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2014年1月22日 (水)

観劇感想精選(110) 「ロスト・イン・ヨンカーズ」

2013年11月20日 大阪の森ノ宮ピロティホールにて観劇

午後7時から、大阪の森ノ宮ピロティホールで、ニール・サイモン作の舞台「ロスト・イン・ヨンカーズ」を観る。上演用台本と演出はニール・サイモンをこよなく愛する三谷幸喜。三谷は自らが主宰していた劇団に東京サンシャインボーイズと、ニール・サイモンの代表作である「サンシャイン・ボーイズ」から頂戴した名前を付けるほどのニール・サイモン好きである。

出演は、中谷美紀、松岡昌宏、小林隆、浅利陽介、入江甚儀(いりえ・じんぎ)、長野里美、草笛光子。

2011年に「猟銃」で初舞台を踏み、同じ人物が同じ舞台で演じ分けているとは思えないほどの圧倒的な演技力で三人の女性を演じ、観る者をKOした中谷美紀の二度目となる舞台出演ということでも注目される。

1942年、ニューヨーク郊外のヨンカーズ地区にある半地下の一室(居間)が舞台である。ここにはミセス・カーニッツ(草笛光子)という厳格な性格の老婆が、娘でおつむの弱いベラ(中谷美紀)という女性と暮らしている。
物語は、ここにジェイ(愛称で、本名はジェイコブ。浅利陽介)とアーティー(やはり愛称で、本名はアーサー。入江甚儀)というミセス・カーニッツの二人の孫が、父親のエディ(小林隆)に連れられてやって来ているところから始まる。エディは奥の部屋でミセス・カーニッツと話しており、居間にはジェイとアーティーしかいない。二人は、祖母であるミセス・カーニッツの怖ろしさや、ベラが頭の働きが弱く、高校を1年で中退したこと、叔父のルイ(松岡昌宏)はワイルドな性格で今は裏社会で生きており、ギャングの手下(金の運び屋)をしていること、叔母のガート(愛称で、本名はハムレットの母親と同じガートルード。長野里美)は上手く呼吸が出来ないことなどを話す。いずれもお祖母さんであるミセス・カーニッツの躾が厳しすぎたためだとジェイは語る。ベラの頭が弱いのはお祖母さんに杖で頭を叩かれまくったからだとも言う(ミセス・カーニッツが杖で人の頭を叩く癖があるのは事実だが、実際は、ベラは5歳の時に猩紅熱に罹り、後遺症で俗にいう「知恵遅れ」になってしまったのである)。

エディはどうやらニューヨークのブロンクス地区に住んでいるらしいのだが、エディの妻が癌で亡くなり、その間にかかった治療費と入院費が莫大なものになってしまったため、巨額の負債を追い、高利貸し(劇中でエディは、「シャイロック」という言葉を使う。演劇人には当たり前の言葉のためか、パンフレットの用語集にも「シャイロック」は載っていないが、「シャイロック」とはシェイクスピアの『ベニスの商人』に出てくる悪徳高利貸しの名前である。ユダヤ人であるという設定で、ナチスのユダヤ人に対するネガティブキャンペーンにも用いられた)からも借りたため、普通に働いていたのでは返せる当てもない。そこで自宅を売り払い、戦時中(第二次世界大戦で、ドイツ、日本と交戦中である)であるため、高額の仕事がある南部に行くことに決めた。そこで、息子のジェイとアーティーを母親であるミセス・カーニッツの家に預けることにしたのだ。ミセス・カーニッツは店を経営しており、店舗は居間の上にある一階にあるようだ。そこでミセス・カーニッツとベラが働いている。
エディが選んだ高額の仕事とは、鉄くず拾い。戦時中であるため、砲弾に使う鉄が不足している。アメリカ南部ではそのために鉄くずを集める高額の仕事があるのだ。エディは、ジョージア州、ケンタッキー州、テキサス州(ヒューストンという具体的な地名が出てくる)などを回ることになる。

ベラが帰ってくる。映画を観てきたのだが、想像を絶する記憶力の悪さ。なんと自宅の場所も良く覚えていない。「ベラ叔母さんには方位磁石が必要だね」とジェイはアーティーに語る。

結局、ジェイとアーティーの二人はミセス・カーニッツの家で暮らすことになるのだが……

まずは何といっても中谷美紀の演技である。クールな性格の役を振られることの多い中谷美紀だが、今回はそれとは正反対のおつむが弱くキャピキャピした女性の役。これが怖ろしいほどに嵌まっている。何の予備知識もなしにこの「ロスト・イン・ヨンカーズ」を観た人はベラを演じているのが中谷美紀だと気付かないのではないかと思えるほどである。いくらプロの女優とはいえ、ここまで高い演技力を持つ人はそうそういるものではない。この人は本当に別格級の女優である(演技力が優れているだけでなく、実際にヨンカーズ地区を訪れるなど、入念な準備も怠らないようである)。

ワイルドな性格のルイを演じた松岡昌宏。ワイルドな性格の役は彼の十八番であるため、今回も上手い。また高い身体能力を生かし、しゃがんだ状態から足だけで立ち上がってみせたり(尻もちをつく人を録画して、逆回転で再生したように見える。普通の人にはまず無理な動きである。TOKIOはバンドであるが、もともとはバックダンサーであり、松岡はTOKIOの中でもダンスは上手い方である)と、動きにも尋常でないキレがある。

女帝のような性格のミセス・カーニッツ(実はカーニッツ一家はユダヤ系ドイツ移民であり、ドイツで迫害されてアメリカに渡り、アメリカでも差別対象で、エディ、ガートルード、ルイ、ベラ以外にも二人子供がいたが一人は幼くして、一人は12歳で早世したため、「強くなくては生きていけない」との思いから敢えて子ども達に厳しく接したのである)を演じた草笛光子も流石の貫禄である(草笛光子は1992年に「ヨンカーズ物語」というタイトルで「ロスト・イン・ヨンカーズ」が上演された時もミセス・カーニッツを演じているという)。

東京サンシャインボーイズのメンバーで、今も三谷作品の常連である小林隆も安定した演技で楽しめる(ちなみに、2024年に上演されるとされる、東京サンシャインボーイズの次回作「リア玉」の主演は小林隆になる予定である)。

若手二人の演技も良い(浅利陽介は身長が低いため、兄役なのにどうしても弟に見えてしまったが)。

三谷幸喜の演出であるが、キャリアのある人は各々に任せて、性格を掘り下げる作業だけを共に行う感じであるが、若手には細かく指示を出しているという印象を受ける。ただ、指示が細かすぎるようで、「いかにもアメリカ人に見えるように日本人が演技しています」という裏が見えてしまい、そこだけが気になった。だが、ニール・サイモンの筆の冴えもあって、上演自体は素晴らしい。中谷美紀の超人的とも思える情感表出力も相まって、感動的な舞台となった。

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