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2014年9月17日 (水)

コンサートの記(153) 「大阪クラシック」2014 第61公演

2014年9月12日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、「大阪クラシック」2014の第61公演を聴く。この公演は、指揮者で「大阪クラシック」のプロデューサーである大植英次が指揮ではなく、ピアノ演奏メインで行う演奏会である。チケットは1000円と、かなり安い。

曲目は、レナード・バーンスタインの「キャンディード」組曲より(編曲・ピアノ演奏:甲斐史郎)とベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」より第1楽章、第3楽章、第4楽章(大植英次の指揮とピアノ、甲斐史郎と尾崎有飛のピアノ、ソプラノ独唱:西田真由子、アルト独唱:福島あかね、テノール独唱:松原友、バリトン独唱:大谷圭介、合唱:大阪フィルハーモニー合唱団)

大植英次は、少しクラシカルな上着で登場。実は、この上着は1820年に描かれたベートーヴェンの肖像画でベートーヴェンが着ている上着と同じものであり、特注で作らせたのだという。

大植がマイク片手にトークを行うが、大植英次という人は早口の上にちょっと異様に感じるほど滑舌の悪い人であり、想像力をフル回転させてこちら側で言葉を補わないと何を言っているのか全くわからないということになってしまう。「この音とこの音の間はおそらくこう言っているのだろう」と推測する必要がある。

最初の曲であるバーンスタインの「キャンディード」組曲であるが、ピアノ編曲と演奏を行う甲斐史郎は今年でようやく16歳という少年だという。甲斐が14歳だった2年前に甲斐と大植は出会っており、その時、大植は「キャンディード」組曲を指揮したのであるが、それを聴いた甲斐が一発で頭に入れて瞬時にピアノ編曲してしまったのだという。後日、甲斐の演奏する「キャンディード」組曲のピアノ編曲版を収めたCDが大植の下に送られてきたのだが、それを聴いた大植は「モーツァルト並みの大天才だ」と驚いたという。モーツァルトが14歳の頃にシスティーナ礼拝堂(バチカン市国)でアレグリの「ミゼレーレ」を一回聴いただけで全て覚えてしまい、譜面で再現してみせたという話からの連想であろう。
「キャンディード」というのは大変難しい曲であり、大植は楽譜があってもピアノで十分に弾きこなせないのに(大植のピアノの腕前は世界の全指揮者の中でもトップクラスである)、頭の中で再現して弾いてしまう甲斐の才能に恐れ入ったようである。その後、話を聞きつけた人から、甲斐のデビュー話が大植に持ちかけられたのだが、大植はそれらを全て断り、今日の演奏会で甲斐をデビューさせることに決めたのだという。

「キャンディード」の作曲者であるレナード・バーンスタイン(愛称:レニー)は大植英次の指揮の師であるが、1989年に「キャンディード」が上演された時にレニーが大植に赤いチーフをプレゼントしてくれたという。それは「キャンディード」が初演されたのが1956年であり、大植がそれと同じ1956年生まれだからという理由であった(大植の生年については、1957年とするものと1956年とするものがごっちゃになっている状態だったのだが、本人が1956年生まれだというので、そちらが正しいのであろう)。今回は、大植が甲斐に赤いチーフをプレゼントするのだが、大植は冗談で「演奏を間違えたらなしにする」と言って笑いを取る。大植はステージ後方の台に座って甲斐の演奏を聴く。

甲斐のピアノ演奏であるが、蓋を完全に取り払ったピアノを弾く。そのため、蓋がある状態のピアノより柔らかい音が生まれる。メカニックはかなり高度であり、曲調の描き分けもしっかりしている。やはりこれは天才クラスと思って間違いないだろう。

甲斐が演奏を終えると、大植は感極まって泣き出してしまう(レニーもこういう癖があったが、こうした感情をオープンにすることに関しては賛否両論ある)。

後半、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」より第1楽章、第3楽章、第4楽章。

大植は「耳の聞こえなくなったベートーヴェンがピアノの出す振動を頼りとしながら第九を作曲していく姿をイメージして欲しい」ということで、なんと平台を積み重ねた形の台をピアノの手前に置き、そこに大植が俯せで横になりながらピアノを弾くという。横になりながらステージ上でピアノを弾いた人は世界史上でも大植が初めてなのではないだろうか。なお、今日の3台のピアノのための第九はベートーヴェンの自筆譜によるものであり、取り寄せた自筆譜を大植は拡げてみせる。ただ、大植自身はベートーヴェンの自筆はピアノの上に置いてしまって使用はせず、全て暗譜で弾く。

ステージ後方の台の上にはグランドピアノが2台向き合う格好で置かれているが、1台を甲斐史郎が弾き、もう1台は尾崎有飛が演奏する。若手ピアニストである尾崎有飛は、ドイツ在住なのだが、この演奏会のためだけに来阪したという。

基本的に大植のピアノが一番低いパートを担当し、他の2台が高い主旋律を奏でることになるのだが、例えば第4楽章の冒頭など低い音が主旋律を奏でるときは大植のピアノがメインになる。

ピアノという楽器は寝ながら弾くことを想定して作られてはいないので、大植は弾きにくそうではあるが、自分の発案で始めたことなので、状態を高くして弾きやすくするというようなことは行わない。指揮は、大植が要所要所を左手で行う。

ちぐはぐになる場面も皆無ではなかったが、3人ともピアノの名手であるだけに、整然とした見事な演奏が展開される。独唱者と合唱団は第4楽章が始まった頃にステージ後方のP席(パイプオルガン席若しくはポディウム席の頭文字に由来するとされるがどちらなのかは不明。ただ京都コンサートホールはポディウム席という名称発売されることもあり、京都コンサートホールのP席に関してはポディウムの頭文字である)に現れ、そこで歌う。今日はP席とステージ横の席、3階席は発売されていないが、P席が発売されないのはそこに歌手達が集うからである。

合唱を十分に整える必要があるときは、大植はピアノを離れて両手で指揮をする。ラストのピアノだけの演奏、急激にアッチェレランドする場面では大植がピアノを弾きながらリードした。

これで1000円とは思えないほどの素晴らしい演奏会であった。大植はベートーヴェンの自筆譜を何度も拡げて、作曲者への敬意を示した。

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