« コンサートの記(100) パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団来日公演2011京都 | トップページ | 観劇感想精選(100) 野村萬斎演出 三島由紀夫「サド侯爵夫人」 »

2013年9月11日 (水)

観劇感想精選(99) ドミニク・ブラン一人芝居 マルグリット・デュラス「苦悩」

2011年2月19日 京都芸術劇場春秋座(京都造形芸術大学内)にて観劇

午後4時より、京都芸術劇場春秋座で、マルグリット・デュラス作の舞台「苦悩」を観る。原作はマルグリット・デュラスの小説で、それに演出のパトリス・シェローが手を加えたものをテキストとして用いた、ドミニク・ブランによる一人芝居(一人語り)である。フランス原語、日本語字幕付きでの上演。上演時間は約80分。

マルグリット・デュラスの作品は、私は二十歳の頃に集中して読んでいる。「ヴィオルヌの犯罪」、「ユダヤ人の家」など舞台を小説化したものが面白かった。それがつい昨日のことのように思えるのに、今や私も36歳である(観劇当時)。

春秋座の幕は中仕切りなどを含めて全て取り払われており、ガランとした巨大な空間が広がっている。上手側に奥に向かって長いテーブルがあり、その右手に椅子があって、開場時から役者であるドミニク・ブランが背後を向いて腰掛けている。下手側には椅子が七つ、手前から奥に向かって並んでいる。

芝居は主人公(原作では役名はイニシャルのMのみとされているようだ。この作品はデュラスの実体験に基づいているとされているので〈あくまでも「されている」である。おそらくは大半がフィクションである〉、MはMargueriteのMだろう)が、二冊のノートの話を始めるところから始まる。ノートにはびっしりと記述が書き込まれているのだが、主人公にはそれを書いたという記憶はない。だが、筆跡は明らかに主人公のものだし、書かれている内容も主人公が経験したことだ。

1945年4月。フランスを占領していたナチス・ドイツが連合国の猛反撃に遭い、撤退を始めた頃の話が始まる。主人公は、ロベール・Lという男と結婚しているのだが、ロベール・Lはユダヤ人であるため、強制収容所に送られており、殺されているのかも知れない。主人公はロベール・Lの生死の知らせを苦悩しながら待ち続けている。主人公にはDという親しい男性がいて、Dとも頻繁に会っている。

主人公は、ジャーナリストとしての活動も続けており、「自由」という名の非公式新聞を発行している。「自由」は被収容者の名簿を載せているのだが、情報を得るのに苦労している。そして、手に入れた被就労者の名簿の中にロベール・Lの名前はない。

ロベール・Lが15日前に死んだのではないかという情報を得て、ロベールの最後を想像して苦しむ主人公。

ナチス・ドイツはユダヤ人を強制収容所に送り、ガス室で殺している。ロベールもそうして死んだのではないかと。

同じ頃、シャルル・ド・ゴール将軍(首相。のちの第五共和制初代大統領)は戦勝の祝いのスピーチを流しているが、主人公は、今も生死がわからない被収容者のことがド・ゴールの頭にないといって非難する。

そして、戦争という罪を作り出すほど、人間は罪深い存在なのだと認めることにする。

その後、、フランソワ・ミッテラン(のちのフランス第五共和制第4代大統領)から主人公に電話が来て、「ロベール・Lは生きていて、今、ダッハウにいる」と知らされる。ロベール・Lの元に向かうと、ロベールは生きてはいたものの、戦争で負傷して変わり果てた姿となっていた。

ロベール・Lは負傷が重いので、主人公は食事を摂らせるのをやめる。食事をさせたら、ロベールの体は壊れてしまうと思われたからだ。その後、柔らかなスープを飲めるようになるが、17日もの間、緑色の奇妙な物体を排泄するようになる。人間の体をこれほどおかしくしてしまう戦争の悲惨さ! 18日目に、ロベール・Lが「お腹が空いた」と語るところで舞台は幕となる。原作では物語は更に続き、主人公はロベール・Lと離婚して、Dと再婚することになるのだという。

待つということを主題とした作品で、マルグリット・デュラスが脚本を手掛けた映画「かくも長き不在」を連想させるところがある。そして戦争の悲惨さと人間の残酷さを訴え、自分もそうした人間の中の一人なのだと認識するという重いテーマも持っている。

私はフランス語が全くわからないので、ドミニク・ブランの台詞回しの巧拙は判断できないのだが、立ち居振る舞いは堂々としており、細やかな仕草などを見せるので、俳優としてのレベルは高いのだろう。

春秋座のガランとした空間も(空間プランは演出のパトリス・シェローによるもの)、主人公の孤独や苦悩の象徴として効果的であったように思う。

終演後に、京都造形芸術大学舞台芸術センター所長の渡邊守章氏と、主演女優のドミニク・ブラン、通訳の多賀茂氏(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)によるポストパフォーマンストークが春秋座のホワイエにて行われる。渡邊氏は、まず演出家のパトリス・シェローに関する話から入り、それからデュラスがアルコール中毒でマスコミとよく喧嘩をしていた、敵も多いタイプの女性であったことが紹介される。ドミニク・プランは「自分はデュラスを演じるのではなく、あくまでも作品の登場人物を演じた」と語り、役作りのために、1945年頃のことが書かれた本を沢山読んだという話を披露。また、パトリス・シェローが常に舞台に上がって、役者の間近で演出をつけるタイプの演出家であることが渡邊氏とドミニク・ブランの口から語られた。

|

« コンサートの記(100) パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団来日公演2011京都 | トップページ | 観劇感想精選(100) 野村萬斎演出 三島由紀夫「サド侯爵夫人」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/58172687

この記事へのトラックバック一覧です: 観劇感想精選(99) ドミニク・ブラン一人芝居 マルグリット・デュラス「苦悩」:

« コンサートの記(100) パーヴォ・ヤルヴィ指揮パリ管弦楽団来日公演2011京都 | トップページ | 観劇感想精選(100) 野村萬斎演出 三島由紀夫「サド侯爵夫人」 »