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2013年12月26日 (木)

コンサートの記(115) 大阪フィルハーモニー交響楽団スペシャルライブ「吹奏楽meetsオーケストラ」2013

2013年11月29日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、ザ・シンフォニーホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団スペシャルライブ「吹奏楽meetsオーケストラ」を聴く。吹奏楽のために書かれた曲を管弦楽用に編曲したものや、吹奏楽でも良く演奏される曲をフィーチャーしたコンサート。指揮は下野竜也。司会・監修:丸谷明夫(大阪府立淀川工科高等学校名誉教師・吹奏楽部顧問。全日本吹奏楽連盟理事長)。「淀工」の略称で知られる淀川工科高等学校の吹奏楽部は全日本吹奏楽コンクールで何度も優勝している名門である。以前、テレビで、大植英次が淀川工科高等学校を訪ねた時の様子を流していた。その時、大植が風邪を引いていて声が余り出なかったのだが、淀工は憧れの学校であったということを述べていた。淀川工科高等学校の吹奏楽部を日本一と呼ばれるまでに鍛え上げたのが丸谷明夫である。

曲目は、保科洋の「風紋」(吹奏楽のための作品を作曲者自身がオーケストラ用に編曲)、ワーグナーの歌劇「ローエングリン」第2幕より“エルザの大聖堂への行列”、リードの「『オセロ』-シェイクスピアに基づく5つ場面による交響的描写」(管弦楽曲版)、イベールのフルート協奏曲(フルート独奏:瀬尾和紀)、J・S・バッハの管弦楽曲第3番より“アリア”(ストコフスキー編曲)、リヒャルト・シュトラウスの楽劇「サロメ:より“7つのベールの踊り”。

吹奏楽の作品をプロのオーケストラが演奏するということで、ザ・シンフォニーホールには高校の吹奏部員が大挙して押しかけている。高校生の演奏会鑑賞となるとマナーが問題になるのだが、高校生でも吹奏楽部員なら、全国大会やその予選で他の学校の演奏を聴いているので、マナーは心得ているだろうと推察する。実際、マナーに問題はなかった。京都の…、いや何でもない。

今日はステージ下手側の3階席。オーケストラと指揮者を見下ろす位置にある席である。残念ながら、ステージ上の役半分は見えない。ソリストは指揮者が指揮棒を右手に持つため、指揮棒を見やすく、且つ、指揮棒が自身に当たったり、下手すると刺さったりすることを避けるために指揮台横の下手側に経つので、イベールのフルート協奏曲を聴いているときにソリストの瀬尾和紀の姿はほとんど見えない。

下野竜也。頭頂部の髪が薄くなっていて驚く。「ああ、下野も、もうそんな年か」としみじみ思う。下野竜也というと日本の若手指揮者の代表格的存在であったが、今はもう山田和樹など、下野よりもずっと若い指揮者も台頭してきている。

保科洋の「風紋」。和のテイストから始まり、映画音楽風の曲調を経て、西洋のクラシックのイディオムへと近づいてくという格好いい曲である。下野竜也と丸谷明夫がマイクを手に話し、丸谷が作曲者である保科洋が会場に来ていることを告げる。保科がステージ上に呼ばれる。保科洋は「私は年寄りで、話すのは苦手なのだが」と前置きした後で、「曲が生まれ変わったような気がした。作曲した曲というのは自分の子供のようなもので、子供というのは親の言うことを聞かないものだが、この曲は良い方に親の言うことを聞かずに行ったように思えた」という風なことを語った。なお、丸谷によると、保科を演奏会に招こうと、色々試したが、電話も繋がらないし、なかなか保科がつかまらない。昨日になってようやく電話が繋がったので演奏会のことを話すと、保科は「ああ、行きますよ」と言ったそうである。保科は自身でネットを使って今日のチケットを自費で購入していたのだった。

丸谷は続いて、下野に今日のコンサートの趣旨について聞く。下野は、「自身も吹奏楽出身で、オーケストラの管楽器もほとんどが吹奏楽学部の出身だが、学校を卒業するとほとんどが音楽から離れてしまう。それが寂しいので、吹奏楽をオーケストラでやって、かつて吹奏楽部だった人にも聴きに来て貰いたい」と、今回の企画について話す。

