« 観劇感想精選(151) 市村正親、益岡徹、平田満 「ART」 | トップページ | 信長忌 阿弥陀寺に墓参に行きました »

2015年6月 1日 (月)

観劇感想精選(152) 野田地図(NODA・MAP)「エッグ」2015大阪

2015年3月26日 大阪・京橋のシアターBRAVA!にて観劇

午後7時から、大阪・京橋のシアターBRAVA!で、野田地図(NODA・MAP)の「エッグ」を観る。作・演出・出演:野田秀樹。音楽:椎名林檎。出演:妻夫木聡、深津絵里、仲村トオル、秋山菜津子、大倉孝二、橋爪功ほか。今回の上演は脇役がかなり多い。ひょっとすると野田が教鞭を執る多摩美術大学の学生もいたりするのであろうか。

「エッグ」は、2012年に初演され、今年度の再演に当たり、まずパリ国立シャイヨー劇場で上演が行われ、その後、野田秀樹が芸術監督を務める東京芸術劇場での上演を経て、来阪公演を迎えた。

汽笛が鳴り、天井から数枚の紙が落ちてきてスタート。最初の舞台は、改装工事中の劇場。野田秀樹が芸術監督を務める東京芸術劇場も改装工事を行っていたので、東京芸術劇場がモデルなのかも知れない。劇場案内係の野田秀子(野田秀樹)に連れられた女学生達が登場。野田秀子は劇場の隅々まで見せようというので、客席通路を女学生を連れて歩いたりし、「2階席からはこの辺(1階席中央通路)は見えないのよね。安心して、ここでは大した演技しないから」などと言っている。再び一行が舞台に戻ったところで、女学生の一人が、数枚の紙片を発見する。それは寺山修司が書いた「エッグ」というタイトルの戯曲の草稿であった。しかも未完である。野田秀子は劇場の芸術監督(名前は不明。野田秀樹の一人二役)と愛人関係にあり、今度、オーストラリアの「なんとかコースト(ゴールドコーストのこと)」に二人で行くことになっているという。芸術監督に寺山修司の原稿を見せて芸術監督の名を上げようと画策する野田秀子。そこへ、舞台後ろから車椅子に乗り、ぐったりとした阿倍比羅夫(あべ・ひらふ。妻夫木聡)が、妻の苺イチエ(深津絵里)に押されながら現れる。イチエは歌を唄っている(深津絵里は、深津絵里と高原里絵という二つの名義を使い、別人としてアイドル歌手としてデビューしたという風変わりな売り出し方をされたという過去があり、歌は上手い)。阿倍比羅夫の具合が悪くなり、手術台に乗せられる。しかし、ここにいるのは本当は阿倍比羅夫ではなく、粒来幸吉(つぶらい・こうきち。仲村トオル)のはずだったのだが……

芸術監督は「エッグ」という戯曲を読み進める上でいくつか間違いを犯す。東京オリンピックの話が出てきたので、2020年に開催予定の東京五輪かと思いきやそうではなく、1964年に開催された東京五輪なのだった。

エッグというスポーツが行われている。芸術監督は当初は未来に生まれるスポーツとして読んだのだが、実際は1964年に行われたスポーツだった。卵を割らずにいかに美しく得点を挙げるか(競技シーンはあるのだが、描き方が曖昧であるため、どういうスポーツなのか具体的にはわからない)を競うものだという。背番号7の粒来幸吉(円谷幸吉に由来)、背番号3の平川(大倉孝二)、そして、新入りの背番号137・阿倍比羅夫らが日本代表選手として戦っている。阿倍比羅夫は東北出身の高校を出たばかりの若者。実在の歴史上の人物に由来する名前ではあるが、裸足で走り、「アベベ」と呼ばれるシーンがあるため、アベベ・ビキラがモデルにもなっていることがわかる。アベベは後年交通事故で体が不自由になるのだが、阿倍比羅夫も交通事故に遭ったということになっている。
1964年度東京オリンピックのマラソン優勝者はアベベ・ビキラ。銅メダルを取ったのが円谷幸吉である。

エッグの試合は、前半が、0-36で相手にリードを許す。後半開始前、消田(きえた)監督(橋爪功)に粒来幸吉は自ら交代を申し出る。消田監督は代役として阿倍比羅夫を起用。阿倍は大活躍し、日本代表は37-36で逆転勝利。というところでまた芸術監督の読み間違いがあり、実はエッグというのは女性のスポーツなのだという。仕方なく、ナースの格好をしてエッグをすることになる日本代表の選手達。しかし、平川が暴力事件を起こし、エッグ日本代表不祥事ということで、4年がさらっと経過する。

