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2014年12月 1日 (月)

観劇感想精選(140) 新妻聖子ひとり芝居「青空…!」(ニューバージョン)

2013年8月22日 東京・両国のシアターX(カイ)にて観劇

午後7時から、シアターXで新妻聖子ひとり芝居「青空…!」を観る。作・演出は舞台版「ゲゲゲの女房」や「夜は短し歩けよ乙女」の東憲司(ひがし・けんじ)。「青空…!」は再演ではあるが、大幅に台本を書き換えたニューバージョンでの上演であるという。

新妻聖子は日本のトップ・ミュージカル女優の一人。ミュージカルだけではなく、ストレートプレーにも出るし、歌手としても活動している。演技力、歌唱力共に高く、ミュージカル「スペリング・ビー」では、12歳の少女を巧みに演じていたし、三谷幸喜の作・演出によるストレートプレー「国民の映画」では、プライドの高い女性映画監督、レニ・リーフェンシュタール(ご存じの方も多いと思うが実在の人物である)役で中性的な人物像を現出させている(歌のシーンもあり、大変高い音を軽々と出していた)。歌手としては京都市交響楽団と共演、ミュージカルナンバーなどで美声を披露している。
東憲司は、大阪府貝塚市で観た舞台版「ゲゲゲの女房」(主演:渡辺徹、水野美紀)が秀逸ともいえる出来だったので期待大である。

一人芝居というと、演劇の央でも特殊なジャンルに入る。演者が一人だけなので、舞台の醍醐味の一つであるダイアローグは用いることは出来ない。手段としては筋を語る語り物か、観客の想像力に多くを委ねるモノドラマかに大別される。今回の劇では筋を語る場面もあるが、多くを観客の想像力に委ねる手段を採用していた。

上演時間約1時間15分の中編である。

村野五月(新妻聖子)は、1ヶ月前に10年間続けた小学校の教師を辞め、祖母が暮らしていた防空壕の跡に来ている。防空壕には電気や水道が通っており、街に買い物にいけば生活をする上で特に困難なことはない。五月は自分自身を見直すために、防空壕にやって来たのだ。五月は悪夢を見る。勤めていた小学校の夢だ。夢から覚め、それが夢だったことに気付く五月。恋人から電話が掛かってくるが、もうやり直す気のない五月は着信音を無視する。それから母親に電話を掛ける(スマートフォンではなく、ガラケーを使っている)。教師を辞めたのであるが、母親には休職しているだけだと嘘を言う。
祖母が残した、「青空」というタイトルのノート何冊にも渡る書き置き。五月は「青空」の内容を語る。祖母は、「五月へ。人生に行き詰まった時にこれを読むべし」とまず書いていた。それから、人生には闘いも多くあるが、戦争を賛美するような愚かな人間になってはならないとも書いている。更に、紙の動物園と、約束のキリンであるキリンのキリコを完成させるようにとのメッセージもあった。防空壕には折り紙で作った動物もあったが、紙製のキリンのキリコは巨大なもので高さは推定3mほどもある。
新妻聖子はトップ・ミュージカル女優でもあるので、歌も用意されている。まずは、「闘いの歌」。人生に於ける闘いと戦争とについて歌ったものである。美声で音程も安定しており、声も良く通る。流石はトップ・ミュージカル女優である。

五月は客席に向かって、「これから行われるのは、祖母と私による不思議な物語」と告げる。

キリンのキリコを完成させるべく、作業に励む五月。ところが、祖母が愛用していた揺り椅子が突然動き出す。祖母の幽霊が現れたのだ。祖母と会話する五月。そして、五月という名前は、抜けるような五月の青空から付けられたものだということで、「五月の歌」を歌う。五月は江戸っ子のような気質で、五月という名前について「思い通りの女になれなくて申し訳ございませんでしたね」などと言う。五月が学校を辞めたのはある事件が原因だった。祖母は子供は可愛いというが、五月は「子供が可愛いのはお祖母ちゃんの世代まで。今の子供は賢くて陰険で残酷なんだから」と毒づく。五月は3年2組を担当しており、水谷リカという女の子が登校拒否になったのだが、その原因が「五月からいじめられた」ためだとリカは親に言い、親が学校に怒鳴り込んできたのだ。親は「『もう学校に来なくていい』と言ったそうですね」と五月に詰め寄った。以来、五月は子供に暴言を吐いた教師として教師仲間や児童達から白い目で見られるようになり、それで教師を辞めたのだ。「せっかく夢だった教師になったのに何やってるんだろう私」と嘆く五月。白眼視に掛けてラブソングである「黒い瞳」を歌う。水谷リカは夏休みの課題で朝顔の栽培をしたのだが、他の子の朝顔は咲いたのに水谷リカの朝顔だけは咲かなかった。そこでリカは怒って朝顔の鉢を思いっきり倒した。そこで五月はちょっときつくしかったのだが、そこから話が大きくなったという。

