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2013年7月31日 (水)

コンサートの記(95) 飯森範親指揮山形交響楽団特別演奏会「アマデウスの旅」大阪公演“さくらんぼコンサート2013”

2013年6月28日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、ザ・シンフォニーホールで山形交響楽団特別演奏会「アマデウスの旅」大阪公演“さくらんぼコンサート2013”を聴く。指揮は山形交響楽団音楽監督の飯森範親。

コンサートタイトルからもわかる通り、オール・アマデウス・プログラムである。山形交響楽団二度目のザ・シンフォニーホール登場。昨年の6月に初の大阪公演を行い、今年も6月に大阪公演を打った。更に来年もザ・シンフォニーホールでコンサートを行うことがすでに決定しており、平成26年6月27日と具体的な日にちも決まっていた。
桜桃忌からまだそれほど経ってはおらず、さくらんぼ(桜桃)が名物である山形のオーケストラを聴くのに良い季節だ。

演目は交響曲第16番K.128、ヴァイオリン協奏曲第1番K.207(ヴァイオリン独奏:松田理奈)、交響曲第23番K.181、交響曲第35番「ハフナー」K.385。「ハフナー」交響曲以外はコンサートで演奏される機会が少ない作品である。

飯森範親と山形交響楽団の関係については、『「マエストロ、それは無理ですよ…」~飯森範親と山形交響楽団の挑戦~』(著作:松井信幸。ヤマハミュージックメディア)に詳しく書かれている。
山形交響楽団は東北地方初のプロオーケストラでありながら、「山形=田舎」という固定観点に苦しんでおり、営業で他所の県を回っても、「オーケストラの名前に『山形』が入っていなければいいんですが」と難色を示されることが多かった。そこで山形交響楽団に客演したことがあり、著名で、スケジュールに比較的余裕がありそうな人を常任指揮者に招こうということになり、第一候補として挙がったのが飯森であった。ただ世界的に活躍している飯森が山形交響楽団の常任指揮者を引き受けてくれるだろうかと不安だったという。山形交響楽団の関係者が駄目元で飯森に連絡を入れ、直接会って申し込んだところ、飯森は「はい、喜んで」と即答。飯森は「そろそろ話がある頃なんじゃないかなとも思ってましたから」とも告げたが、山形交響楽団関係者は一発OKにびっくり。素直に驚きを伝えると飯森から「そんな消極的な気持ちで来られたんですか」と怒られたという。
2004年に飯森は山形交響楽団の常任指揮者に就任。それ以前に山形交響楽団と山形県について飯森はリサーチと多くの提案をしていた。コンサート会場を音響の良い「山形テルサ」という中規模ホールに変えようと提案。客席が少ないので、同一演目で二日の定期演奏会を行うことも決めた。更に飯森自身が「山形と山形交響楽団のセールスマン」を名乗り、全国に山形と山形交響楽団の良さを伝える活動を行う。飯森は「山形県は自然も美しく、観光名所も沢山あり、名物品や温泉など、恵まれた環境にあるのに、山形県の人はそれが当たり前だと思っているので自分達が住んでいる土地の良さに気付いていない」と感じ、国内のあらゆる場所に山形と山形交響楽団の長所を売り込んだ。キャッチフレーズは「食と温泉の国のオーケストラ」。さくらんぼ、米沢牛などの名産品と、上山温泉を始めとする全国的な温泉町をアピール。温泉&グルメツアーガイドを取り入れた山形交響楽団コンサートコースを提案している。また他の地方で山形交響楽団が演奏を行う時には「さくらんぼコンサート」という可愛らしく親しみやすいタイトルを着けることにし、2003年の6月に東京オペラシティにおける演奏会で「さくらんぼコンサート」というタイトルを用い、以後、毎年6月に東京で「さくらんぼコンサート」を行うことになる。
飯森の戦略はことごとくヒット。定期会員数は飛躍的に増えた。2006年には自主レーベルである「YSO live」を設立し、録音の世界でも売り込みをかけ、飯森と山形交響楽団のコンビは高い評価を受ける。飯森は功績を称えられ、ポストも音楽監督に昇進。2008年にはアメリカのアカデミー賞外国語映画部門賞を受賞した映画「おくりびと」に飯森と山形交響楽団は本木雅弘演じる主人公が所属しているオーケストラとして出演(映画の中では解散するオーケストラなので、勿論、山形交響楽団名義ではない)。知名度を更に上げることに成功した。
京都市交響楽団や大阪のオーケストラなどで行われている「プレトーク」も最初に行ったのは飯森であり、山形交響楽団の定期演奏会の開演前に毎回プレトークの時間を設けた。また、飯森は他のオーケストラに客演した時も山形交響楽団を売り込むことを忘れず、昨年3月に関西フィルハーモニー管弦楽団に客演した際も、6月にザ・シンフォニーホールで山形交響楽団が大阪初となる「さくらんぼコンサート」を行うという告知をしていた(残念ながら第1回の「さくらんぼコンサート」大阪公演を私は聴くことが出来なかった)。