オーケストラの団員というと、「お金持ちの子」というイメージがあるが、それが当てはまるのは弦楽器の奏者だけである。ヴァイオリンなどは、楽器もレッスン料も高額であり、幼い頃から訓練を始める必要があるため、裕福で音楽に理解のある家の子でないと、プロになるのは難しいという。一方、管楽器奏者は中学校の吹奏楽部からスタートする人が多い。楽器も学校持ちであり、お金はほとんどかからない。その中から本格的に管楽器をやりたいという人だけが音大に行ってプロになるというケースが多い。NHK交響楽団の首席オーボエ奏者である茂木大輔もエッセイでそのことに触れており、「弦楽器奏者と管楽器奏者とでは同じ楽団員ではあるが、やはりちょっと違う」そうである。管楽器でも最初からソリストになりたい場合や、サックスなど、吹奏楽部ではそれほど活躍出来ない楽器の場合は、吹奏楽部に入部するのではなく、プライベートレッスンを受けるのが普通である。

ワーグナーの歌劇「ローエングリン」第2幕より“エルザの大聖堂への行列”は、オペラにおいてオーケストラが演奏する曲であるが、オーケストラコンサートのプログラムにこの曲が載るのは珍しい。だが、吹奏楽では良く取り上げられる曲なのだそうである。

ワーグナーの曲をワーグナーにあった音とスタイルで演奏する下野と大阪フィル。その作品に合った音を出すというのは難しいことだが、やはり下野はそうした描き分けが上手い。

下野の指揮はオーソドックスなもので、きちんと拍を振り、欲しい音量や各楽器の表情などは腕の振る早さや動かし方で示す。

リードの「『オセロ』-シェイクスピアに基づく5つの場面による交響的描写」。5つの曲からなるが、吹奏楽では4つを演奏するのが慣例だそうで、丸谷明夫は「4曲目が終わっても拍手はしないで下さい。静かな曲(第5曲のこと)になって、それが終わってから拍手して下さい」と事前に伝える。

「『オセロ』-シェイクスピアに基づく5つの場面による交響的素描」であるが、「ジャジャジャジャン」というベートーヴェンの俗にいう「運命動機(運命主題)」が多用されている。意味があるのかないのかはわからないが、「オセロ」をテーマにしたのなら、運命動機が鳴ったとしても別に変ではない。

後半、イベールのフルート協奏曲。最終楽章では変拍子が出てくるのだが、その場面での下野の棒捌きは鮮やかである。フルート独奏の瀬尾和紀は1974年生まれ。私と同い年である。
第1楽章は華やかな曲であり、瀬尾和紀の吹くフルートがくるくる回るメリーゴーランドのように洒脱で楽しげな世界を生み出す。
第2楽章は弦楽器が奏でる音のさざ波の上を、フルートの船が帆走している風景が見えるかのようである。穏やかで詩情に溢れている。
変拍子が印象的な第3楽章はあたかもサーカスのよう。指揮者を含めたステージ上にいる全員が曲芸のような演奏を繰り広げた。

喝采を浴びた瀬尾は、丸谷から生い立ちを聞かれる。指揮者の下野竜也は鹿児島県出身であるが、瀬尾和紀は福岡県出身であり、共に九州人である。瀬尾は父親もフルート演奏家であったそうで、10歳ぐらいからフルートの練習を始めたが、吹奏楽部に入ったことはなく、高校の途中でパリに留学してフルートを専攻、現在もパリ在住である。丸谷は「じゃ、高校中退なのね」と身も蓋もないことを言ってしまい。瀬尾も「はっきりいうとそういうことになります」と苦笑いしながら答える。高校1年の頃からフランス語のレッスンを始めていたそうで、丸谷は「フランス語を覚えるのは大変でしょう? うちのところなんか日本語を伝えるのも大変」などという。丸谷が更に「パリには世界中からフルートの上手い人が集まってくるんでしょう。その中で勝ち上がるのも大変でしょう」と聞くと、瀬尾はやはり大変なことは多かったと振り返った。
吹奏楽部は文化部の中の体育部と呼ばれ、腹筋などの身体訓練(肉体練習)を行うことで知られるが、瀬尾はパリでレッスンを受ける中で「腹筋が強いと強い音が出るという話も聞いたことがない」と、中学で吹奏楽部に入らなかったのは、練習のあり方に疑問を抱いたからだと仄めかしたように取れる発言をした(部活動が行われる最大の理由は、有り余る若いエネルギーが暴力や犯罪に向かうのを防ぐため、スポーツなどに打ち込ませるためである)。
瀬尾が「自宅はパリにあるが、向こうと日本とで一年の半分ずつを過ごす」と話すと、丸谷は「羨ましい。そういう話をしてみたい」と言って笑いを取る。

J・S・バッハの管弦楽組曲第3番より“アリア”。レオポルド・ストコフスキーによる編曲版での演奏である。ヴァイオリン独奏用編曲では、ヴァイオリンの一番低い音を出すG線のみを使って弾くものが有名であり、これに由来する「G線上のアリア」という名でも有名である。

