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2015年1月 7日 (水)

観劇感想精選(142) 「未来創伝」

2014年12月25日 京都芸術劇場春秋座にて観劇

午後4時から京都芸術劇場春秋座で、クリスマス特別公演「未来創伝」を観る。篠笛奏者の藤舎貴生(とうしゃ・きしょう)の発案による、日本の伝統芸能の演者と現代劇の俳優やダンサーなどとのコラボレーション企画である。出演は春秋座の芸術監督でもある市川猿之助を始め、若村麻由美、尾上菊之丞、茂山逸平、藤舎貴生、桂米團治ほか。

春秋座は先代(三代目)の市川猿之助(現:二代目市川猿翁)のために建てられた劇場で、歌舞伎専門劇場ではないが、歌舞伎のあらゆる演目に対応出来る設計になっている。可動式の花道があるほか、廻り舞台、セリ、緞帳などを備えている。
セリが下りた場所、いわゆる奈落は、私も京都造形芸術大学の学生だった時に作業をしていたので、どういう場所なのかはよく知っている。ちなみに江戸時代に奈落で働いていたのは前科者などであり、前科者の印である刺青が入れられていたので日の当たる場所では雇って貰えず、裏方に徹することの出来る奈落などで仕事をしていたのだ。
劇場によっても奈落の様子は違うはずだが、春秋座の奈落はかなり殺風景である。

演目は、市川猿之助による素踊り「黒塚」~月の巻より~(作:木村富子、作曲:四世杵屋佐吉)、尾上菊之丞と茂山逸平による舞踏狂言「千鳥」(構成:茂山逸平、脚本:尾上菊之丞、作曲:藤舎貴生)、若村麻由美による語舞踊(一人語りと舞踊)「書く女」~建礼門院右京大夫~(作:今井豊茂、作曲:藤舎貴生、書・美術:千登勢、振付:尾上菊紫郎)、市川猿之助と8人のダンサーによる舞劇「八俣の大蛇(やまたのおろち)Ⅱ」(作詞:松本隆、作曲:藤舎貴生、美術:朝倉摂、振付:尾上菊之丞、ダンス振付:橘ちあ)

桂米團治は、前口上と司会、幕間の語りなどを務める。
桂米團治は落語家であるが、考えてみれば米團治の落語は聞いたことがない。以前、米團治の落語の会が春秋座であったため「行こうか」と思ったことがあるのだが、先約があって行けなかった。今日もちょっとした語りは行うが落語は披露しない。前回、米團治を見たのは、今では大丸心斎橋劇場となっている「そごう劇場」で行われた遊佐未森のライブのゲストとして招かれた時で、その時もピアノの弾き語りなどをしていたが落語はなかった。ポピュラー歌手のライブで落語のコーナーがあってもおかしいが。遊佐未森のライブで見たときは桂小米朝改め桂米團治(止め名である)となった直後で、米團治は「今の私があるのも、全て父親(桂米朝)のお陰です」と自虐ネタをやっていたが、今日も「『よねだんじ』と読めなくて『べいだんじ』と読まれたり、『お父さんが米朝だから、べいだんじでいいでしょ』などと言われたり、米團治を襲名したのを知らなくて小米朝と呼ばれたり。今日も楽屋で小米朝と呼ばれましたが」と自虐ネタは欠かさない。

影アナは第1部が市川猿之助、第2部が若村麻由美によるもの(録音したものが流れた)であったが、猿之助は「本日はお忙しいところをクリスマス特別公演『未来創伝』にお越し下さいまして誠にありがとうございます。こんな忙しい時期に見に来られるというのはよっぽど暇な方々だと思われますが」「携帯電話はマナーモードではなく、電源をお切り下さい。公演中に電話をする方はいらっしゃらないと思いますが通話も禁止です」「その他、飲食、喫煙などマナーの悪い方は芸術監督の権限により拉致監禁、きついお仕置きをいたします」などとユーモアに富んだ影アナを行った。若村麻由美の影アナも「芸術監督さんが、『遅れてきた客は立って見てろ』と怖いことを言っていますのでお早く席にお戻り下さい」と猿之助の調子を受け継いだものだった。

