« コンサートの記(184) 広上淳一指揮京都市交響楽団 「スプリング・コンサート」2015 | トップページ | 一を聞いて »

2015年4月22日 (水)

コンサートの記(185) シベリウス生誕150年 新田ユリ指揮アイノラ交響楽団第12回定期演奏会 「カレリア」組曲&「クレルヴォ」(クレルヴォ交響曲)

2015年4月12日 東京・荻窪の杉並公会堂にて

午後1時30分から、杉並公会堂大ホールでアイノラ交響楽団の第12回定期演奏会を聴く。アイノラ交響楽団はシベリウス愛好家によって2000年12月に結成されたアマチュアオーケストラ。アイノラとはフィンランド語で「アイノの」という意味で、シベリウス夫人であるアイノの名前を取ってシベリウスが命名したヤルヴェンパーの邸宅、アイノラ荘に由来するネーミングである。定期演奏会は年1回行っており、毎回シベリウスの楽曲を演奏している他、グリーグ、ステーンハンマル(ステンハンメル)、カスキ、メリカントなど北欧の作曲家の作品も演奏している。逆に言うと北欧の作曲家の作品以外は演奏したことがない。

実は日本はアマチュアオーケストラ大国でもあるのだが、理由の一つとしてプロオーケストラが少ないということが挙げられる。しかも人事が手厚く守られているため、基本的に募集は欠員が出たときのみに限られる。一方で、音大や音楽学部、音楽専攻を卒業する学生は多いため、彼らが日本のオーケストラに入団するのは難しい。日本のオーケストラに入れなかった演奏家はソリストを目指すか(ただし、余程優れた才能がないとソリストになるのは難しい)、海外のオーケストラに入ることを志すか、プロではなくアマチュアで演奏するか選択することになる。勿論、音楽をするのは大学までで、全く関係のない仕事に就いて、演奏活動なども止めるという人も多い。

アマチュアオーケストラをやるからには売りも必要ということで、アイノラ交響楽団はシベリウス作品に特化した演奏活動を行っている。

アイノラ交響楽団の正指揮者は結成当時から新田ユリが務めており、今日の指揮者も新田である。新田は日本におけるシベリウスのスペシャリストとしても知られている。シベリウスを得意とする日本人指揮者には他に藤岡幸夫や尾高忠明がいるが、新田ユリは唯一の女性指揮者である。

新田ユリは2000年より1年間、フィンランドに留学しており、フィンランドの名指揮者であるオスモ・ヴァンスカに師事している。その後も日本とフィンランドの両国を拠点に活動中。日本シベリウス協会の現会長でもある(渡邉暁雄、舘野泉に続く3代目)。今年から愛知室内オーケストラの常任指揮者に就任している。

オール・シベリウス・プログラムで、「カレリア」組曲、クレルヴォ(クレルヴォ交響曲)が演奏される。クレルヴォはフィンランドの国民的叙事詩「カレワラ」を題材にした交響曲で、シベリウス初の交響曲であり、初演は大成功でシベリウスの出世作となり、初演から1年間の間に4度も演奏されるが、その後、シベリウス本人が習作扱いとして封印。シベリウス存命中に全曲が演奏されることはその後1度もなかった(部分的に演奏されたことはあるようだ)。シベリウスがクレルヴォ交響曲を封印した理由として考えるのは、作風がかなり独墺系寄りであるということである。シベリウスとしてはドラマティックな曲であるが、そのドラマ的要素が独墺的なのだ。この曲はシベリウスのウィーン留学直後に書かれており、尊敬するブルックナーを始めとする多くの独墺系の作曲家の影響が顕著である。勿論、作風はシベリウス的なのであるが、シベリウスの楽曲としては多弁で、オーケストレーションなどもシベリウスならではの個性と言える領域には達していない。ただ、優れた楽曲であることに間違いはなく、シベリウスの弱点でもある「自信に欠け、慎重に過ぎる」面がこの曲を封じてしまったのであろう。シベリウスの死後には演奏される機会が増えている。

会場である杉並公会堂は、1957年に建てられたが、現在の杉並公会堂は2006年竣工の2代目。元の杉並公会堂を取り壊して、同じ場所に今の杉並公会堂が建てられている。新しくなった杉並公会堂は日本フィルハーモニー交響楽団が本拠地として利用している。