そのプレトークは今回も勿論ある。開演の約20分前に飯森は山形県の法被を着てステージに登場。会場のホワイエで売られている山形の名産品や山形県と関係のある森下仁丹の商品をアピールする。その後、山形交響楽団のトランペット奏者とホルン奏者各二名と首席ヴィオラ奏者の成田寛をステージに招き、山形交響楽団が今日の演奏会で「ピリオド・アプローチ」という名をこそ挙げなかったものの、事実上それを行うことを告げる。トランペットもホルンもピストンのないナチュラルトランペットとナチュラルホルンを用いると発表され、実際に奏者に演奏させてみせる(モーツァルトが生きていた時代にはまだ今で言うナチュラルトランペットとナチュラルホルンしかなかった。楽器が改良されるのはベートーヴェンの死後間もなくのことである。ヴィオラの成田寛は「今日はガット弦を使っている」と言い、驚かせる。またビブラートについてモーツァルトの父親であるレオポルト・モーツァルトが、モーツァルトの生まれた1756年に『ヴァイオリン奏法』という教則本を上梓し、そこにビブラートのことが書かれていて、ピリオド・アプローチ=ノンビブラートではないことを伝える。ただ今のようにビブラートを多用することはなかったともいう。ここまで徹底しているともはやピリオド・アプローチではなく、ほぼ古楽器オーケストラの演奏会である。ヴァイオリン協奏曲第1番の独奏者である松田理奈も山形交響楽団の今日の演奏に理解を示し、オーケストラの奏法に合わせた独奏を行うという。それから飯森は自身が来年の4月より大阪を本拠地とする日本センチュリー交響楽団の首席指揮者を務めることを発表。誰のせいか明言はしなかったが、「音楽活動がしにくくなっている大阪で頑張っていきたい」と述べる。飯森と山形交響楽団は8年がかりの予定で、モーツァルトが書いた交響曲、番号もないものも含めて全47曲ほどを演奏し、全てを録音してCDとしてリリースする計画があることを公にし、今年が7年目であると教えてくれる。全ての録音を終えれば日本人指揮者および日本のオーケストラ初となる「モーツァルト交響曲全集」となるはずだ。最後に、終演後、お客さん全員に山形のサクランボがプレゼントされるということを告げる。大サービスである。

ヴァイオリン両翼、コントラバスが最後列に横に並ぶ(山形交響楽団は中編成のオーケストラなのでコントラバス奏者は3名のみである)古典配置。ティンパニは上手奥に配置され、古典配置の中でも最も古いスタイルの配置である。

 

交響曲第16番。第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリンともに6名という編成。弦楽器はほぼノンビブラート奏法であり、小編成ということもあって、オーケストラが出す音は小さめ。だが、そこは世界屈指の音響と讃えられるザ・シンフォニーホール。音は小さくともちゃんと聞こえる。演奏時間約13分という小さな交響曲であるが、飯森と山形交響楽団は小さいながらも愛らしい曲として演奏する。山形交響楽団の弦の音はモダン楽器が普通に出す音よりも音色が濃い。

 

