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2014年4月16日 (水)

観劇感想精選(116) Doris&Orega Collection Vol.7 「ブラザーブラザー」

2013年12月13日 大阪・西梅田のサンケイホールブリーゼにて観劇

午後7時から、サンケイホールブリーゼで、Doris&Orega Collection Vol.7 「ブラザーブラザー」を観る。

Doris&Oregaは西村雅彦主演の舞台を上演し続けている演劇ユニット。劇作と演出は公演毎に異なることが多い。劇作家には余り恵まれておらず、「役者は良かったんだけど本がねえ」という公演が続いたりする。そのため、劇場に行くまでは出来が良いのか悪いのか見当が全く付かない。

今回も主演はもちろん西村雅彦。作:川上徹也、演出:中谷直哉(テレビマンユニオン)。西村雅彦以外の出演者は、飯島直子、長谷川朝晴、本多力(ほんだ・ちから。ヨーロッパ企画)、上地春奈(うえち・はるな。上地というのは沖縄系の苗字であり、基本的には「うえち」と読む。上地春奈も沖縄県出身である。上地雄輔の「かみじ」という苗字は、関東では「上」を「かみ」と読むことが多いため、沖縄の人が関東に移り住んだ際に読み方を変えたものである可能性が高い)、安田顕(TEAM NACS)、デビット伊東。

作を手掛けた川上徹也は大阪大学を出ている人で、ラジオドラマやビジネス書執筆などで活躍しているという。西村雅彦が主演したラジオドラマの脚本を手掛けたのが縁で、今回、作家として起用されたようである。

テレビマンユニオン所属の中谷直哉は舞台ではなく、放送の演出家として活躍しており、「アメリカ横断ウルトラクイズ」の演出家でもあるという。

 

サンケイホールブリーゼの入るビル、ブリーゼブリーゼ(洒落ではなく、本当にこういう名前なのである)入り口には、次回公演のポスターが貼ってあることが多いのだが、「ブラザーブラザー」のポスターは貼られていない。貼られているのは竹中直人と倉持裕による演劇ユニットである「直人と倉持の会」の第1回公演のポスターである。そういえば、長澤まさみ主演舞台である「ライクドロシー」を観たとき、ブリーゼブリーゼの前には「ライクドロシー」の公演ポスターが貼られており、その日が「ライクドロシー」の大阪公演最終日だったので、ビルから出るときには、直人と倉持の会のポスターに貼り替えられていたことを思い出した。

今回の公演は満席であり、ポスターを貼る必要がなかったのかも知れないし、敢えて貼らなかったとも考えられる。

小さな開業医、阿久津医院の居間が舞台である。院長は不治の病に罹り、思い出作りのために夫婦で世界一周の豪華客船ツアーに出たのだが、上海に立ち寄った際、ふぐ料理を食べたのが災いし、夫婦揃って食中毒で命を落としてしまう。

院長夫婦の四十九日、若い女性(上地春奈)が阿久津医院を訪れる、若い女性は一枚の葉書を手にしていた。20年前に失踪した外彦(そとひこ。西村雅彦)からのものだ。外彦から葉書には「兄、四十九日に帰る。家族全員で待て」という「電報のような」文章が書かれていた。外彦は阿久津医院を継ぐべく、医大を卒業して研修医をしていたのだが、「ドーハの悲劇」として知られる、1993年に行われた日本対イラク戦の試合を見て、「俺はこのまま医者になっていいのか」と疑問を持ち、「しばらく留守にする。行く先を探すべからず」と書き置きをして消息を絶ってしまったのだ。

阿久津家には、外彦の他に、産子(「うぶこ」と読む。飯島直子)、内地(ないち。安田顕)、小児(しょうじ。長谷川朝晴)という子供がいたが、全員、医師にはなっておらず、跡継ぎはいない。後を継ぐはずだった外彦は医大を出て、医師国家試験にも合格し、医師になることは確実だったのに自らレールを降りてしまった。

阿久津医院の医院長はどうしても子供に跡を継いで貰いたかったようで、芸大志望(関東では芸大というと、東京芸大のことである。私も関東の人間であるため、京都造形芸術大学を出ているが、出身校を「芸大」ということはない。京都市内では「造形」、他では「京都造形」と呼んでいる)であった内地に、医学部に進むよう諭す。外彦が失踪した時に内地は高校2年生。当然、何の準備もしていないのに合格出来るほど医学部は易しくはなく、二浪したが「箸にも棒にもかから」ず、結局、経済学部に進み、サラリーマンになった(ただ、医大の合格者は三浪が平均とするデータもあり、二浪で諦めるのは早かったかも知れない)。産子は元々、勉強が苦手であり、特に医学部に進むには必修である数学が不得手で、xとyが公式に出てきた時点で「意味不明」と放り出してしまった。バブル世代であり、いわゆるイケイケギャルとしてワンレンボディコンでディスコで踊っていたという。今はその頃に出会った勅使河原(デビット伊東)と結婚している。阿久津医院の医院長は勅使河原にも「医師にならないか」と勧めたそうである。

