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2013年9月 3日 (火)

これまでに観た映画より(55) 「RIVER」

DVDで日本映画「RIVER」を観る。廣木隆一監督作品。主演:蓮佛美沙子(れんぶつ・みさこ)。

秋葉原無差別殺傷事件で恋人を失い、そのショックが癒えぬまま、以後、3年間、週に一度、秋葉原に行く他は埼玉県にある家で引きこもりの生活を送っている、ひかり(蓮佛美沙子)。亡くなった恋人の健治は、電気オタクで、秋葉原に通っては部品を買い、電気製品は全て自分で作ってしまうような男だった。そうして秋葉原に電気の部品を買いに行った日に事件に遭って殺されてしまったのだ。ひかりの時間は秋葉原の事件があった日から進んではいない。

秋葉原の街をあてもなく歩いている時に、ひかりは、カメラマンの沙紀(中村麻美)に声を掛けられ、写真を撮ってもいいかと聞かれる。ひかりは承諾するが、毎週、秋葉原の街を、ひかりが歩いていることに気付いていた沙紀は何故いつも秋葉原の街を歩いているのかと訪ねる。ひかりは、「あの事件で恋人が亡くなったから」と答える。

高校時代の友人である、まりあ(尾高杏奈)に会う。まりあは、けばくなっていたが、AVに出ているのだという。女優になりたくてAVを踏み台にしようと思っているのだ。他の人は着実に前に進み始めていた。
ひかりは、録音の専門学校に通いたいという希望を母親(根岸季衣)に話す。

いつものように秋葉原にやって来た、ひかりは、ビルの屋上に上がる。以前、健治と一緒にこの場所に来たことがあるのだ。そこで、ひかりには若い男(柄本時生)に声を掛けられる。「自殺したいなら一緒に死ぬよ」と男は言う。ひかりにはそんなつもりはなかったが、男はそうやって人を自殺させてしまったことがあるようで、思い出して、急に気分が悪くなり、戻してしまう。ひかりは男の背をさする。

その後、秋葉原で、ひかりは、路上ライヴをやっている女性(Quinka,with aYawn)の歌に感銘を受け、神田川に架かる萬世橋の上に座って会話をする。メッセージのある歌を録音して届けることに生きがいを見出す、ひかり。

ある日、秋葉原の街を歩いている時に、メイド喫茶のスカウトマン(田口トモロヲ)に声を掛けられたひかりはメイド喫茶で働くことにする。メイド服を着て呼び込みをやるが、ひかりは上手くこなすことが出来ない。公園に座って先輩メイドの桃(菜葉菜)の話を聞く、ひかり。裏表のある世界とその世界でしっかり生きている桃の姿にたじろいだひかりは結局、半日だけでメイド喫茶を辞めてしまう。別れる際にスカウトマンは、「人間は何もしないのが一番苦しい。だから目的地を探して生きている。目的地に着いて、また何もしない状態になったら次の目的地を探す」と言った。

秋葉原から急に離れたくなって駆け出す、ひかり。そこで、秋葉原のガード下で暮らす佑二(中村ユウキチ)とぶつかる。ひかりは、健治のこをと知らないかと佑二に尋ねる。佑二は知らないと言ったが、ひかりは佑二と共に、ガード下で暮らす外国人達とも話をする。ひかりは佑二に「ずっと家にいると月日の感覚が薄れ、その他の感覚も鈍くなり、何が現実なのかわからなくなる」と告げる。佑二は秋葉原の電気街の店頭のテレビに映った被災した東北の街の映像を見て、「あれが現実だ」という。佑二は東北の生まれ育ちだったが、両親と不和になり、家を飛び出して、秋葉原でホームレスをしているのだという。お金が貯まったら飲食店を開きたいという夢も持っていた。一端、別れて沙紀の個展に向かったひかりだが、再び佑二に会うために駆け出す。佑二に、ひかりは追いついた。ひかりは、佑二もまた現実を見ていないのではないかと言う。確かに佑二も被災した生まれ故郷に帰ってはいなかった。縁を切っていたのだ。別れ際、佑二は実は健治のこと知っていると言った。佑二が語る健治の特長も健治そのものだった。どうして教えてくれなかったのかと、ひかりは言うが、佑二は「いきなり、『こういう人知りませんか』と話しかけてくる変な女に本当のことを言う奴なんていないだろう」と告げる。ひかりは、健治とは一緒に船に乗るという約束をしていたと佑二に言う。健治が生きていたという証を知っている男とやっと出会えたのだ。
佑二は東北の被災地に向かい、ひかりは神田川を走る遊覧船の中で、この世界で生きていくと誓う。

冒頭の電車内のシーンに続き、ひかりが秋葉原を歩くシーンがあるのだが、延々と長回しをする。エキストラを使ってのロケではなく、平日にそのまま撮ったものなので、カメラを見ていく人もいるがそれには一切構わず、カメラは回り続ける。これほど長い時間、カメラを回すという映画も珍しい。ひかりが、ガードレールの上に腰掛けたところで、カメラマンの沙紀に声を掛けられ、やり取りをするのだが、これもカット割りは一切なしの長回しで撮り続ける。こういう導入部というのも面白い。更に、ひかりが走るシーンではカメラをわざとぶれさせたり(王家衛の演出を想起させる)、東北の東日本大震災被災地に佑二が帰るシーンでもセリフ一切なしの長回しが行われる。ラストシーンも、夜の船の中でひかりが短いセリフを一言いうだけの長回しの手法が採られる。
また、ひかりと佑二の最後の会話のシーンで、ひかりの顔のアップだけを映し、佑二の姿を全く撮らないことで、ひかりの顔と内面の変化を見せるという手法も上手いと思う。

淡々とした描写による映画であり、ドラマティックなことはほとんど起きない。
秋葉原無差別殺傷事件をモチーフにした「RIVER」という映画が撮られるというニュースを知り、主題歌が「ムーンリバー」だと知ったとき、タイトルの「RIVER」は、鴨長明の『方丈記』の冒頭、「行く川の流れは絶えずして、(しかも)元の水のあらず」を意識したものだろうと思ったのだが、特典映像の廣木隆一監督へのインタビューで、廣木監督はやはりそのことを口にしていた。「無常」の世の中で人々はみな生きている。「ムーンリバー」の歌詞に出てくる“Drifters”として。

敢えてドラマティックな出来事を起こさないことで、また「死」そのものを描かず「空」とすることで、観る者の胸に「生」と「死」の意味と、「無常観」というほど大袈裟ではないが、確かなものなど何もない「流れ」の中に個々が存在する「姿」のありようと浮遊感を、じんわりと訴えてくる真に日本的な良い映画だと思った。蓮佛美沙子の抑えた演技も良い。これからが楽しみな女優さんである。

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