素踊り「黒塚」~月の巻より~。謡曲「黒塚(安達原)」が基で、能や歌舞伎の演目にもなっている「黒塚」が、今日行われるのは二世市川猿之助(当代猿之助の曾祖父。初世市川猿翁)が創出した舞踊劇。二世猿之助は海外に行った時に観たロシアバレエの技法を取り入れ、つま先で踊る振付を取り入れたという。
鬼女である岩手の踊りであるが、今日はメイクなども行わず、普通の着物で踊る「素踊り」で上演される。
米團治が「黒塚」のストーリーなどを説明をした後で、セリで下へと退場。その後、猿之助が登場し、「黒塚」の中の岩手が月の夜に出歩き、童心に戻る場面を踊る。細やかな舞の後で、ダイナミックな踊りが繰り広げられる。本人によると実は「運動音痴」だという当代猿之助であるが、そんなことは微塵も感じさせない鮮やかな踊りである。

舞踊狂言「千鳥」。この演目でも上演前に米團治がマイク片手に現れて、舞台転換の間に緞帳の前に立ってトークを行う。

狂言「千鳥」に日本舞踊の要素を取り入れたもの。舞は舞だけに徹して貰いたかったという気持ちもないではないが、それだと狂言にはならないので、尾上菊之丞も狂言を演じ、合間に舞うというスタイルを採る。
茂山逸平は能舞台にはないセリに乗って登場。尾上菊之丞も日舞の会場には余りない(先日観た大阪の御堂会館での日舞公演では臨時の花道を作っていたが)花道から現れる。

背後の松には溶暗中には電飾が点り、明るくなると様々な飾り付けがあって松の木ながらクリスマスツリーになっている(歌舞伎の松の木に飾りを付けて強引に「杉の木だ。クリスマスツリーだ」と言い張り、その後、「それはモミの木だ! 勘違いしてるぞ!」と突っ込みを入れられるというシーンのある東京サンシャインボーイズの公演『ショー・マスト・ゴー・オン』を思い出した)。

尾上菊之丞扮する太郎冠者は主から酒屋で酒を買ってくるよう命じられるのだが、この主というのが借金ばかりで、酒を買う金もない。酒屋へのツケも積もって酒を手に入れる当てもないのだが、来客だというので無理矢理太郎冠者を使わしたのである。
酒屋の主役の茂山逸平は「今日はクリスマスとてみんな賑やかにしているのに、何の因果か今日も働かねばならず」というセリフを足していた。

酒を手に入れるために、津島神社の尾張祭りの話をして、その隙に酒樽を盗み去ろうとする太郎冠者と、それを見とがめる酒屋の主の話。太郎冠者はまず、酒樽を千鳥に見立てて、千鳥を抱えるとして酒樽を奪おうとするが上手くいかない。そこで今度は神葭(みよし。山鉾のことだそうだ)流しの様子をして酒樽を見立て、神葭を伊勢の方向へ流すとして運び去ろうとするがやはり失敗。
そこで、流鏑馬の話をし、酒屋の主にも馬を演じるように仕向け、酒屋の主が疲れて後ろ向きに転がり落ちた隙に太郎冠者は酒樽を持ち去ることに成功する。

尾上流家元である尾上菊之丞の舞の上手さは今更書くまでもないが、茂山逸平も舞踊ことしないが、菊之丞と合わせての動きなどは見事である。

合間のトークで、「千鳥」で三味線が演奏されていたことについて桂米團治は、「三味線というのは安土桃山時代に入ってきた楽器でして、能が出来た室町時代にはなかった楽器なんですね。能で使われますのは、笛、鼓、太鼓とありますが掻き鳴らす楽器はなかったんです。だから狂言で三味線が鳴るというのは新しい試みなんですね」と説明を入れる。ただ、室町時代の由来を室町通としたのは良いが室町北小路(室町今出川)に足利尊氏が屋敷を構えたので室町時代と呼ばれるようになったと語っていたが、厳密にいうとこれは間違いである。足利尊氏が屋敷を構えたのは二条高倉であり、室町に屋敷(花の御所)を構えたのは足利第三代将軍にして太政大臣、そして日本国王の足利義満(室町殿)である。

若村麻由美による語舞踊「書く女」~建礼門院右京大夫~。そういえば樋口一葉を主人公にした永井愛の舞台のタイトルも「書く女」だった。どうでもいいが。
建礼門院というのはよく知られているように高倉院の室となり安徳院を産んだ平徳子のことであり、建礼門院右京大夫(けんれいもんいんうきょうのだいぶ)は徳子に仕えていた女性である。能書家・藤原伊行(ふじわらのこれゆき)と箏の名手・夕霧の間に産まれた建礼門院右京大夫は才女であり、治承・寿永の乱の有様を歌などに託して綴っている。

