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2014年2月 8日 (土)

観劇感想精選(111) 上川隆也主演「真田十勇士」

2013年10月3日 梅田芸術劇場メインホールにて観劇

午後6時30分から、梅田芸術劇場メインホールで、「真田十勇士」を観る。上川隆也主演舞台。脚本:中島かずき、演出:宮田慶子、音楽:井上鑑featuring吉田兄弟、主題歌:中島みゆき「月はそこにいる」(当舞台のための書き下ろし)。出演は上川隆也の他に、柳下大(やなぎした・とも)、倉科カナ、葛山信吾(かつらやま・しんご)、山口馬木也(やまぐち・まきや)、松田賢二、渡部秀(わたなべ・しゅう)、相馬圭祐、小須田康人、栗根まこと、植本潤、小林正寛、俊藤光利、佐藤銀平、三津谷亮、賀来千香子、里見浩太朗等。

来年、2014年は大坂冬の陣から400年、再来年の2015年は大坂夏の陣から400年という節目の年であるため、大坂の陣関連の演劇なども増えており、「真田十勇士」も今回の上演とは別の、マキノノゾミの本による中村勘九郎主演の舞台「真田十勇士」が来年の頭に上演される予定である。

今回の「真田十勇士」は、日本一殺陣が美しいといわれる上川隆也を主役の真田幸村に据え、脇をタンブリングが得意な柳下大(猿飛佐助)、仮面ライダーに出演していた松田賢二(由利鎌之助)、といったアクションが得意な俳優が固めてる。勿論、アクションシーンはふんだんにあり、柳下大はバック転を決めるし、筧十蔵役の三津谷亮は、一輪車の世界大会で二度優勝していることを買われての起用で、八百屋舞台(斜めになった舞台)での一輪車の操縦をこなす。セリフなしの俳優も、トンボ切りが出来るなど、身体能力の高い者が選ばれている。演出こそ、いのうえひでのりではないが、中島かずきの本とあって、歌舞伎的要素、劇画的色彩は濃い。

25分の途中休憩を含めて、上演時間約3時間20分の大作である。

まず駿府(駿河府中。現在の静岡市)での場面から始まる。

将軍職を退き、大御所として駿府城に隠居している徳川家康(里見浩太朗)が鷹狩りを行うというので、近隣の農民を家康の部下が追い払っている。上の方では、家康を偵察するために駿府に来た甲賀忍者の由利鎌之助(松田賢二)や猿飛佐助(柳下大)がそれを見ていたのだが、家康の手下のやり方が余りにも乱暴だというので打ってかかる。そこへ通りかかったのは霧隠才蔵(葛山信吾)らの一党。由利や猿飛は霧隠を徳川方だと思うが、実際の徳川勢は他にいた。服部半蔵(山口馬木也)率いる伊賀忍者部隊である。霧隠、由利、猿飛らに斬りかかる伊賀忍者衆。凄まじい斬り合いとなるが、悠然と現れた真田左衛門佐(さえもんのすけ)信繁(上川隆也)が伊賀者を次々に倒していく。

真田氏は信繁の父親である昌幸の時代に関ヶ原の合戦の際に、徳川秀忠を上田城に引き寄せて散々に打ち破り、秀忠の関ヶ原遅参の原因を作った家である。信繁も「真田は詭計謀略の家だ」と明言する。信繁の兄、真田信之は徳川方についていたが、昌幸と信繁は西軍の味方をしたということで、紀州九度山に蟄居の身となっていた(親子や兄弟が敵同士になるのは家を存続させるための知恵である。一家全員が一方に味方すると、負けた場合、お家取り潰しとなってしまうため、敢えて両方に分かれてどちらが勝っても家だけは存続が可能なようにしたのである)。だが、信繁は兄の信之が家康の配下なので真田家は安泰だとして、豊臣方に付き蟄居の命を破って徳川と戦うことに決める。実は、この場に信繁が居合わせたのは、家康が武勇で知られた信繁を味方に引き入れようとしているのを知り、直々に家康に会って断るためだった。先程の見事な剣捌きを見ていた家康は信繁の腕を誉め、兄同様、自分の家臣になるよう勧めるが、信繁は徳川の臣下にはならないことを宣言し、真田信之の弟ではなく、一介の浪人であるとして、名を真田信繁から真田幸村に改める(真田信繁がなぜ真田幸村と呼ばれるようになったかについての一つの解釈がここで示される)。

