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2013年10月24日 (木)

コンサートの記(104) ヘルベルト・ブロムシュテット指揮NHK交響楽団大阪公演2013

2013年9月14日 大阪・谷町のNHK大阪ホールにて

午後4時30分から、大阪・谷町にあるNHK大阪ホールで、NHK交響楽団演奏会大阪公演を聴く。指揮はN響名誉指揮者のヘルベルト・ブロムシュテット。高校時代から好きな指揮者であったが、大学2年生の時分に、初めて生でNHK交響楽団の演奏会を聴いた時の指揮者がブロムシュテットであった。1995年9月のNHKホール。土曜日、午後2時15分開演の定期演奏会。メインは、ムソルグスキー作曲、ラヴェル編曲の組曲「展覧会の絵」で、それまでも、またそれ以降も、ブロムシュテット指揮NHK交響楽団の演奏を超える「展覧会の絵」には、CDでもコンサートでも出会ったことはない。ということもあって大好きで、プロフィールの「好きな指揮者」でも一番最初に名前を挙げている。京都コンサートホールでブロムシュテット指揮の演奏会を聴くチャンスは二度あったのだが、いずれも病気で会場に行けず、悔しい思いをした。

関西に来てから、関西でブロムシュテット指揮の演奏会を聴くのは二度目。前回はザ・シンフォニーホールでのチェコ・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会でブロムシュテットが指揮台に立ち、ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」とブラームスの交響曲第1番を演奏している。透明感のある美演だったことを覚えている。私自身はちょっと心に迷いがあった時期だったのだが、ブロムシュテット指揮の演奏を聴いて「そんな小さなことで悩むことはない」と吹っ切ることが出来た。ありがたい指揮者である。

ヘルベルト・ブロムシュテットは、1927年、アメリカ生まれ、スウェーデン育ち。スウェーデン人ではあるが、現在はアメリカ国籍の指揮者である。両親はスウェーデン人の宣教師で、宣教先のアメリカ合衆国マサチューセッツ州スプリングフィールドで生を受けている。両親は幼いブロムシュテットを連れて程なくスウェーデンに帰国。ブロムシュテットはストックホルム王立音楽院とウプサラ大学(北欧最古の歴史を持つスウェーデンの名門大学である)に学び、更に渡米してニューヨークのジュリアード音楽院でも指揮を専攻している。タングルウッドではレナード・バーンスタインに師事し、1953年にクーセヴィツキー賞を受賞。翌1954年にロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団を指揮してデビュー。特筆すべきは、2~3年で首席指揮者をコロコロ変えるシュターツカペレ・ドレスデンで、10年間という長期政権を保持したことである。この時代に、当時の東ドイツの国営レーベルであったドイツ・シャルプラッテンと日本のDENONレーベルとの協力により、「ベートーヴェン交響曲全集」などを完成させて、日本でも知名度を上げている(ヘルベルト・ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデンのドイツ・シャルプラッテンのCDは必ず海外盤を買って聴いて欲しい。日本盤は音の美しさばかりを追求したマスタリングであるため、ブロムシュテットの情熱的な音楽作りがまるで伝わってこない)。

1985年から1995年までサンフランシスコ交響楽団(サンフランシスコ・シンフォニー)の音楽監督を務め、国内外の多くの音楽専門誌から決定盤とまでいわれた「ニールセン交響曲全集」(DECCA)を完成。更に「シベリウス交響曲全集」や、グリーグの劇附随音楽「ペール・ギュント」より抜粋(いずれもDECCA)などの、北欧音楽の名盤を作成している。

1996年からはハンブルクの北ドイツ放送交響楽団(NDR交響楽団)の音楽監督をしていたが、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(「楽長、楽団長」という意味。音楽監督のことをライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は「上司ではなく同士」と認識しているため、このような独特の呼び方をする)に推薦されたため、任期を全うすることなく北ドイツ放送交響楽団を去り、ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスターに1998年に就任、2005年まで務めた。

