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2013年10月16日 (水)

コンサートの記(102) 矢崎彦太郎指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団第249回定期演奏会

2013年7月18日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、ザ・シンフォニーホールで、関西フィルハーモニー管弦楽団の第249回定期公演を聴く。今日の指揮者は、日本人の指揮者としては珍しいフランス音楽のスペシャリスト、矢崎彦太郎。オール・フランス・プログラムである。

矢崎彦太郎は、上智大学で数学を学んだ後、東京藝術大学の指揮科に再入学したという経歴を持つ。音楽と数学の関連の深さは指摘されており、指揮者では、二人とも故人だが、エルネスト・アンセルメやジャン=フランソワ・パイヤールなどが指揮者であると同時に数学者でもあった。クセナキスのように数学の理論を音楽に持ち込んだ作曲家もいる。

矢崎のコンクール歴はブザンソン国際指揮者コンクール入賞だけであり、これまで有名オーケストラのシェフになったという経歴も持たず、録音も少ないが、フランス政府から「芸術文化勲章シュヴァリエ」と「オフィシエ勲章」を受勲している。

本格的な指揮者デビューは、1975年にイギリスのボーンマス交響楽団を指揮した時で、1979年から現在までパリ在住。日本デビューはパリに本拠を定めた後であった。

矢崎彦太郎指揮関西フィルハーモニー管弦楽団第249回定期演奏会

 

曲目は、前半が、共にプーランク作品で、バレエ音楽「牝鹿」組曲と、「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲」(オルガン独奏:青木早希。ティンパニ独演は関西フィルの首席ティンパニ奏者、エリック・パケラ)。プーランクは今年が没後50年に当たり、それを記念してのプログラムである。

後半は、ショーソンの交響曲変ロ短調。フランクの交響曲ニ短調と共に、フランスを代表する交響曲であるが(フランクは正確にはベルギー・ドイツ語圏の出身でパリで活動した作曲家である)、演奏機会はフランクのそれに比べると少ない。ということで貴重な演奏会である。

関西フィルは、開演前に指揮者がプレトークを行うのが恒例であるが、今回は矢崎はプレトークではなく、後半開始前の休憩時間を利用してトークを行った。矢崎は長い白髪に眼鏡がトレードマークであったが、レーシックを行ったのか、今日は眼鏡をせず、前半はポケットサイズのスコアを見ながらの指揮であった。眼鏡を掛けていない矢崎彦太郎は、尾高忠明にそっくりである(尾高さんも眼鏡の愛用者であったが、レーシックを受けて、今では眼鏡なしで活動している)。

アメリカ式現代配置での演奏。


プーランクの「牝鹿」。実際には若い女性達を讃美するバレエ曲で、牝鹿を描いたものではない。「牝鹿」は「可愛い女の子」を指すフランスにおけるスラングであるという。

関西フィルハーモニー管弦楽団は、あっさりとした演奏をするオーケストラで、ドイツものだと物足りない時もあるが、フランスものの場合は、重厚さに欠けるという欠点がマイナスにはならない。
「パリのモーツァルト」とも呼ばれたフランシス・プーランクは、フランス六人組(ミヨー、オネゲル、デュレ、オーリック、タイユフェール、そしてプーランク)の中で一番のメロディーメーカー。作風はエスプリ・クルトワに富んでおり、いかにもパリの作曲家が書いたと思われるような、洒脱で時にユーモラスで、とにかく愛嬌のある音楽を書く。

「牝鹿」は、矢崎のキビキビとした音楽作りと、金管奏者の音色の美しさに魅せられる。矢崎のリズム感は抜群で、これならフランス音楽が一番得意であってもおかしくはない。弦は例によって大人しめであるが、いつもよりは輝かしい音を奏でる。

オルガン、ティンパニと弦楽器のための協奏曲。オルガン独奏の青木早希は、東京藝大オルガン科を卒業し、同大学院に進むが、在学中にフランスのサンモール国立音楽院に移籍。その後、カン国立地方音楽院教授のエルウァン・プラドに師事(個別に指導して貰ったのか、カン国立地方音楽院の学生になって師事したのかは、書かれていないのでわからない)。2006年にグレナダ国際オルガンコンクールで優勝。翌年のフランスのフローレンツ国際オルガンコンクールでも覇者となる。2008年には、シャルトル国際オルガンコンクールで、第1位、聴衆賞、ガストン・リテーズ賞の三賞を独占。現在もフランス在住で、カン市ピエール教会と聖アンドレ教会のオルガニストとして活動している他、サルロー地方音楽院とフレール地方音楽院で後進の指導にも当たっているという。

ザ・シンフォニーホールのパイプオルガンは音も良い。青木の独奏も優れたもので、出てくる音は力強く、華麗である。

プーランクは、弦楽器よりも管楽器の方を遙かに好んだ作曲家で、今日のように管楽器が登場しないオーケストラ作品は大変珍しい。関西フィルの弦楽器群はやや薄手ではあるものの、彩り豊かな演奏を展開。ティンパニを叩く、エリック・パケラも好演であった。

 

後半、ショーソンの交響曲変ロ短調。
矢崎は演奏開始前に一人で舞台に出てきて、マイク片手に、ショーソンについて語る。ショーソンは、44歳の若さで亡くなっているが、妻を駅まで迎えにいくために、娘を乗せて自分で漕いでいた自転車が横転し、頭を強打。打ち所が悪く、帰らぬ人となってしまった。ショーソンは、矢崎曰く「運動神経が未発達」な人であり、そのため運動自体が嫌いになり、肥満体であったという。
ショーソンも、矢崎同様、最初から音楽の学校を選んだわけではなく、まず法学を学び、弁護士の資格を取得してからパリ音楽院に入学して、マスネやフランクに作曲を師事したという経歴を持つ。法学部に通っていながら音楽家になったという人物は少なくなく、親から音楽家になることを反対されたので法学を学んだが、結局は自分のやりたい音楽の道を選んだというケースには、指揮者のカール・ベームやクリストフ・フォン・ドホナーニ、作曲家のシベリウスなどがいる。ただ弁護士資格を持った音楽家というのは珍しい。

師であるフランクの交響曲を意識した作品で、非常に格好いい曲である。矢崎の指揮は弦と管のバランスが絶妙。金管はここでも絶好調だ。弦楽群も大健闘である。第2楽章には、フルートとクラリネットが会話を交わすように、交互に短い旋律を演奏する場面があるのだが、関西フィルのフルート、クラリネットともに技術は高く、印象に残る場面であった。第3楽章もキレがあり、フランスものの演奏のお手本となるような、洒脱な演奏が展開される。演奏後、矢崎は長い間、手を下ろさなかったが、下ろした瞬間に、大きな拍手とブラボーの嵐が矢崎を讃える。

矢崎は、最後にオーケストラメンバー全員に立つように命じたが、奏者達は敬意を表して立ち上がろうとはせず、矢崎一人が喝采を浴びる。そうしたことも当たり前と思えるようなハイレベルの演奏会であった。関西フィルの演奏会には何度も接しているが、今日がこれまでで一番の出来かも知れない。

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