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2014年9月 4日 (木)

観劇感想精選(132) 「熱海殺人事件」オリジナル・ヴァージョン2013

2013年7月26日 京都四條南座にて観劇

午後6時から、四條南座で、「熱海殺人事件」オリジナル・ヴァージョンを観る。主演の木村伝兵衛部長刑事(変な肩書きだがそう書いてあるので仕方がない)を演じるのは演出も兼ねる錦織一清。出演は、他に、黒谷友香、戸塚祥太(A.B.C-Z)、逆木圭一郎(劇団☆新感線)。京都オリジナルキャストとして、他に3人が出演する。

アングラことアンダーグラウンド演劇の第二世代を代表する、つかこうへい。その、つかの代表作が「熱海殺人事件」である。これまで、様々なバリエーションを生み、私は阿部寛が木村伝兵衛を演じた「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」をシアター・ドラマシティで、黒谷友香が女・木村伝兵衛を演じた黒谷友香エンドレス「売春捜査官 女子アナ残酷物語(当初の黒谷友香エンドレス「熱海殺人事件 売春捜査官」より改題)」を、ワッハ上方ワッハホール(現・5upよしもと)で観ている。ただ、オリジナルに近い形の「熱海殺人事件」を観るのは今回が初めてである。

つかこうへいの演出方法は、口立てと呼ばれる特殊なもので、戯曲はすでに出来上がっていて、役者も覚えてくるのだが、つかが稽古場でセリフを読み上げながら変更していき、役者もそれを一発で覚えてついていかなければならないという過酷なものであった。覚えられないと、セリフがどんどん削られていったと内田有紀(「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」に出演)は述懐している。
また、役者に隙があると見ると、本番でセリフを変えることもあったという。阿部寛が「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」を演じていた時に、突然、相手の男優がアドリブを仕掛けてきた。阿部もアドリブで返したが、更にアドリブの応酬。つかの指示によるものだった。結局、アドリブのシーンが30分以上続いたという。即興性が最大限に求められたのだ。
阿部寛は、初めて、つかのオーディションに参加した際に、セリフの強さに半端でないものを求められたので、一日で声が潰れたと書いている。

つかこうへいの演劇は、つか自身と一体になっており、つかが故人となった今ではもう、本当の意味での「つか演劇」を観ることは出来なくなった。ただ戯曲自体は残っているため、つかの書いたものの上演は可能である。

つか演劇の特徴は長ゼリフと、早口で怒鳴るような強さで発せられる声にある。ということで、主演の錦織一清は完全に喉をやられており、ガラガラ声であった。普通なら発声すら苦しい中での演技である。ただそのセリフを聴く方も、細部が聴き取れなくて、ちょっと辛いものがある。ちなみに熊田刑事を演じた逆木圭一郎は、錦織の潰れた喉に突っ込みを入れていた。

「熱海殺人事件」は、リアリズムへの対抗意識と、社会的弱者の描き方が特徴である。これは、つか自身が在日韓国人であり、終生、日本に帰化することがなかったことと無関係ではないだろう。ただ、だからといって、社会的弱者を温かい目で見つめるというものではない。そうした行いが逆差別に繋がることを、つか自身もわかっていただろう。劇中で国家権力に関する話が出てくるが、つかはこの国家権力というものも大嫌いであった。

錦織一清は、自身と戸塚がジャニーズ事務所所属なのを逆手にとった演出をして、「近藤真彦先生のレーサーとしての素晴らしさ」などを戸塚に語らせたり(ご存じの通り、マッチはレーサーでもあるが実績は上げていない)、戸塚演じる大山が煙草を吸うシーンで、「君の事務所は煙草と女は駄目だって聞いたよ」という逆木のセリフを入れるなど、ジャニーズネタで笑わせる。また、南座の花道を使いたいがために、3人の俳優を起用するという贅沢なことをしていた。

役者の演技であるが、錦織一清の調子が万全でなかったのはやはり残念。舞台は生ものなので、役者の体調も勿論、演技に影響する。

つかに鍛えられた黒谷友香は、長身でスレンダーな体躯を生かした、凛とした水野婦人警官(これまた変な肩書きだが、そう書いてあるのだから仕方がない)を演じて見せる。スーツ姿もドレスアップも様になっていた。また声が澄んでいて、通りが非常に良い。

逆木圭一郎も安定感のある演技を見せていた。

戸塚祥太は、犯人の大山金太郎役という重要な役を与えられており、熱演であったが、演技そのものは及第点といったところ。ただ小さくまとまってはいないので、これから大いに伸びる可能性はある。

木村伝兵衛の突飛なキャラクターよりも、犯人の大山金太郎と被害者の山口アイコとの関係と、殺人にいたるまでの心理描写に重点が置かれた演出。社会的弱者のルサンチマンが浮かび上がり、ささやかな誇りが崩壊していく過程が丁寧に描かれる。つかの演出を受けている黒谷友香がキャスティングされていることは、大いにプラスに作用した。

セリフの間合いなど、錦織がプロの演出家でないがために起こる、ちょっと不自然なところも散見されたが、「熱海殺人事件」の再現としては悪くなく、メッセージ性も豊かだった。

ジャニーズ二人が出演するということで、大半が女性客。カーテンコールでは1階席の観客がスタンディングオベーションで出演者を讃えた。

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