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2014年5月10日 (土)

コンサートの記(135) 井上道義指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第477回定期演奏会「井上道義首席指揮者就任披露演奏会」

2014年4月4日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで大阪フィルハーモニー交響楽団の第477回定期演奏会を聴く。今日の指揮はこの4月から大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者に就任する井上道義。「井上道義首席指揮者就任披露演奏会」のサブタイトルも付いている。

大阪フィルは大植英次が音楽監督に就任した2013-2014年のシーズンから定期演奏会場をフェスティバルホールからザ・シンフォニーホールに移したが、井上道義は大阪フィルの定期演奏会場を昨年再建されたフェスティバルホールに戻し、今日がフェスティバルホール定期演奏会復活第1夜となる。

ホワイエにはタイムテーブルが張り出されていたが、「第1部(30分)、休憩20分、第2幕(60分)」となっており、表記が揺れている。「複数の職員がチェックしているのだろうし、誤植ということはあり得ないだろう。井上が指揮なので外連だろうか?」と思ったのだが、実際は単なる誤植であった。

曲目は、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)とショスタコーヴィチの交響曲第4番というロシアものが並ぶ。神尾真由子が得意としているチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲と、井上道義の十八番であるショスタコーヴィチということで期待が高まる。
今日のコンサートマスターは首席客演コンサートマスターの崔文洙(チェ・ムンス)。

チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。神尾真由子は、五嶋みどり、諏訪内晶子などと並ぶ日本人女性ヴァイオリニストの別格級の一人である。チャイコフスキーコンクール・ヴァイオリン部門の覇者であり、現在はロシア在住。ということでチャイコフスキーは得意中の得意である。大阪府豊中市出身で、大阪フィルとの縁も深いという。

神尾のヴァイオリンはしっとりとした音色に特徴があり、今日もそれは存分に発揮される。ためを作った歌い方が個性的であり、時折見せる軽やかな表情もチャーミングだ。

井上道義は、この曲では指揮台を使わず、ノンタクトで指揮。楽譜はポケットサイズのものを使っていた。大阪フィルは音の抜けの良い演奏を展開する。

後半、ショスタコーヴィチの交響曲第4番。大編成が特徴の交響曲であり、弦楽群が約70名、管楽群が約50名の計約120名という大所帯での演奏となる。大フィルの団員数は約100名ほどなので、客演奏者が数多く招かれている。楽器によっては半数以上を客演奏者が占めていたりする。

ショスタコーヴィチの交響曲第4番は謎に満ちた交響曲である。1936年に完成し、リハーサルまで行いながら初演は流れ、初演が行われたのはそれから四半世紀も後の1961年のことであった。1936年の初演が流れたことについては、作曲者、指揮者、関係者などの証言がバラバラであり、どれが本当なのかわからない。わかるのは作曲者であるショスタコーヴィチが初演を取りやめたという事実だけである。
しかし、初演が行われる予定であった1936年に、ソビエト共産党の機関紙プラウダに載った「(ショスタコーヴィチの音楽は)音楽の代わりに荒唐無稽」という有名な言葉で知られるプラウダ批判をショスタコーヴィチは受けており、スターリンから目を付けられていたショスタコーヴィチは交響曲第4番を発表するのは危ういと思ったのであろう。
翌、1937年にショスタコーヴィチは交響曲第5番という、内容のわかりやすい交響曲を書き、ソビエト中から賞賛を受ける。
1948年にはショスタコーヴィチはジダーノフ批判を受けている。いずれの批判も、音楽は分かりやすくなくてはならぬという前衛音楽批判であった。だが、困ったことに交響曲第4番は前衛音楽路線であり、演奏するわけにはいかなかったのであろう。
1953年にスターリンが亡くなると、窮屈な状態は幾分和らぐ。そしてフルシチョフによるスターリン批判があり、その直後の1961年にショスタコーヴィチの交響曲はキリル・コンドラシン指揮モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で初演されている。

上演時間1時間強という大作であり、しかも純音楽であって、その後のショスタコーヴィチの交響曲のように暗号めいたメッセージが隠れているわけでもない。ということで理解するのが容易ではない曲である。マーラーの交響曲からの影響は明かで、マーラーの交響曲第1番「巨人」の郭公の鳴き声が取り入れられたり、同じく「巨人」の第3楽章のパロディーの場面があったりする。更にはビゼーの「カルメン」前奏曲やモーツァルトの歌劇「魔笛」からパパゲーノの笛の音の真似が取り入れられている。曲調は分裂的であり、哀歌を奏でたかと思ったら馬鹿騒ぎになり、凱歌を奏するかと思いきや悲嘆に暮れるといったカオス状態で(金管が凱歌、木管が哀歌を同時に奏でるという場面すらある)、ショスタコーヴィチがなにをこの曲に込めたのか分かりにくい。あるいは内容があると考えるのは後年のショスタコーヴィチの交響曲がそうだからで、交響曲第4番に関しては深く考えて作ってはいないのかも知れないが。
ラストはチェレスタの哀感に満ちた旋律で終わる。取りようによってはスターリン体制を嘆いているようにも聞こえる。

井上の指揮はユニーク。ピョンピョン飛び上がったかと思えば、指揮棒を両手で持って胸の前でグルグル回したりする。パパゲーノのパロディが出る直背では両手を交互に上げたり下げたりとおちゃらけてみせるが、オーケストラドライブは見事であり、力強いサウンドを引き出す。

優れた演奏であったが、やはり会場が広いフェスティバルホールということもあり、「これがザ・シンフォニーホールであったなら」と何度も思ってしまった。フェスティバルホールの音響も悪くはないが、多目的ホールであり、クラシック音楽専門ホールであるザ・シンフォニーホールでの演奏ほどには迫力が感じられないのである。今日のショスタコーヴィチの演奏も予想したほどには音が飛んでこず、歯がゆい思いをした。

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