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2014年4月 5日 (土)

コンサートの記(131) 東芝グランドコンサート2014 ヴァシリー・ペトレンコ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会

2014年3月15日 西宮北口の兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて

午後2時から、西宮北口にある兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、東芝グランドコンサート2014「ヴァシリー・ペトレンコ指揮オスロ・フィルハーモニー管弦楽団来日演奏会」に接する。オスロ・フィルハーモニー管弦楽団が来日公演を行うのは実に18年ぶりになるという。18年前に来日した際は、オスロ・フィルのアンサンブルを世界的水準まで高めたと讃えられたマリス・ヤンソンスに率いられて演奏会を行っている。18年前には兵庫県立芸術文化センターはまだ存在しなかった(阪神・淡路大震災の翌年である)ので、ここでオスロ・フィルが演奏会を行うのも当然ながら今日が初めてだ。

曲目は、ニールセンの歌劇「仮面舞踏会」序曲、グリーグのピアノ協奏曲イ短調(ピアノ独奏:アリス=紗良・オット)、ショスタコーヴィチの交響曲第5番。

1976年生まれの若手指揮者であるヴァシリー・ペトレンコはロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団を指揮した「ショスタコーヴィチ交響曲全集」を作成中であり、交響曲第7番「レニングラード」などは優れた出来を示しているだけに、とりわけショスタコーヴィチの名演が期待される。

オスロ・フィルハーモニー管弦楽団は歴史こそ古いが、長い間低迷が続き、ノルウェー第二の都市で古都であり、グリーグの街としても知られるベルゲンのフィルハーモニー管弦楽団の後塵を拝す格好になっていたが、1979年にマリス・ヤンソンスが首席指揮者に就任するとマリスのトレーニングによって実力は急上昇。EMIへのレコーディングも行われるなど、世界的に知られたオーケストラへと成長した。ただ、マリス時代のオスロ・フィルは音色が薄暗く、マリスがその後に就任したロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団やバイエルン放送交響楽団に比べるとまだまだという印象は否めなかった。その後、オスロ・フィルのシェフの座はベテランのアンドレ・プレヴィンに託されるが、どうしたことか、プレヴィンとオスロ・フィルの情報は日本にはほとんど伝わらなくなってしまう。プレヴィンはその後、オスロ・フィルの音楽監督を辞してNHK交響楽団の首席客演指揮者(現在は名誉首席客演指揮者)に就任。健在ぶりをアピールしたが、オスロ・フィルの方は、フィンランド出身のユッカ=ペッカ・サラステが音楽監督になったという情報が伝わって来るのみであった。サラステも非力であったフィンランド放送交響楽団のアンサンブルを鍛えて名オーケストラに仕上げたというオーケストラビルダーとしての実績があるだけにオスロ・フィルの成長も期待されたのだがレコーディングも行われず来日演奏会もなしとあっては現時点の実力を知る術はなかった。一方、ノルウェー国内におけるライバル的存在であるベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団は音楽監督であるアンドリュー・リットンと何枚もCDを制作し、評価を高めていた。
サラステは昨年、オスロ・フィル音楽監督を退任し、2013-2014年のシーズンからヴァシリー・ペトレンコがオスロ・フィルの首席指揮者に就任している。

ニールセンの歌劇「仮面舞踏会」序曲。オスロ・フィルは精緻なアンサンブルを聴かせる。マリスの指揮によるCDで聞かれた音の暗さはなく、垢抜けた印象を受ける。オスロ・フィルは着実に成長しているようだ。
ペトレンコの指揮は「端正」という言葉が一番ピッタリくる。指揮棒でオーケストラをドライブしながら、要所要所で左手を挙げ、特に管楽器に指示を出す。
チャーミングな演奏であった。

グリーグのピアノ協奏曲イ短調。日独のハーフで「美人過ぎるピアニスト」と言われたこともあるソリストのアリス=紗良・オット(現在は髪形をロングからボブに変えたということもあり、「美人系」というよりは「可愛い系」にイメージも変わっている)は今日も裸足で登場した。

ピアノを舞台の前方に移動させて、ピアノ協奏曲のための編成に変える際、普通は弦楽奏者が舞台袖に退場するのだが、オスロ・フィルの弦楽奏者は何故かはわからないが、半分ほどはステージ上の奥に残り、立ったまま舞台転換を観察していた。

アリス=紗良・オットとペトレンコが登場。だが、椅子の高さが合わないようでオットは腰掛けてすぐに急いでレバーを回して椅子の高さを調整しようとする。それでもなかなか椅子の高さが合わないので客席から笑い声も漏れた。1分以上経ってようやく高さが合い、演奏スタート。

グリーグはお国ものだけにオスロ・フィルの伴奏は堂に入っている。オットのピアノは独特の間を取るなど個性的。オットは以前は優等生的ピアニストだったが、次第に個性派へと転換しつつあるようだ。

アンコールはリストの「鐘(ラ・カンパネッラ)」。パガニーニのバイオリンのための作品をリストがピアノ用に編曲したもので、超絶技巧が要求されるピアノ曲の代表的存在である。オットはちょっと力む箇所もあったが、誠実な演奏で見事な「鐘」を造形する。
オットは何度もカーテンコールに応え。最後は小走りで登場してお辞儀をすると、また小走りで去って行った。

後半。ショスタコーヴィチの交響曲第5番。

安定したスタートを見せるが、ピアノが同じ音型を繰り返す場面を過ぎたあたりからペトレンコは猛烈なアッチェレランドを掛け、おそらく私が聴いたことのあるショスタコーヴィチの交響曲第5番第1楽章の中で最速となる演奏を展開する。ここまで速いと弦と管がずれたりもするが、その代わりに悲劇性は増し、阿鼻叫喚の響きが鼓膜をつんざく。ショスタコーヴィチの狂気が露わになったかのようだ。

重厚感溢れる第2楽章を経て第3楽章。オスロ・フィルの弦楽は実に哀切な音色を奏でる。弦の刻みの上に嘆きやため息のような旋律をオーボエ、クラリネット、フルートが受け継いでいく場面では、弦楽器と対照的に管楽器の表情をなるべく抑え、即物的に聞こえるようにする。これによって現実の厳しさがダイレクトに伝わるような印象を受け、絶望感はより深まる。

皮相な凱歌として知られる第4楽章。ペトレンコは冒頭は作曲者の指示通りのテンポで開始するが、すぐに速度をレナード・バーンスタインの例に倣い、倍速にする。大植英次が大阪フィルの定期演奏会でこの曲を取り上げたときに極端に速いテンポを採って凱歌の皮相さを増していたが、ペトレンコは大植以上に暴れまくり、結果として凱歌にすら聞こえないという演奏を繰り広げる。感じられるのは遠い夢の向こうにある勝利とその前に立ちはだかる峻厳な現実だ。この曲は勝利ではなく、勝利への淡い希望だけで終わる。そうした印象を受けたのは今回が初めてであった。

アンコールは2曲。いずれも編曲ものである。アリス=紗良・オットのアンコール曲「鐘」も編曲ものなので、今日はアンコール曲が全曲編曲作品ということになる。

まずは、ショスタコーヴィチ編曲の「タヒチ・トロット(二人でお茶を)」。洒落っ気に溢れた演奏であった。

アンコール2曲目はブラームス編曲のハンガリー舞曲第6番。軽快にしてダイナミックな演奏が繰り広げられた。

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