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2014年9月 1日 (月)

観劇感想精選(131) 加藤健一事務所 「請願」~核なき世界~

2014年6月21日 京都府立府民ホールALTIにて観劇

午後3時から、京都府立府民ホールALTIで、加藤健一事務所の公演「請願」~核なき世界~を観る。加藤健一と三田和代による二人芝居。作:ブライアン・クラーク、テキスト日本語訳:吉原豊司、演出:髙瀨久男。

京都で大手の劇団が公演を行うことは少なく、また京都側も呼ぼうとしないのだが、カトケン事務所こと加藤健一事務所は毎年のように京都で公演を行ってくれているありがたい劇団である。ほとんどが京都府立府民ホールALTIでの公演だが、京都芸術劇場春秋座でも公演を行ったことがあり、京都市民にとって貴重な存在だ。

舞台はロンドン。ハイドパークに隣接する高級住宅地に住む、エドムンド・ミルン(加藤健一)と妻のエリザベスの夫妻による会話劇である。一度、溶暗により時間の停止を現す場面があるが、それ以外はほぼリアルタイムで劇が進んでいく。

エドムンドは退役軍人。勿論、思想は右寄りで、保守党を支持している。主治医から「酒は1日1回昼食の前だけ」と言われているが、やはりアルコールが恋しいようで、本来、食前酒代わりの一杯のはずが、昼食前だからという理由で午前10時にウィスキーをあおってしまったりする。

妻のエリザベスは子宮癌を患い闘病中である。ここ2年ほどは治療に専念するため自宅から一歩も外に出ていない。

エドムンドは、朝刊を見ていて怒りを覚える。1ページが丸々、全面核兵器反対運動の請願広告で埋められていたのだ。エドムンドは「核は抑止力になる」と考えており、核兵器反対は馬鹿者の唱えることだと思っている。しかも、請願の署名の筆頭にいるのが、かつての軍人仲間で、陸軍元帥のジェレミー・フィリップス(愛称:ジェリー)だということに呆れてしまう。エドムンドには軍人が核兵器に反対するとは正気の沙汰とは思えなかった。

しかし、署名の欄を読んでいるうちに、「レディー・エリザベス・ミルン」という名前を発見する。他ならぬ妻の名前だった。エドムンドは誰かに勧められて署名したか、名前を貸しただけなのだろうと思ったが、エリザベスは自ら進んで署名しており、更にジェリーに署名するよう求めたのもエリザベスだという。またエリザベスは夫に内緒で、選挙では毎回、労働党に投票していたのだった。

エドムンドは石頭で、中道左派である労働党も「赤(共産主義者)」だと決めつけるほどガチガチの保守主義者であり、軍人としての立場から、祖国を侵略しようとする者がいたら徹底的の立ち向かうべきであり、核兵器を使うべきではないが、核兵器に反対するのは根本的に間違っていると思っている。だが、エリザベスは、ヒトラーのような人物が現れて、核を使用したとしたら、大殺戮が行われるのは勿論、後遺症で体が不自由な状態で生まれてくる子供が大勢出ると訴える。抑止力についても、マジノ要塞はナチス・ドイツへの抑止力へはならなかったと語るが、エドムンドは、「あれは抑止力にならなかったんじゃない。向こうが迂回して来たんだ」と主張する(ナチス・ドイツ軍は仏独国境のマジノ要塞を避けて、中立の立場であったベルギーに攻め入り、そのまま北方から攻め、フランスが天然の要害であると思い込んで満足な守備を置いていなかったアルデンヌの山脈地帯を突破してなだれ込み、フランスの北半分を征服した)。

このまま政治談義が続いたり、どちらかが妥協したりすれば、陳腐で退屈な政治劇となってしまうのだが、作者は勿論、政治的意図だけでこの話を書いたのではない。夫妻がそれぞれに抱えていた秘密や、イギリスの国情などが描かれ、人間ドラマとして見事な成立を見せている。

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