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2013年12月31日 (火)

コンサートの記(119) 川瀬賢太郎指揮大阪交響楽団特別演奏会「感動の第九」2013

2013年12月27日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、ザ・シンフォニーホールで、大阪交響楽団特別演奏会「感動の第九」を聴く。タクトを託されたのは、今年29歳という若手、川瀬賢太郎。
川瀬家太郎は、1984年、東京生まれ。私立八王子高校芸術コースを経て、憧れの存在だった広上淳一が指揮専攻の教授を務める東京音楽大学に進学。指揮を広上の他に、汐澤安彦、チョン・ミョンフンらに師事。2006年の東京国際音楽コンクール指揮者部門(通称:東京国際指揮者コンクール)で1位なしの2位に輝き、注目を集めるようになる。2014年4月からは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任する予定である。

広上の弟子だけに、広上が常任指揮者を務める京都市交響楽団にも何度も客演しており、私は2010年の京響ニューイヤーコンサートで聴いているが、川瀬の指揮に接するのはおそらくそれ以来で、思った以上に長い月日が流れた。

川瀬は、山田和樹、三ツ橋敬子と共に、誰言うともなく「日本人若手指揮者三羽烏」の一人ということになっている。この世代では他に、川瀬と同じ東京音大出身の船橋洋介などもいるが前記三人に比べると活動が目立っているとは言えない。

ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」は、欧米では難曲中の難曲とされ、滅多に演奏されることはない。「何十年もオーケストラの定期会員になっているんだけど、ベートーヴェンの第九だけは聴いたことがなくってね」という人は欧米には相当数いるといわれる。というわけで、欧米では二十代の指揮者がプロオーケストラで第九を振るなどということはまず考えられないのだが、第九が年末の風物詩のようになっている日本ではそれが実現するのである。とはいえ、私も二十代の指揮者がプロオーケストラを振った第九というものを聴くのは初めてである。

第九の前にラヴェルのピアノ協奏曲が演奏される。ソリストは、大渕雅子。大渕は東京藝術大学附属音楽高等学校を卒業したが、大学は京都市立芸術大学音楽学部に進み、同大学院を修了している。シュトゥットガルト音楽大学に留学し、卒業後は同大学の講師も務める。日本での活動の拠点はやはり関西に置いているようだが、主に室内楽や歌曲のピアノ奏者として活動しており、ピアノ協奏曲のソリストになることは余り多くないようである。
立体感のあるピアノを奏でる人で、癖のない、ストレートな音楽を作る。ジャジーな第1楽章、伊福部昭が「ゴジラ」テーマの元ネタとしたともいわれる快活な第3楽章の演奏はいずれも見事。エスプリ・クルトワの粋を集めたような第2楽章はもう少しロマンティックに弾いた方が映えるかも知れない。

在阪プロオーケストラの中で、台所事情が最も苦しいといわれる大阪交響楽団。ベテランでも年収200万円台の人がいるそうで、弦楽器なら100%実家がお金持ちだからまだいいが、管楽器は中学校の吹奏楽部に入り、そこで嵌まってという人が多いので、音楽教室の講師や家庭教師などを兼任しないとやっていけない人もいると思われる。

歴史が浅いということもあり、薄味の演奏も多い大阪交響楽団であるが、川瀬はやはり実力者。非常に洗練された響きを引き出す。

本編であるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」。ソプラノ:老田裕子、メゾ・ソプラノ:谷田奈央(たにだ・なお)、テノール:二塚直紀(にづか・なおき)、バリトン:黒田まさき。全員、関西にある音楽大学や芸術大学、音楽学部で学んだ人達である。合唱は大阪交響楽団感動の第九特別合唱団2013(合唱指揮:中村貴志)。

川瀬の指揮は、以前、京響の演奏で聴いた時も統率力が若干弱い感じを受けたのだが、今日も第1楽章ではオーケストラドライブが軌道に乗らず、丁寧ではあるがスケールが余り拡がらない。
ピリオドであるが、弦楽のビブラートを控えめにし、ティンパニも硬い音を出すものを採用している、の二点だけ。大阪交響楽団はもともとパワー不足なので、ピリオドを徹底させると力感に欠ける演奏になってしまう。

第2楽章に入ると、川瀬の指揮の良さが十全に発揮される。緻密な音作りは、師である広上淳一指揮する第九同様、神秘的で奥行きのある宇宙的な響きを生み出す。神秘感の表出に関しては、今年の広上淳一指揮岡山フィルハーモニック管弦楽団の演奏をも上回る。
ちなみに第2楽章のラストは力強く終わるのが慣例、というより、そうした演奏しか聴いたことがないのだが、川瀬は柔らかめの音でフワッとした浮遊感を持って終わらせる。当然、このような演奏を聴くのは初めてであり、独自の楽譜を使っているのかどうか気になる(第4楽章でピッコロがかなり聞こえることから、ベーレンライター版がベースだと思われるが)。

川瀬の指揮姿であるが、広上の弟子だけあって(つまりレナード・バーンスタインの孫弟子となる)動きはかなり大きい。顔の表情は豊かすぎるほどである。川瀬の顔を見ていて「誰かに似てるなあ」と思ったが、すぐにテンダラーの浜本広晃に似ているのだと気付く。浜本も表情豊かな漫才やコントをする人である。

第3楽章も歌心満点で、美しい。ただ、ホルンが良いところで音を外しまくったのが惜しかった(ホルンは、「キークス(音外し)」という言葉が代名詞になるほど演奏の難しい楽器である)。

第4楽章は川瀬の若さが裏目に出て、オーケストラと合唱が二度ほど微妙にずれるなど万全とはいかなかったが、それでも立派な音楽となる。看板に偽りなしの感動の第九であった。

ラストに「蛍の光」の演奏と合唱が行われる。歌詞は第1番のみが歌われ、続きはヴォカリーズ(スキャット)となる。照明もそれに合わせて暗くなり、しみじみとした雰囲気を演出した。

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