NHK交響楽団との初共演は1981年で、1985年に名誉指揮者の称号を贈られている。楽団によって名誉指揮者の意味は異なるが、NHK交響楽団の名誉指揮者はN響と特別な関係にある外国人指揮者という意味で用いられている。名誉指揮者の称号を保持している人間が亡くなると、当人の名誉指揮者の称号は返上される。
私が、NHK交響楽団の演奏会に通い始めた頃には、名誉指揮者は4人いたが、オトマール・スウィトナーは病気で、もうN響のステージに立つことはなく(病名は死後にパーキンソン病であったと明かされた)、ホルスト・シュタインは実演に接する機会がないまま1999年に事実上の引退状態となり、2008年に他界。ウォルフガング・サヴァリッシュ指揮のN響演奏は、ロベルト・シューマンの交響曲第3番「ライン」がメインの定期演奏会を聴くことが出来た(素晴らしかった)が、彼も高齢を理由に2006年に引退を宣言、今年2月に逝去した。ということで、N響の名誉指揮者は現在、ブロムシュテットただ一人である(他に、名誉音楽監督にシャルル・デュトワ、桂冠指揮者にウラディーミル・アシュケナージ、名誉客演指揮者にアンドレ・プレヴィンがいる。2015年からはパーヴォ・ヤルヴィが首席指揮者に就任する予定。日本人指揮者の場合は名誉指揮者ではなく正指揮者と呼ばれ、現在は外山雄三、尾高忠明の二人体制である)。

今年、86歳というブロムシュテット。同じ1927年生まれのサー・コリン・デイヴィスが今年の4月に鬼籍に入り、1920年代生まれの指揮者も徐々に少なくなってきている。

オール・ブラームス・プログラム。東京では、ブロムシュテットが指揮するNHK交響楽団の9月定期演奏会において、「ブラームス交響曲全曲演奏会」が進行中であり、月に3度ある定期演奏会のうちの1つと同じプログラムを携えて大阪に乗り込んできた。前半が、大学祝典序曲、ハイドンの主題による変奏曲。後半が交響曲第1番である。

5月に東京・溜池のサントリーホールで聴いて以来のN響。メンバーの顔ぶれも私が定期会員だった頃とは大分変わった。昨年のN響大阪演奏会の時には演奏していた首席オーボエ奏者の茂木大輔が5月に続いて今日も降り番だったので、知っている顔は、コンサートマスターの堀正文、フォアシュピーラーの酒井敏彦、第2ヴァイオリン次席奏者の大林修子、首席チェロ奏者の藤森亮一、首席フルート奏者の神田寛明の5名だけである。

ヴァイオリン両翼、チェロは舞台下手側、コントラバスが舞台下手奥という古典配置を採用している。

NHK大阪ホールは比較的新しいホールだが、多目的ホールであり、クラシックの演奏会には余り向いていない。ただ、今日の演奏は、響きの悪さをものともしない力強さがN響にはあった。

1曲目である大学祝典序曲からエンジン全開。弦楽奏者達は、おそらくリハーサルでブロムシュテットからいつもより強く弾くよう言われたのであろう。ボウイングが普段より機敏であり、特にチェロは体を揺すりながらの激しい演奏を展開する。強い音を出しても濁らないのは流石N響であり、ブロムシュテットの端正な指揮もプラスに働いているのだろう。

「穏健派」と思われがちなブロムシュテットであるが、実演を何度も聴いたことのある私からすると「どこが穏健派なんだ?」ということになる。今日も情熱の迸りが見えるような熱い音楽を作り出していた。小林研一郎のようにウンウン唸りながら大きな身振り手振りをする指揮者だけが情熱的というわけではないのである。

ハイドンの主題による変奏曲も、造形美の光る佳演。ブロムシュテットが楽曲分析(アナリーゼ)を丁寧に行ったためだと思われるが、聴いていて内容が非常にわかりやすい。そしてドイツものを演奏している時のN響はやはりスーパーオーケストラだ。

後半。交響曲第1番。前回聴いたブロムシュテット指揮の演奏会(前述のチェコ・フィルハーニー管弦楽団を指揮したもの)もメインはブラームスの交響曲第1番だったので、コンサートが始まる前は「出来れば違う曲が聴きたかった」と思っていたが、前半の出来を聴いて、「N響となら、チェコ・フィルの時とまた違ったブラ1が聴けるだろう」と期待が高まる。

演奏開始。非常に格好良い序奏でこの曲は始まるが、ブロムシュテットとN響は、遅からず速からず、強からず弱からずという理想的な演奏を聴かせる。弦も管もエッジがキリリと立っており、音は澄んでいて温かい。8分の6拍子であるが、実際に6拍子を振ると指揮者にとって大変な負担となるので、通分した4分の3拍子としてブロムシュテットは振っていた。

第2楽章の抒情美、第3楽章の軽快さも見事だったが、最終楽章は冒頭から堂々とした威容を見せ、まさに王道を音楽が歩んでいく。弦も管もティンパニも、時に思い切った強奏をする。これがブロムシュテットだ。

充実した演奏会であった。老いを微塵も感じさせないブロムシュテット。18年前に初めて生で見た時と比べて変わったのは髪の色ぐらいである。時は経ったが、彼の心は永遠に青年のままだ。

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