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2014年7月30日 (水)

コンサートの記(146) 藤岡幸夫指揮関西フィル・ポップス・オーケストラ「サマー・ポップス・コンサート」2014

2014年7月27日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、関西フィル・ポップス・オーケストラ「サマー・ポップス・コンサート」を聴く。関西フィルハーモニー管弦楽団がこの日だけは関西フィル・ポップス・オーケストラに名前を変え、映画音楽やライト・クラシックスなどを演奏するという試み。今年で13年目になるという。以前から行きたいとは思っていたのだが、常に先約が入っている状態で、今年はようやく「サマー・ポップス・コンサート」の日が予定ゼロであったため、聴くことが出来た。指揮は、関西フィル首席指揮者の藤岡幸夫(ふじおか・さちお)。

久しぶりのザ・シンフォニーホールであるが、他の関西のホールに比べると響きの良さはやはり断トツ。クラシックに興味がない人は、地元・大阪人であってもザ・シンフォニーホールの名前を知らないかも知れないが、ここは大阪が世界に誇る音楽の殿堂である。
ただし、響きを優先させたためホール自体は他の関西の音楽ホールに比べるとサイズが小さい。その分、一番遠い距離の席であってもステージからさほど離れていないという利点もあるが。

曲目は、前半が「真夏に聴く遠き日のメロディー」と称して、タンゴ「ラ・クンパルシータ」、「ムーンリバー」(映画『ティファニーで朝食を』より)、「夏の日の恋」(映画『避暑地の出来事』より)、「As Time Goes By」(映画『カサブランカ』より)、「ひまわり」、『ゴッドファーザー』より「愛のテーマ」、「エーゲ海の真珠」が、後半は「2014年宇宙の旅!?」というタイトルで、『ET』より「アドベンチャーズ・オン・アース」、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」、ホルストの組曲『惑星』より「ジュピター(木星)」、「スターダスト」、『スターウォーズ』組曲より、「ダースベイダーのテーマ」、「レイア姫のテーマ」、「メインテーマ」が演奏される。
藤岡はライト・クラシックスのルロイ・アンダーソンの曲を得意としているが、今回はルロイ・アンダーソンの曲はプログラミングされていない。

ABC(朝日放送)主催のコンサートであり、ABCアナウンサーの八塚彩美が司会を務める。

関西フィル・ポップス・オーケストラのメンバーは、関フィル在籍者が上が白の衣装で統一。ポップスのために参加する、ピアノ、ドラムス、エレキギター、エレキベースなどの奏者は黒のジャケットを着ており、一目でゲストだとわかるようになっている。

指揮者の藤岡幸夫は燕尾服ではなく、タキシード姿で登場した。

まず、タンゴの定番中の定番である「ラ・クンパルシータ」が演奏される。「タッタッタッタ、タタタタッタ」というリズムとメロディーを知らない人はいないであろう。この曲は京都市交響楽団も高関健指揮のオーケストラ・ディスカバリーというコンサートで取り上げている。

演奏終了後に司会の八塚彩美が現れ、藤岡とトークを行う。八塚は「ひまわり」が演奏されるというので、ひまわり柄の上着を着てきていたのだが、黄色ではなく水色ベースだったため、自分で明かすまでは藤岡も、他の多くの人もそれに気がつかなかった。藤岡は「ポップスだからといって気を抜いて演奏したりはしません。真剣に取り組みます」と宣言する。

藤岡は映画「ティファニーで朝食を」が好きだそうだが、私自身は「ムーンリバー」という曲と、トルーマン・カポーティの原作は好きではあるものの、映画自体は余り好きではない。ユニオシという変な名前のステレオタイプの日本人(白人が変奏して演じている)が出てくるのもマイナスである。村上春樹は、ユニオシというのは実際はユミヨシという苗字であるとして、ユニオシの親族であるユミヨシさんという女性を小説『ダンス・ダンス・ダンス』に登場させている。

速めのテンポによるすっきりとした演奏。実は京都市交響楽団はこの曲も演奏している。神戸国際会館こくさいホールで行われた広上淳一指揮のコンサートのアンコールとして演奏されたもので、ロマンティックで音の煌めきに溢れたものだったと記憶している。関西フィルはやはり実力では京響にはまだ敵わないようだ。

「夏の日の恋」と「As Time Goes By」は、共にマックス・スタイナーという作曲家の作品だという話題をABCの八塚アナが振る。実際は、『避暑地の出来事』と『カサブランカ』はマックス・スタイナーが映画音楽を手掛けているものの、「As Time Goes By」は既成の曲を用いており、マックス・スタイナーの作曲ではない。藤岡は八塚に「『カサブランカ』は観たことありますか?」と聞き、八塚が「ちょっとだけ」と曖昧な答えをすると、藤岡は「僕は君の年ぐらいになるまでに16回は観た」と言い、内容を熱く語り出す。「ハンフリー・ボガード演じる男が経営している店に、かつての恋人役のイングリッド・バーグマンがやって来る。バーグマンは店のピアニストに、『ねえ、あの曲を弾いて』と言う。ピアニストは、『駄目です。あの曲だけは弾くなと言われているんです』、『いいから弾いて』と相手も引き下がらないので、ピアニストが弾くと、ハンフリー・ボガートが飛び出して来て、『おい、この曲は絶対に弾くなと言ったじゃないか』と怒るが、そこにバーグマンがいるのを見て再会を、って、あんた(八塚)全然感動してないね」と八塚が詳しすぎる説明にキョトンとしているのに触れて笑いを取る。

