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2013年10月28日 (月)

コンサートの記(105) 大阪クラシック2013「大阪クラシック特別公演」&第71公演

2013年9月12日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後1時30分から大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、「大阪クラシック特別公演」を聴く。

「大阪クラシック ~街にあふれる音楽~」は、毎年9月に大阪市の各所で、クラシック音楽の演奏が行われるというイベント。企画、立案、プロデュースを手掛けるのは大阪フィルハーモニー交響楽団の現在は桂冠指揮者である大植英次。大植英次が大阪フィルの音楽監督時代に始めたもので、大阪フィルを始め、日本センチュリー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団という在阪4プロオーケストラと、大阪音楽大学の学生オーケストラのメンバーが参加。普段は商用に使われているスペースを使って室内楽などを演奏する。今年は9月8日にスタート。14日の土曜日までの一週間、「大阪クラシック」は続く。

「大阪クラシック」にオーケストラとして参加するのは大植英次指揮の大阪フィルハーモニー交響楽団だけだが(大阪音楽大学管弦楽団との合同コンサートを含む)、それは今日に関しては午後7時30分からの夜の部で行われ、午後1時30分から行われるのは、ピアノと室内楽のためのコンサートである。

指揮者として著名になった大植英次であるが、若い頃は指揮よりもピアノの演奏に定評のある音楽家であった。桐朋学園大学を二十歳で中退してアメリカに渡り、バークリー・ミュージック・センター(バークリー音楽大学)の指揮者課程で学んでいる時、学生指揮者は常にオーケストラを振れるわけではないのでピアノ相手に指揮の練習をすることが多いのだが、「Oueはとにかくピアノが上手い」というので、仲間の指揮に合わせてピアノを弾くことが多かったという。師であるレナード・バーンスタイン(愛称はレニー)に認められたのも、大植がピアノを弾いているのをたまたま聴いたレニーが、「この若者には本物の音楽性がある」と気づき、大植に声を掛けたのが最初である。ちなみに当時、レニーは一時的に鬚を蓄えており、大植は話しかけてきた鬚のおじさんがレニーだとは気付かずに手で追い払う仕草をしてしまい、後でそれがレニーだったと知って真っ青になったという。ニューイングランド音楽院に進むことになったのも、大植がピアノを弾いている時に、ニューイングランド音楽院の関係者がたまたま通りかかり、大植のピアノ演奏を聴いて、「ニューイングランド音楽院に来なさい。試験は今の演奏で合格だ」と言われたためである。

日本でも大植は、大フィルの東日本大震災チャリティーコンサートの時にモーツァルトのピアノ協奏曲の弾き振りなどを行っているが、私はそれは聴いていないので、大植のピアノを聴くのは初めてになる。

モーツァルトのピアノ協奏曲第21番ハ長調より第2楽章の弦楽五重奏とピアノ版と、ベートーヴェンの交響曲第5番のピアノ3台版の演奏。

大植がグレーのマントのようなものを羽織って登場し、マイク片手にスピーチを行う。ただ、大植英次というのはとにかく滑舌の悪い人で、マイクを使っているのに何を喋っているのか聴き取るのは困難だったりする。

モーツァルトのピアノ協奏曲第21番より第2楽章の弦楽五重奏を担当する若者を紹介する時に、大植は老眼鏡を掛けて読み上げる。ヴァイオリン:井前慶子&山田聖華、ヴィオラ:阪部慎太郎、チェロ:藤原昌太郎、コントラバス:三井脩平という編成である。

大植自身は手を使っての指揮は行わないが、ヴァイオリンの井前慶子とアイコンタクトを取るなど、顔での指揮は行っていた。若者の演奏だけに少し小さくまとまっていたがそれは仕方ない。健闘していると思った。
大植英次のピアノは素直なもので、いかにもモーツァルトといった愛らしさにも欠けていない。

演奏終了後、大植は、「この曲はスウェーデン映画で有名になった」と語り、私はてっきり「短くも美しく燃え」(スウェーデン映画の代表作的存在。ラストシーンを北野武が自作で真似ていることでも有名である)だと思ったのだが、大植の語るストーリーを聞くと、どうやら別の映画のようである。

ベートーヴェンの交響曲第5番の3台のピアノによる演奏であるが、ベートーヴェン自身の筆記による、初演の前のピアノ版の譜面をオーストリアから取り寄せての演奏だそうである。ベートーヴェンは楽譜の書字の汚い人で読みにくく、それが故に、最初の版元であるブライトコプフ版の他に、ベートーヴェン直筆の譜面から再考したベーレンライター版などが出版されているわけだが、ベートーヴェンは交響曲第5番の初演後に手を加えており、手を加えていない状態でのピアノ演奏を行うのは大植曰く「ベートーヴェン本人以来」なのではないかとのことだ。大植は「これからベートーヴェンの交響曲第6番を演奏します」と言い、初演の際はベートーヴェンの現在の交響曲第5番が交響曲第6番、現在の交響曲第6番「田園」が交響曲第5番「田園」として初演された経緯を話す。二つの交響曲は同じ日の同じ演奏会(舞台はアン・デア・ウィーン劇場)で初演されている。交響曲の番号が入れ替わったのは、大植によると「ベートーヴェンが、後で多く手を加えたものを第5番として出すことにしたのではないか」とのことだ。