アイノラ交響楽団がアマチュアオーケストラということもあって、今日は全席自由。チケット代も前売り1200円、当日1500円である。クレルヴォは滅多に演奏されることはないので、今日は東京のみではなく、日本各地から杉並公会堂に駆けつけた人も多いと思われる。アマチュアオーケストラの演奏であるが、客席はかなり埋まっていた。

杉並公会堂大ホールの音響であるが、残響はそれほど長くはないものの(天井が高く反響板がないという、京都コンサートホールと同じ設計である)、音自体は良く聞こえる。

チェロが手前に来る、アメリカ式の現代配置での演奏。

「カレリア」組曲。アマチュアオーケストラということもあって、金管の音程は不安定であるし、弦楽も音の抜けが悪い。強弱も付け方も細やかさに欠けている。
新田の指揮は端正且つ明快なもので、どういう音楽がやりたいのか見ていて即座にわかる。日本人女性指揮者は棒の上手い人が多いが、圧倒的に男性優位の世界で勝ち上がるには優れたバトンテクニックが一番の武器となるのであろう。

メインであるクレルヴォ。メゾ・ソプラノ独唱は駒ヶ嶺ゆかり(こまがみね・ゆかり)、バリトン独唱に末吉利行。合唱:合唱団お江戸コラリアーず。お江戸コラリアーずは、1998年に伊東恵司が結成した男声合唱団。伊東は、なにわコラリアーズの指揮者も務めており、東京に男声合唱団を作る際に、「大阪がナニワやから、東京はお江戸でしょ」ということで、お江戸コラリアーずと命名した。「ず」が何故平仮名なのかは不明。なお、男声合唱団であるが、テノールに一人、女性の団員が混じっている。こちらもどうしてそうなっているのかはわからない。お江戸コラリアーずはステージ上ではなく、今日は聴衆は立ち入ることの出来ないP席(杉並公会堂大ホールにはパイプオルガンはないので、Pはポディウムの略になると思われる)に陣取る。

アイノラ交響楽団は、今年の3月3日に、すみだトリフォニーホールで、同一独唱者、合唱団お江戸コラリアーず&Laulu Miehet(フィンランドの男声合唱団)によるクレルヴォを演奏している。日本シベリウス協会主催の公演であった。

クレルヴォが始まってすぐに、オーケストラが前半とは別物だということに気付く。メンバーが替わったわけではないので、練習量の違いが現れたのであろう。クレルヴォは1年掛けて練習したが、「カレリア」組曲は今回の定期演奏会のために練習しており、元々練習時間の確保が難しいアマチュアオーケストラにあって、練習量は演奏の出来を大きく左右する。また、クレルヴォは先月演奏して今月もまたということで、実演に慣れているということも考えられる。弦楽も厚みこそ十分とはいえないが、音の抜けは格段に良くなり、管楽も力強い。

合唱団お江戸コラリアーず、独唱二人の出来も良く、アマチュアオーケストラの演奏会とは思えないほどのハイレベルの音楽が奏でられていく。

プロオーケストラの場合、定期演奏会ではアンコールがないのが普通であるが(アンコール演奏を行う場合もある)、アイノラ交響楽団はアマチュアオーケストラで定期演奏会も年1回と少ないこともあって、毎回アンコール演奏を行っている。

合唱団お江戸コラリアーずがいるということで、まず音詩「フィンランディア」の男声合唱付きバージョンが演奏される。金管の力強さはプロオーケストラに及ばないが比べなければ満足のいく出来である。

そして、「アンダンテ・フェスティーヴォ(祝祭アンダンテ)」も演奏される。アイノラ交響楽団は定期演奏会のアンコール曲としてほぼ毎回「アンダンテ・フェスティーヴォ」を演奏しており、堂に入った演奏が展開された。

|

« コンサートの記(184) 広上淳一指揮京都市交響楽団 「スプリング・コンサート」2015 | トップページ | 一を聞いて »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/61477583

この記事へのトラックバック一覧です: コンサートの記(185) シベリウス生誕150年 新田ユリ指揮アイノラ交響楽団第12回定期演奏会 「カレリア」組曲&「クレルヴォ」(クレルヴォ交響曲):

« コンサートの記(184) 広上淳一指揮京都市交響楽団 「スプリング・コンサート」2015 | トップページ | 一を聞いて »