「夏の日の恋」は原曲も今回のアレンジも弦楽主体のアレンジである。後で触れるが、関フィルは管楽器、特に金管が弱点であるため、この「夏の日の恋」が全曲を通して一番出来が良かったように思う。

「As Time Goes By」もしっとりとした美演であった。

「ひまわり」に関しても藤岡はあらすじを詳しく述べる。ラストを明かすことはしなかったが、「ひまわりというと日本では明るいイメージがあるが、ヨーロッパではいつも太陽に片想いしている切ない花というイメージもある」と告げる。

「ひまわり」は、「サマー・ポップ・コンサート」で毎年演奏しているそうで、藤岡も「また『ひまわり』かよとお思いになるかも知れませんが、それだけ演奏する価値のある曲です」と述べる。「ゴッドファーサー」の音楽について知らない人はまずいないため、この曲に関する説明はカットされる。

正攻法による演奏であった。

前半ラストの「エーゲ海の真珠」について藤岡は、「チャイコフスキーやシベリウスの交響曲を聴く気持ちで聴いて下さい」と語り、スケール大きな演奏が展開される。

 

後半は、ジョン・ウィリアムズの「ET」から“アドベンチャーズ・オン・アース”で開始。月をバックに自転車が空を飛び、追っ手から逃げる場面の音楽である。

次は坂本九の「見上げてごらん夜の星を」。藤岡は、「最近、加山雄三がこの曲をカバーしていてとても良い出来」と評す。この曲では藤岡は、管楽器の主旋律ソロに関しては指揮をせずに完全に奏者に任せ、伴奏を整える仕事に徹する。弦楽のアンサンブルでは拍は刻むものの、やはり自発的なアンサンブルを促していた。また、コンサートミストレスのソロに関しては指揮を一切しなかった。そのため、関西フィルが持つ個性が発揮され、美しくも面白い演奏に仕上がっていた。

今年からは、1曲、本格的なクラシック作品も演奏してみたいということで、ホルストの組曲『惑星』から「ジュピター(木星)」が演奏される。ここでトランペットがつっかえて、関フィルの弱点が出てしまう。演奏としては中の中で、残念ながら優れた出来とは思えなかった。弦楽は美しかったのだが、スケールが大きいとはいえないし、パワーも不足していたように思う。

「スターダスト」はジャズナンバーであるが、今回は弦楽とハープ&チェレスタのみでの演奏。ジャズには付きものの打楽器はなく、ジャズとしての「スターダスト」ではなく「スターダスト」のメロディーを楽しむという趣向であるようだ。関フィルは弦楽器は美しい音を出す。また、ザ・シンフォニーホールの響きは生まれる音をより華やかなものへ彩る。

ラスト、『スターウォーズ』からの3曲。作曲は、ジョン・ウィリアムズである。世界で最も売れている映画音楽作曲家といっても過言ではないジョン・ウィリアムズであるが、藤岡によると、「実に良く響くように上手く書かれている」そうで、オーケストレーションの腕は卓越しているようだ。

演奏としてはまずまず。生でこの曲が聴けたのは嬉しかったが、ホルンとトランペットが不安定であった。

全体としては、打楽器のリズムと旋律との線がずれる場面が何ヶ所かあり、本来はクラシックの指揮者である藤岡にとって、映画音楽は決して演奏しやすいものではないということがわかる。昔から今日に至るまで、アーサー・フィードラーや、フェリックス・スラットキン(レナード・スラットキンの実父)、エリック・カンゼル、キース・ロックハート、ジョン・マウチェリ、日本では山本直純、更に作曲家でボストン・ポップス・オーケストラの指揮者であったジョン・ウィリアムズも含めても良いかも知れないが、ポップス・オーケストラやライト・クラシックスを主戦場とする指揮者がなぜ必要なのかという理由がよく分かった。やはり、それ専門の指揮者でないと十全な演奏は出来ないのである。クラシックの名指揮者であるからといって、ポップスも巧みに指揮できるとは限らないようだ。

ポピュラー音楽は、傾向として、旋律、和音、リズムという音楽の三元素のうち、リズムに重点が置かれているものが多い。というわけで、リズム感が極めて重要なのだが、クラシックではリズム感が重視されない曲も沢山あるため、リズム感に自信のある指揮者でないとポップス・オーケストラを上手く操ることは難しいのであろう。

ポップス・オーケストラの指揮者だからといって、クラシックの指揮者よりも格下というわけではないことが確認出来て興味深かった。

アンコールは、「引き潮」と、ルンバ「キャリオカ(カリオカ)」。「引き潮」はリリカルな演奏。ルンバ「キャリオカ」は賑やかである。「キャリオカ(カリオカ)」は、「リオデジャネイロ人」の愛称であるが(リオデジャネイロ出身のラモス瑠偉のニックネームが「カリオカ」であった)、二つの「カ」の間に挟まっている「リオ」はリオデジャネイロのリオ(川という意味)とは全く関係がないどころか、「カ・リオ・カ」で切るのではく、「カリ」と「オカ」という二語からなる言葉であり、意味としては「白い家」になるのだという。「カサブランカ」もまた「白い家」という意味であるため、今日は「白い家」という名の同名異曲が演奏されたことになる。

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