ピアノを演奏するのは大植の他に、末岡修一郎、保屋野美和。大植は老眼鏡を掛けての演奏。譜めくり人が大植には二人、他の奏者には一人ずつ付く。

まず、顕著なのは、第1楽章と第2楽章のラストが、現在使われている版よりも長いということだ。初演後に、ベートーヴェンが「冗長である」と感じて削った可能性が高い。更に第4楽章で、普通は「タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン」と続く場面があるのだが、ここが「タッター、タッター、タッター、タッター、タッター、タッター、タッター、タッター、タッター、タッター」とジャジャジャジャンで応えるのではなく、同じ音型で応えている(ベーレンライター版ではこちらが採用されているが、ベーレンライター版の楽譜を使用している演奏でも、実際に「タッター、タッター」とやっているのはCDではデイヴィッド・ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏、生ではスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮NHK交響楽団の演奏しか聴いたことがない)。

大植を始めとするピアニストの腕も冴えており、学術的にも興味深い演奏であった。

大植英次は学生服のような出で立ちであるが、ビートルズの格好を真似たものらしい。更に大植はオノ・ヨーコからジョン・レノンが使用していたという眼鏡を貰っており、それを実際に掛けて見せたりする。

ビートルズはイギリスのバンドだというので、同じイギリスの作曲家であるホルストの「惑星」より“木星”の3台のピアノ版がアンコールで演奏される。良い演奏である。

更に大植は、末岡と保屋野に連弾で「ハンガリー舞曲」より第5番を演奏させる。大植本人は客席への拍手の指示係をしたり、一部ではピアノを弾いたりもする。

ラストは、大植英次によるピアノ独奏。レノン=マッカートニーの「イエスタデイ」(実際はポール・マッカートニーの作曲。ポールが寝ぼけてベットから転げ落ちた瞬間に全曲閃いた曲で、朝飯前に出来たことから、最初は「スクランブルエッグ」という借りタイトルが付けられた)。歌い崩しもあったが重厚な演奏であった。

アンコールも含めて上演時間約1時間のコンサート。そのためチケットも1000円と安めであった。

午後7時30分開演の、大植英次指揮大阪フィルハーモニー交響楽団による「大阪クラシック」第71公演。「永遠に語りつがれる愛の物語」というタイトルのコンサートで、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」“終曲”より、ワーグナーの歌劇「ローエングリン」第3幕より、ベルリオーズの劇的交響曲「ロメオとジュリエット」“ロメオただ一人”より、ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」第1幕前奏曲、レナード・バーンスタインの交響舞曲(シンフォニック・ダンス)「ウエストサイド物語」より“サムフェア”、チャイコフスキーの幻想的序曲「ロメオとジュリエット」より、というプログラム。

大植登場。ヒョウ柄のラインの入った黒服での登場である。後で行われた大植の解説によると、ベートーヴェンが大植が今着ているような服装で演奏を行っていたという。

大植がマイクで解説を行うが、やはり滑舌が悪いので、よく聴き取れない。「ド…が、ホール…、音…、驚いて、ステ…、キスをした」という感じで、逸話から「ドミンゴがザ・シンフォニーホールの音響に驚いてステージにキスをした」という意味だろうと脳内変換する必要がある。マイク台があるため、今日の大植は指揮棒を取ったり、置いたりしながらの指揮であった。

今日の演奏会は渡辺美穂がコンサートミストレスを務める。渡辺のコンサートミストレスで大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏を聴くのは、おそらく若手指揮者・山田和樹のザ・シンフォニーホールデビュー公演の時以来だろう。京都市交響楽団もヴァイオリンに女性奏者が多いが、最近は大阪フィルもヴァイオリンに女性奏者が多い。今日は男性奏者は第1バイオリンに二人、第2ヴァイオリンには一人だけで、あとは全て女性である。音楽系の学部や学科にそもそも女性が多いということもある。日本の場合は男がギターやベース、ドラムといったロック系以外の楽器を演奏していると「男らしくない」と取られる風潮がまだ残っているのかも知れない。

大植は、音楽同士が様々な影響を受けて合っていることを解説する。オフレコの話もある。これは会場に来た人だけが聞ける特典である。

ワーグナーの歌劇「ローエングリン」第3幕より、とのみあったが、大植は「世界中で間違いなく一番演奏されている曲」と言って振り出す。「ワーグナーの結婚行進曲」であった。確かに世界一演奏されている曲であろう。花嫁がバージンロードを歩くときは必ずといっていいほどこの曲が流れる。

ワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲は、ワーグナー自身が楽劇の終末部分を繋げた、楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と“愛の死”として演奏されることが多いが、今回は前奏曲だけが演奏される。

アンコールでは、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲が演奏される。大植は「世界最高の演奏です」と演奏前に語るが、確かに傑出した出来だ。ただ、そもそも「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を演奏したり録音したりしている名指揮者は少ない。ヘルベルト・フォン・カラヤンは指揮しているが録音が古いということで、大植の言うとおり、世界最高と言っても過言ではない。

続いて、歌劇「ローエングリン」第3幕の前奏曲。大植はラストはチャイコフスキーの「白鳥の湖」風に編曲したものを演奏した。

最後は、ステージ下手端に置かれて、演奏もされていたピアノが中央に運ばれ、大植がピアノでアンコール曲を弾くことになる。大植は「残念なことに、昨年から『星空コンサート』(注:大阪城公園西の丸庭園で毎年行われていた野外コンサート)が出来なくなってしまったんです。大阪しちょ…、ゴホッ、ゴホッ」と大植は咳き込み、「そこで一人『星空コンサート』を行いたいと思います」述べて、「『星に願いを』」とタイトルを言ってから演奏する。最初にチャイコフスキーの序曲「1812年」からを演奏して、そこから「星に願いを」が弾かれる。繊細で甘いピアノであった

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