザ・オーケストラ」と言ったのには「???」であったが)であるが、オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団。このオーケストラはオペラのピットに入ることも多く、NHKとも繋がりがあるので「名曲アルバム」のためのレコーディングを行っていたり(そのため、今はどうか知らないが以前は、N響からの引き抜きがあったという)、日中関係最悪の昨年に、中国のシンガーソングライター・艾敬(今は画家としての活動がメインになっているようである)の北京でのコンサートのバックを何故か務めていたりと、様々な仕事を請け合うことの多い楽団である。新星日本交響楽団を吸収合併しているが、楽団員、指揮者ともにリストラは行われなかったため、比較的大所帯である。1990年代に突如として「どう考え立った詐称だろう」と思われる「日本最古のオーケストラ」を標榜し始めたが、NHKとの関係が良好なためか、N響から苦情はおそらくなかったのであろう。ということで、現在も日本最古のオーケストラを称している。
「Playing the Orchestra」は、1988年に第1回が行われ、映画「ラストエンペラー」の音楽と坂本のそれまでの代表曲を坂本自身のオーケストラ編曲によるコンサートが開催された。指揮は当時、新進気鋭の若手であった大友直人で、オーケストラは東京交響楽団である。ライヴ録音が行われ、CDは一度廃盤になった後、再発されており、私は再発盤を持っている(現在はまた廃盤になっているようだ)。

 

その後、1997年にも「Playing the Orchestra」コンサートは開催されているようである。坂本は新しいフェスティバルホールの音響について「音も美しくなった」と語った。

 

今回も坂本本人によるオーケストラ編曲がメインだが、「TRACE」、「Afrer All」、「happy end」の3曲は山下洋輔の推薦により挟間美帆が編曲を手掛けている。

 

指揮を務めるのは栗田博文。坂本はピアノと、第1曲である「Kizuna」だけはチェンバロを演奏する。

 

ほぼフル編成のオーケストラによる演奏だが、PAを使っており、フェスティバルホールの本当の音響を知ることは出来なかったが、聴いた限りでは素直でクリアな音のするホールである。内装は、舞台のみ白木で、他の壁や天井はブラウンを基調にしている。座席の色は鮮やかなスカーレット。二人掛けのボックス席も左右両側に4席か5席あるが、今日は全て黒幕が被せられていて未使用である。

 

セットリストは、「Kizuna」、「Still Life」、「solitude」、「美貌の青空」、「Amore」、「castria」、「0322C♯minor」、「TRACE」、「Afrer All」、「happy end」、「bolerish」、「一命」、NHK大河ドラマ「八重の桜」より“八重のテーマ”&“メインテーマ””(なお、坂本はニューヨーク在住のため、手掛けたのはこの2曲だけであり、他の曲は坂本が推薦した中島ノブユキが作曲している。なお、「八重の桜」のオリジナル・サウンドトラックはすで発売されているが、NHK交響楽団とピアノ:坂本龍一、篠笛:福原友裕は、アルファベット表記されているものの、何故か指揮者の尾高忠明の名前はクレジットされていない)
「戦場のメリークリスマス(Merry Christmas Mr.Lawrence)」
「ラストエンペラー」より“rain(I want to divoce)”&“メインテーマ”

テレビでも、サウンドトラックでも聴いている「八重の桜」メインテーマであるが、生で聴くと背中がゾクゾクする。不思議なものである。

「Still Life」は奏者一人一人が別の旋律を奏でるという、教授が元々は現代音楽作曲家志望だった名残を感じさせる作品である。

「happy end」はYMOの「BGM」に収められた曲だが、坂本曰く「当時は捻くれていたので、シンセサイザーでぐちゃぐちゃにしてよくわからないと言われた」。その後、ピアノソロアルバムにも収められ、メロディー自体はよく知られるようになった曲である。80年代に流行ったミニマル音楽に影響を受けた曲だ(ミニマル音楽の創始者はイギリス人のマイケル・ナイマンであるが、ナイマンが映画「ピアノ・レッスン」の音楽でロマンティックでセンチメンタルな音楽に転向したのが面白くなかったのか、坂本はのちにナイマンのことをこき下ろしている)。

市川海老蔵が主演を務めた映画「一命」のメインテーマは、「海老蔵が主演ということで、話題になるかと思ったら、話題にならなくて。曲はいいものが書けたぞと思ったのだが、映画音楽は映画が評判にならないと評価されないので」と残念そうに言いつつ演奏スタート。途中で立ち上がり、ピアノの鍵盤ではなく、ピアノ線そのものを棒で叩いたり、指で弾いたりする特殊奏法を用いた曲であった。

また、映画「ファムファタル」の音楽である「bolerish」は「ラヴェルの『ボレロ』そっくりの曲を書いてくれ」と監督に言われ、「禁を犯して」書いたとのこと。スネアドラムによるリズム打ちはないが、メロディーは「ボレロ」のそれを少しずらして書かれている。

 

アンコールは2曲。栗田博文ではなく坂本龍一の指揮で(ノンタクト)人気曲である「シェルタリング・スカイ」と「AQUA」の2曲が演奏された。

なお、セットリストは終演後、数カ所に張り出されており、それを見たりケータイのカメラに収めたりするために行列が出来ていた。

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