霧隠才蔵、根津甚八(同名俳優の芸名の由来となった人物である。演じるのは栗根まこと。なお、俳優の根津甚八は重度の鬱病のため、俳優を引退。劇作や演出のみに専念としているが、鬱はかなり重いようで事実上の活動停止に追い込まれている)、穴山小介(玉城玲央)、三好晴海入道(みよし・せいかいにゅうどう。小林正寛)、三好伊佐入道(佐藤銀平)、筧十蔵(三津谷亮)からなる真田の一党に、最初は反感を覚えていた由利と猿飛であったが、幸村の決然とした態度表明に感銘を受け、真田幸村の配下として大坂城への入城を決める。

大坂城では、淀の方(賀来千香子)が、幸村の到着が遅いとイライラしている。豊臣秀頼(相馬圭祐)は母親をなだめるが、淀の方は、「幸村が裏切ったに違いない」として、幸村の嫡男である真田大助(渡部秀)とお付きの望月六郎(植本潤)に死罪を申し渡す。そこへ現れた幸村。「我々が豊臣を裏切ることは絶対にない」と断言し、淀の方を安心させる。

淀の方と秀頼が奥に帰った後で、大坂城籠城ではなく、打って出て、京、そして瀬田(現在の滋賀県大津市瀬田)まで進軍すべきだと進言する幸村であったが、大野修理亮(しゅうりのすけ)治長(通称は修理。小須田康人)と、大野治房(俊藤光利)の兄弟に、にべもなく却下される。大野修理は、「大坂城には天下の半分の財物、兵糧がある。籠城が一番。戦いが二年、三年と続けば、先に蓄えが尽きるのは攻める方だ」と籠城有利を説く。

幸村の息子である真田大助、そして望月六郎が加わり、真田十勇士となった幸村の一軍は豊臣家を守ることを固く誓う。望月六郎役の植本潤(強面の俳優であるが、今回は真逆のコミカルな役を振られている)は、「舞台となった大阪で演じられる幸せ、大阪公演初日でございまする」と言って、観客からの拍手を受ける。

秀頼の寝所に猿飛佐助は忍び込む。眠っている秀頼の顔を窺ってからすぐに帰るつもりだったのだが、秀頼に見つかってしまう(秀頼の人物像については諸説あるが、今回の劇では比較的英明な人物として描かれている)。佐助は捕縛され、斬られそうになるが、幸村は「秀頼様の寝所に忍び込むよう命じたのは私だ」と言い、「単に仕える人の顔を確認させるだけだった」と述べるが、淀の方はそれでは納得しない。そこで幸村は、大坂城の絵図面を持ってこさせ、「大坂城は東、西、北から攻めるのはいずれも難い。よって敵は南方から攻めてくる。そこで、城の南に真田丸という出丸を作り、そこを死守することで、疑いを晴らして御覧にいれましょう」と言う。淀の方は「出丸を楯に裏切るやも知れぬ」と反論するが、幸村は「ならば真田丸の後ろに鉄砲をお並べ下さい。我々が裏切ったならば、鉄砲を打ちかければ良いまでのこと」と続け、淀の方を黙らせる。実際は、真田丸は佐助を救うために幸村が咄嗟に思いついた方便であったが、言葉通り真田丸を造営し、そこで徳川方を迎え撃つことにする。

真田丸の普請が始まり、真田十勇士も工事に参加する。真田丸の近くの飯屋が十勇士達の憩いの場だ。飯屋を切り盛りするのはハナ(倉科カナ)という若い女性。猿飛佐助はハナに恋心を抱く。だが、ハナの正体は徳川方のくノ一である花風であった。服部半蔵の家臣であり、真田幸村を偵察するために飯屋の主を殺害して乗っ取ったのである。