末弟である小児は、小学校の頃から不登校になり、中学生になると登校拒否で学校に全く顔を出さなくなり、30歳を過ぎた今もなお引きこもりの状態である。

阿久津家の一員でない男がなぜかいる。小児の友人を名乗る松井俊矢(本多力)である。松井は、自らの名前を「松は木偏に公務員の公、井は井の頭公園の井、俊は俊足の俊、矢はアベノミクスの三本の矢の矢」と説明する。松井というのはありふれた苗字で「普通の松井です」というと大体通じる。松居さんや待井さんなどが説明を要すべき苗字のはずである。松井はことある毎に自分の名前の漢字を説明しようとする。そう、彼は説明役であり、狂言回しなのだ。狂言回しはもう一人いる。デビット伊東が演じる勅使河原で、勅使河原と松井が二人で医院長の四十九日の法要の様子を物語る場面は、狂言回しの場ともいうべきものになっている。狂言回しの場はアメリカの作家による公演ではたまに見るが、日本人の作家による演劇でこうしたことが行われるのは珍しい。だが、劇が進むに従い、敢えてそうした手法を取っているのだろうと思えるようになる。

サンケイホールブリーゼは特に大きな劇場ではないが、PAを使っての公演である。PAはかなり効果的に使われる。西村雅彦演じる外彦は実はブラジルに渡っており、コーヒー農園を経営していた。阿久津家を訪れた上地春奈演じる若い女性は外彦の妻で、日系ブラジル人のマリアであった。当然、ポルトガル語を話す(「オーラ」という言葉に反応した時点で、スペイン系かポルトガル系かのどちらかであることがわかり、その後、「オブリガード」と話したため、ポルトガル語であることがわかる。スペイン語では「オブリガード」ではなく「グラシアス」になる)。外彦は20年もブラジルに住んでいたので、ずっと日本育ちの日本人とは異なるはずである。そこで、誰でも思いつくのとは逆の方法でそれを表現する。外彦は異様に滑舌が良いのである。演劇をよく知っている方には「劇団四季の俳優ような話し方」と書くと通じやすいかも知れない。PAを使うことでそれがより明瞭になる。他の俳優はナチュラルにセリフを発声しているため、外彦演じる西村雅彦だけが、「ちょっと変わった人」として浮かび上がる。敢えて浮いた演技をするのである。この劇では、他の俳優も大袈裟な演技をわざとしたりするなど、日本の演劇でありながらバタ臭いものに仕上がっている。狙ってやっているのだと思われる。「バタ臭い」という言葉は産子演じる飯島直子が勅使河原を演じるデビット伊東に向かって、「あなたバタ臭い顔してるんだから(外国語が)わかるでしょ」と言うセリフに登場する。

西村雅彦は演技を毎回変えているようであり、オーバーアクションの演技に他の俳優が思わず笑ったりしている。西村雅彦の良いところは、オーバーアクションをしても違和感を余り感じないということである。他の俳優がオーバーアクションをすると作り物の演技に見えるが、西村がやると自然に見える。

客席には女性が多かったが、男性で観に来ている方の中には、私のような音楽好きも多いと思われる。西村雅彦の出世作である「マエストロ」という深夜ドラマを見ていた人である。当時、フジテレビの深夜枠は実験的な番組を多く放送しており、1993年から1994年にかけては音楽をフィーチャーしたドラマ「マエストロ」やバラエティ「音楽の正体」、「音効さん」などが放送されている。「マエストロ」での西村雅彦は指揮者役。役名はそのままマエストロ。本名は不明である。マエストロはイタリア語で、「巨匠」といった意味である。当時、西村雅彦は三谷幸喜が主宰してる東京サンシャインボーイズの看板俳優であったがテレビ業界ではほぼ無名。三谷幸喜脚本の連続ドラマ「振り返れば奴がいる」のラストシーンで織田裕二演じる医師・司馬を刺す、司馬の元同僚医師を演じ、「織田裕二を刺した男」として話題になっていた程度である(ちなみに刺した後で、西村はにやりと笑うが、これは西村のアドリブである)。東京サンシャインボーイズでの演技が買われて、いきなりの主役大抜擢であった。西村は「チャンスは逃さない」とわざとオーバーアクションの演技をし、これが「変人奇人の宝庫」といわれる指揮者のイメージに重なり、「西村雅彦という役者は面白い」と話題になった。「マエストロ」を見ていた人達の中にNHKのプロディーサーがおり、「西村雅彦を使いたい」というので、大河ドラマ「秀吉」で西村雅彦は徳川家康役に抜擢される。NHK内では、「家康役にそんな無名の俳優を使うことは出来ない」と反対の声が多かったというが、「マエストロ」を見ていたプロデューサーは「西村雅彦というのは面白い俳優だから絶対に大丈夫」と譲らなかった。結果、大河ドラマ「秀吉」で西村雅彦は、「(秀吉を演じる)竹中直人を食った男」と評されるようになる。

今回も、役者の演技は楽しめる芝居であった。

西村雅彦が終演後の挨拶を行い、「東京の俳優が大阪で芝居を打つというのは大変なこと」と言った後で、いかに大阪が好きであるかについて語る。その後、「出演者一人一人から一言」と西村は振るが、皆、いかに大阪が好きであるかについて語り始めてしまう。

「大阪が好き」というのはお世辞ではないと思う。私も「日本の一都市でだけで公演を行える、どこの街でやりたいか」と聞かれたら「大阪」と答えると思う。客の盛り上がり方が違うからである。ノリも一番良い。大阪が好きなのは日本人だけではなく、故サー・ゲオルグ・ショルティも大喝采を送る大阪の聴衆を見て、「この聴衆を(自身が音楽監督を務めるシカゴ交響楽団のある)シカゴに持って帰りたい」と語っており、大阪人のノリの良さは世界中で愛されている。

拍手は鳴り止まず、キャストはカーテンコールに応えた。最後は西村が「大阪万歳!」を観客と共にやった。

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