能書家の娘ということで、舞台上からは建礼門院右京大夫の和歌が千登勢の筆によって書かれた紙が4枚垂れている。若村麻由美は白い布を被り、後ろを向いた状態で「今や夢むかしやゆめとたどられていかに思へどうつつとぞなき」という建礼門院右京大夫の歌を読みつつ、客席の方に向き直る。
若村麻由美は坂東流の日本舞踊の名取であるが、米團治によると「(本職の方に比べると)全然踊れません」と語っていたそうだ。しかし艶と気品を合わせ持った見事な舞を披露する。本職の人から見ると違うのかも知れないが、私は踊りに関してはよく分からないので良い出来に思える。

「語り物」と呼ばれる一人芝居の形態。元々は若村麻由美の朗読公演のために編まれたものだが、今回は台本を手放して語られる。題材となっているのは、源平の戦いそのものではなく、絶世の美女といわれた小宰相の局(こざいしょうのつぼね)と、平通盛(たいらのみちもり。義経のライバルとされることの多い能登守教経の兄である)との恋である。

この作品ではセリが何度も使われ、文机が上がって来たかと思えば、セリが下りた状態の空間に若村麻由美が登場時に被っていた布を落とすなど、上がっている時も下がっている時も効果的に用いられる。

語りはベテランの域に達した舞台経験豊富な女優によるものなので万全である。ちょっとしたニュアンスの変化で心情の変化などを大きく変える様は鮮やかだ。「綺羅星の如く」を「きら、ほしのごとく」ではなく「きらぼしのごとく」と読んでしまったのはご愛敬だが。

紅一点として、今回の公演に見事な華を咲かせていた。

舞劇「八俣の大蛇Ⅱ」。素戔嗚尊(市川猿之助)の八俣の大蛇退治を8人のダンサー(穴井豪、乾直樹、金刺わたる、櫛田祥光、熊谷拓明、柴一平、鈴木明倫、宮内大樹)と共に描く舞踊劇である。太鼓が用いられ(太鼓演奏:田代誠)、迫力のある音楽が奏でられる。

猿之助は2階席後方から宙乗りで登場。花道に着地する。「狐忠信」とは逆の演出である。舞台にはリノリウムのカーペットが敷きつめられている。余談だが、京都芸術劇場のリノリウムカーペット(舞台用語では「リノ」。指原莉乃みたいである)は春秋座の奈落の他に、今では授業公演で用いられるだけになっている小劇場のstudio21にも常備されており、花道を含めた春秋座の舞台一杯に敷きつめられるだけの量は確保されている。

最近は舞台作品の作詞でも活躍している松本隆の筆による詞が語られる。マイクを用いての語りだったのだが、マイクを使った場合、かなり滑舌が良くないと何を言っているのかわからない状態になることが多く、今回も猿之助の語りが良く聞き取れない場面がいくつもあった。音楽が大音量なのでマイクを使ったのであるが、セリフを聞き取らせるという点では上手くいかなかったかも知れない。

一方で舞は見事。先代の猿之助はアクロバティックな技を取り入れて歌舞伎界に革命を起こしたが、甥に当たる当代の猿之助もその精神を受け継いでいる。衣装の早替えは見事であったし、草薙剣を用いての舞は迫力充分であった。竹光とはいえ、剣を使った踊りは危険なのであるが、猿之助も8人のダンサーも見事に舞った。

 

クリスマスということで、抽選会がある。席番のくじ引きで当たりが決まる。茂山逸平はサンタクロースの格好で登場したが、厳密に言うとサンタクロースそのものの衣装ではなく、とにかく大勢の狂言師が登場することで有名な演目「唐人相撲」の登場人物の衣装からサンタクロースに見えるものを抽出して出来上がった服装であるという。
先日、同じ条件によるくじ引きがフェスティバルホールで行われたが、キャパが違うとはいえ今日は客席が大人しく、茂山逸平から「静かですね」と言われる程だった。「未来創伝」は京都のみで行われる公演なので客席にいるのが京都人ばかりとは限らないが(昼の部では最も高価な「未来創伝賞」を当てたのは千葉県勝浦市から来た人だったという。千葉県人だからわかるが勝浦というのは東京に出るためには必ず通過する千葉駅に来るだけでもかなり時間の掛かる場所である)、京都人と大阪人の違いはやはりあるのかも知れない。

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