真田丸での戦いは連戦連勝。徳川方を寄せ付けないが、家康は大砲を天守目掛けて撃ちかける。大野修理は家康から和議の申し出があったことを告げ、今は和議する時ではないと判断し、幸村も同調するが、大砲の弾が天守に当たる。幸村は「流石は家康。大坂城の一番弱い場所を狙って撃ってきた。淀の方様の心だ」と嘆息する。大砲に怯えた淀の方は急いで和議を結ぶことに決める。

和議の条件は堀を埋めること。裸城となった大坂城に籠城しても勝ち目はない。

幸村は家康から寺で対面しようと誘われ、これを受ける。佐助が密かに幸村を守るべく後をつけるが、花風に阻まれる。「なぜ、あなたのような女性が忍びなどやっているのですか?」と佐助は問うが、花風は「私は服部半蔵様の家臣。命令を果たすだけ」と情を挟まぬ態度を取る。

家康と対面した幸村は秀吉を評価し、なぜ豊臣氏を討たねばならぬのかと家康に尋ねるが、家康は、「左衛門佐殿、いや今は幸村殿と呼んだ方が適当かな。秀吉は確かに天下を統一したが、乱世の雄だ。これから100年、200年先まで続く平和の世を築ける男ではない。所詮一代限り」と秀吉を評し、「徳川は違う。太平の世を築けるのは徳川だけだ」と断言する。幸村は家康が自分と違って遠い未来までをも見通して布石を打っていることに驚き、「豊臣の血は乱世に戻る原因となる。絶たねばならぬ。私は初代だ。子々孫々に到るまで続く徳川幕府を作る。すでに息子達を要所要所に配した。わしが死んでも徳川幕府はビクともしない。幸村殿、これよりもよい方策をお持ちかな?」と聞かれて二の句が継げず、理屈では家康に完敗したことを知るのだった。

家康の人物に自分が遠く及ばないことを知ったショックから、大坂城に戻って酒に溺れてばかりいた幸村であったが、ある事実を知り、それに命を懸けることに決め、再び精気を取り戻す。大坂夏の陣、そして幸村の最後の戦いが始まる……

いのうえひでのりほどではないが、宮田慶子もダイナミックな演出をする。中島の脚本も傍白や独り言を多用するなど外連味があり、歌舞伎の本のようであるが、宮田は歌舞伎の様式に走ることはなく、あくまでも外連味たっぷりの現代演劇として演出する。

上川隆也は現役トップクラスの舞台俳優であり、天才的な演技を見せるが、あくまで理詰めで役を作り上げるタイプであり、自然に演じて結果としてそれが上手くいくのではなく、細かい動作まで全て計算して演じている。今日も声をいつもより野太くするなど、幸村を益荒男として体現する。見ていて非常に勉強になる俳優である。「上川隆也の舞台を見ずして俳優や演技を語るなかれ」。

上川の殺陣の美しさには定評があるが、今日は刀だけでなく、槍による殺陣も披露。刀や槍を振り回している時も絵になるが、何といっても映えるのは構えている時や相手を斬った後で間を取る時、つまり止めている際のポースである。流れることなく、ビシッと決まる。

他の俳優で注目すべきは、倉科カナの演技。朝の連続テレビ小説のヒロインに選ばれる前。つまり、無名の時に兵庫県立芸術文化センター中ホールでヒロインを演じていた(それが初舞台であり初演技であった)芝居を観たことがあるが、あの下手くそだった女優がここまで絵になる女優になるとはと、素直に嬉しかった。可憐なハナと怜悧な花風の演じ分けが見事である。

殺陣の迫力は圧倒的であり(映画やテレビではここまでの迫力を出すことは出来ない)、舞台の醍醐味である。役者達もキレのある殺陣で舞台を盛り上げる。津軽三味線の吉田兄弟を起用して本当のチャンバラにした音楽もセンスがあるし、演出の殺陣の見せ方も上手い。

終演後、観客はオールスタンディングで役者達を讃える。拍手に応えて、俳優陣は何度も登場。非常にエキサイティングな舞台であった。

※後記:日本語が乱れた箇所があったので訂正しました。なお、上川隆也主演の舞台「真田十勇士」は映像収録が行われ、2014年3月にDVDが発売される予定です(2014/02/17)。

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