祖母は約束のキリンには翼があると言う。キリンに翼があるなんて聞いたことがないといぶかしむ五月。母親に「翼のあるキリンって心当たりない?」と電話する五月だったが、母親は「角は生えてないか」とユニコーンの話をする。それから五月は、学校の同僚だった渡辺先生に電話を掛けて、水谷リカちゃんがどうしているのかを聞く。水谷リカちゃんは通学するようになっており、五月からきついことを言われたというのは嘘だったと打ち明けたとのことだ。そのため五月の辞表は上まで行っておらず、休職扱いになっているという。

キリンのための紙製の翼を作り、空いていた穴に差し込む五月。約束のキリンの意味がわからないと祖母に語りかける五月だったが、急に祖母の姿が見えなくなる。慌てて探す五月。祖母は机の下に潜り込んでいた。空襲が怖いという祖母であったが、五月は「もう空襲なんてないよ。戦争は終わったの」となだめる。そして、31歳で戦死した祖父の写真を見つける。そこで突然、五月は幻想を見る。終戦直後の街。祖母がいて、母がいて、母は小さな女の子を連れている。五月だった。幼い五月は祖母と「いつか紙のキリンを作って空を飛ぼう。約束ね」と誓ったことを思い出した。

そして意外な告白をする。五月が水谷リカに暴言を吐いたのは事実だったのだ。更に暴言だけではなく、手を上げてもいた。「もう学校に来なくていい」とも実際に言っていたのだ。「なんでそんなこと言っちゃったんだろう」と落ち込む五月。その時、五月は約束のキリンであるキリンのキリコが動いたのを見る。五月はキリンのキリコに跨がり、空を行く。歌うのは「旅立ちの歌(青空の歌)」。

この芝居はファンタジーでは終わらない。五月は、これまで語ってきたのは自分の妄想だと客席に向かって告白する。祖母の幽霊は存在しないし、約束のキリンであるキリンのキリコが空を飛んだこともない。防空壕の跡で過ごしていること、「青空」のノートを読んでいること、約束のキリンのキリコを作っていること、水谷リカに手を上げて暴言を吐き、教師を辞めたということだけが事実であった。
だが、渡辺先生から、水谷リカが学校に通うようになっていると聞き、五月の暴力と暴言は自分がついた嘘だったということにリカはしていた。五月はリカの姿に希望を見出し、教師として再チャレンジすることを決める。そう、それが五月の見つけた「青空」だったのだ。祖母はノート「青空」にこう書いていた「止まない雨はない。いつか青空が訪れる」。五月の眼前にも青空は開けていた。

帰国子女で上智大学卒の才媛。お嬢様のイメージが強い新妻聖子であるが、今回の劇では東京の下町で育ったようなチャキチャキしたタイプの女性を演じていて新鮮であった。東憲司の脚本と演出も良かったと思う。一人芝居とはいえ、独り言のセリフが多すぎると感じたことも確かであるが、メッセージ性も豊かで、前述の瑕疵を補って余りあるだけのものがあった。観るのに想像力が必要な一人芝居を逆手に取って、どんでん返しをしてみせたのも上手いと思う。

カーテンコールで、新妻聖子は、「一人芝居は演じるのも大変ですが、観るのも大変です。私一人しか出ていないので、想像力をフルにね、使う必要がありますから。こうして観に来て下さっているだけでありがたく思います。お客さんがいなければ、私は独り言を延々と言っているただの頭のおかしな女になってしまうので。一人しか出てませんから、もし私(のこと)が嫌いだったら、それはもう拷問の時間(笑)。このキリン、動いたでしょう。動くんです。どうやって動くのかはちょっとわからないんですけど。ステージ上には私一人しかいませんが、裏では多くのスタッフさんが私のために働いてくれているわけです。何か、質問とかございませんか?(客席からは反応なし)ないようなので、せっかく両国までいらしたので帰りにはちゃんこなどを食べて帰って下さい。本日はありがとうございました」というようなことを述べ、舞台は幕となった。

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