下野は、客席の高校生達に、ディズニーの「ファンタジア」という映画を御覧になったことがありますか? と問いかけ。あの映画の演奏をしているのがストコフスキーですと言う。レオポルド・ストコフスキーはスラヴ系ではあるがイギリス人である。ノンタクトの美しい指揮姿やオーケストラの現代配置の発案、また映画「オーケストラの少女」への出演などで知られ、バッハのオルガン曲などを始めとする多くの作品を編曲した名アレンジャーとしても有名である。

吹奏楽器をフィーチャーしたコンサートなので管楽器のない弦楽器のみの演奏を聴いて貰いたいというのが下野の意図である。

ストコフスキーの編曲は、通常は伴奏に徹するチェロに主旋律を受け持たせていること。通常の楽譜による演奏は崇高な印象を受けるが、ストコフスキー版はそれよりも優しさが勝っているように感じた。

最後の曲である、リヒャルト・シュトラウスの楽劇「サロメ」より“7つのベールの踊り”。これも吹奏楽では有名なそうで、下野も内容については知らなかったが、よく聴いてきたという。その内容についてであるが、下野は「教育上よろしくないので」と言い、会場からは爆笑が起こる。下野は高校生達に、「興味があったらネットで検索してみて下さい」と語りかける。ちなみに、リヒャルト・シュトラウスは自身の楽曲を演奏するために特注で楽器を作ったそうで、それはヘッケルフォーンという名前だという。オーボエの仲間で、かなり低い音を出すため、大きくて長い楽器である。下野は「iPhoneじゃありませんよ」といって客席を笑わせ、「アイという会社が作ったら、アイフォンという名前になったと思いますが、ヘッケルという会社が作ったのでヘッケルフォーンになったんです」と語る。
下野と大フィルの演奏は扇情的で迫力十分。妖しさの表出も巧みである。

演奏を終えた下野は丸山から「迫力がありますね」などと語りかけられ、「はい、長い前座が終わりました。いよいよ本番です。丸山明夫先生の指揮。曲目はヴォーン・ウィリアムズの『イギリス民謡組曲マーチ』です」と言って退場してしまう。

ということで、丸山明夫指揮大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏で、ヴォーン・ウィリアムズの「イギリス民謡組曲マーチ」。
丸山は非常にわかりやすい指揮をする。プロのオーケストラ団員も指揮はわかりやすい方がいいと考えるのは当然だが、丸山が普段相手にしているのは高校生である。プロの指揮者より更にわかりやすい指揮をしないと吹奏楽部のメンバーがついて来られないのだ。わかりやすく無駄のない動きを長い間試行錯誤しながら追求した結果出来上がったのが今の指揮スタイルなのであろう。

下野は「吹奏楽meetsオーケストラ」について、「来年もやりたいけれど、まだ出来るかわからない」と述べる。下野竜也は来年4月から、京都市交響楽団の常任客演指揮者という不可思議な名前のポストに就任するのである。下野竜也は広上淳一の一番弟子と言っても良い存在であり、京響も広上も下野にいつでも禅譲出来るよう不思議な名称の称号を作って布石を打ったのだと思われる。
ただ、指揮者の世界では、あるオーケストラのトップはその街もしくは近隣の街にある他のオーケストラの指揮台には立たないという暗黙の了解がある。東京なら東京のあるオーケストラのトップに君臨する指揮者は他の東京のオーケストラには客演しない。NHK交響楽団の名誉音楽監督であるシャルル・デュトワが東京都交響楽団の演奏会の指揮台に立つことは考えられない。関西も同様で、広上淳一も以前は、大阪フィルハーモニー交響楽団や関西フィルハーモニー管弦楽団、大阪シンフォニカー交響楽団(現・大阪交響楽団)にも客演していたが、京都市交響楽団の常任指揮者に就任してからは、京都市交響楽団と京都市ジュニアオーケストラ以外の関西のオーケストラは指揮していない。以前は毎年のように京都市交響楽団に客演していた京都市出身の佐渡裕も兵庫芸術文化センター管弦楽団の音楽監督に就任してからは、一度も京都市交響楽団を指揮していない。大植英次に至っては関西どころか大阪フィル以外の日本のオーケストラは指揮しなくなったほどである(桂冠指揮者となってからは東京のオーケストラなども積極的に指揮している)。
ただ、沼尻竜典などは、日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者であっても、京都市交響楽団を指揮している。日本センチュリー交響楽団は沼尻の上に音楽監督として小泉和裕がいた(今シーズン一杯で退任予定。後任は飯森範親に決定している)ため、トップではないのでOKとなったのであろう。
常任客演指揮者というのがどういうポストなのかは前例がないので、客演はOKなのか、定期演奏会以外ならOKなのか、それすらわからないのである。

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