松田理奈をソリストに迎えてのヴァイオリン協奏曲第1番。
松田理奈は才色兼備の新進ヴァイオリニスト。1985年生まれと若く、ルックスも日本人ヴァイオリン奏者の中でトップレベルとあって、これから更に人気が出そうな逸材である。横浜生まれ。東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校から桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに進み、ドイツのニュルンベルク音楽大学に編入学。2007年に大学を首席で卒業後、同大学院に進学。ここも首席で卒業する。2001年に第10回日本モーツァルト音楽コンクールヴァイオリン部門で1位を獲得。同コンクールのヴァイオリン部門最年少での1位だった。2004年、第73回日本音楽コンクールでも1位に輝く。また今年度の新日鉄住金音楽賞を受賞している。国内外の多くのプロオーケストラと共演(ただし、海外の有名オーケストラとの共演はまだない)。ビクターエンタテインメントからCDも数点発売されているが、いずれも高い評価を受けている。超絶技巧が要求されるイザイの作品が十八番。

私が松田の実演に接するのは初めてであるが、とにかく動きの大きいヴァイオリニストである。ヴァイオリン(ジローラモ・アマティの名器を貸与されたと飯森がプレトークで告げていた)をあらゆる方角に向け、時には一歩踏み出し、屈んだかと思うと、一気に上半身を起こして海老ぞりになりながら弾いたりする。メカニックは極めて優秀である。演奏は情熱的。ピリオド・アプローチについてだが、ビブラートは用いることが多かった。ただビブラートの間にノンビブラートの音が挟まれ、その一音だけが光り輝いて聞こえるといったような独特の音楽性が発揮されていた。なお、ソリストは暗譜で演奏するのが一般的であるが、今日は通常とは違うスタイルでの演奏ということで、見開きの楽譜1枚のみを見ての演奏であった。「見て」といったが、譜面に書かれているのは要所要所だけのようで、譜面を見ずに演奏している時間の方が多い。「ブラーヴァ!」に値するほどではなかったが高水準の演奏であった。山形交響楽団も充実した伴奏を聴かせる(弦楽奏者がビブラートをかける回数は交響曲第16番よりも多かった)。

松田はアンコールとしてクライスラーの「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」より“アレグロ”を演奏。超絶技巧で聴く者を圧倒する。これは「ブラーヴァ!」に相応しい出来であった。

 

後半。
交響曲第23番。演奏時間約9分の小品。3つの楽章が切れ目なく演奏される交響曲であるが、快活な演奏が繰り広げられる。

 

本日唯一のポピュラー曲、交響曲第35番「ハフナー」。密度の高い演奏であった。ヴァイオリン奏者は第一第二ともに8人という編成での演奏。テンポは第1楽章から第3楽章までは「ハフナー」の平均的演奏と同程度。第4楽章のみ速めである(ピリオドは、その時代の演奏会場は今のように反響の長いものではなく、貴族の邸宅などの音楽向けではない場所が多かったという事実から、「パウゼがあると音の間に本当に穴が開いてしまうおそれがあるので今よりも速めのテンポで演奏された」という説を採ることが多い)。中編成のガット弦によるオーケストラであるが、スケールは大きい。繰り返し記号であるが、第3楽章の終結部のみ採用。効果的であった。

本来ならアンコール演奏があってもいいはずだが、飯森が「今日は演奏者が普段とは違うニュアンスで演奏しており、疲れているのでアンコールはなしということにして下さい」と述べ、アンコール演奏なしでコンサートは終わった。

ホールホワイエでは山形県の名産品が発売されており、私は「さくらんぼサイダー五缶セット」と、飯森範親がプロディースした飲料「ラララ・ラ・フランス」(久保田利伸 with ナオミ・キャンベルの「LA・
LA・LA・LOVE SONG」が元ネタであると思われる)の五缶セットを買う。一人で五缶は飲む量としては多いので、なじみの店に行き、それぞれ一缶ずつ飲んで、残りはその店に進呈した。
「さくらんぼサイダー」はその辺で売っているサクランボ味の飲料とは格が違うと感じた。味が上品で自然であり、人工的な部分が全くといっていいほど無い。

「ラララ・ラ・フランス」は果汁20%のジュースであるが、味は濃厚。果汁100%のジュースもあるが、飯森が「子供さんなどには味が濃すぎるかな」と思って果汁を20%に抑えたのが「ラララ・ラ・フランス」である。果汁20%でこれほど味が濃いとなると果汁100%のジュースは想像を絶するほど美味であると思われる。ちなみに果汁100%のジュースは飛行機内で発売されているが、初回生産分が1ヶ月で完売。これは最速記録であるという。

聴衆全員に無料配布されたサクランボも勿論美味しかった。

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