苺イチエは、エッグ日本代表オーナー(秋山菜津子)と消田監督の娘である。売れない頃は苺ジャムという芸名で活動していたが、彼女がリリースしたCDは全てオーナーが買い取り、売れっ子になったように見せかけていたという。苺イチエとなった今では本当に売れっ子歌手であり、エッグの日本代表試合の前の「君が代」を歌うことも許されている(というより勝手に歌ってしまったわけだが)。苺イチエは、粒来幸吉に「私がストーカーしてたの知ってた?」と聞き、粒来は「ああ、あのうるさい」などというやり取りが交わされるのだが、全ては大人の遊びとしての会話で、苺イチエと粒来幸吉は恋仲であったが、粒来が結婚にイエスと言わなかったのだ。そこで苺イチエは策を練る。自分のライブに粒来を招待し、舞台上からサプライズで結婚報告を行うというもの。聴衆の前では粒来も逃げられない、苺イチエはそう考えたのだが、実際は粒来からチケットを譲られた阿倍がフィアンセの番号「I列17番」に座っており、苺イチエは阿倍と結婚することになってしまう。結婚はしたのだが、苺イチエは阿倍のことを愛してはいない。

エッグで活躍した阿倍はレギュラーとなり、背番号1を貰う。

一方、オーナーは1964年のオリンピック加入新競技にエッグを入れるため、本業は振り付け師のお床山(おとこやま。藤井隆)にエッグ宣伝用映画の撮影を依頼する。台本を書くのは寺山修司だ。

しかし、芸術監督はまたも読み間違えていた。寺山修司が書いた東京オリンピックというのは、1940年に戦時により返上された「幻の東京オリンピック」だったのだ。

エッグは戦時中に満州で生まれたスポーツだという。帝国大学の医学生が卵からワクチンを作る過程で卵で遊んだのが起源とされるそうだ。元々のエース格・背番号7の粒来幸吉、暴行沙汰でおなじみ背番号3の平川、そしてエッグにおいて画期的な発案を行った東北出身の若者が阿倍比羅夫、背番号1、元背番号137である。3人の背番号が並ぶと「731」となり、阿倍の最初の背番号137を逆にしても731である。そう、実はエッグなどというスポーツは存在せず、満州の通称731部隊(石井部隊。隊長の石井四郎は残念ながら千葉県出身。京都帝国大学医学部首席卒、医学博士であった)の話だったのだ。阿倍が発明した卵の殻を割らずに穴を開け、そこから黄身を吸いだし、開いた穴をナチスの発明によるパンチカードとして用い、マルタ(人体実験に使われる人間)を選出するのに有効利用された。そして円谷幸吉に似た名前を持つ粒来幸吉は美しい遺書を残して自殺したと見せかけ、731部隊の犠牲となることを阿倍に押しつけようとしていた……

日本がナショナリズムの方向に傾きかけており、日本は戦時でも対戦相手に優しかったという側面ばかりが強調されがちだが、日本賛美は他国排斥に直結しやすく、また日本が行ってしまった非人道的行為についても、二度と同じ轍を踏まないために忘れないことも大切なのである。

劇中、野田秀子による、「逃げるのよ! ここを逃げれば全てはノスタルジアになるわ」というセリフがあり、オーナーもアメリカに医学的資料を提出することで戦後の免責を勝ち取り、「忘れましょう」と731部隊が存在しなかったことにしようとしている。
実は731部隊の亡霊は、戦後すぐの帝銀事件にまず現れ(真犯人は元731部隊所属の医学博士であったが、GHQが警察の前に立ちはだかったという説がある。GHQが元731部隊への捜査打ち切りを命じたことだけは本当だが、真犯人等についての真相は不明である)、その後、薬害エイズ事件で再びその不気味な顔を覗かせる(非加熱製剤で薬害を起こしたミドリ十字は元731部隊で石井四郎の右腕と言われた内藤良一が興した会社である)。忘れた頃に現れては日本人に牙をむくのである。

終演後、出演者達は何度もカーテンコールに応え、最後は野田秀樹が、「寺山修司は『エッグ』という戯曲は書いていません。また私に愛人はいません」と言って締めた。

|

« 観劇感想精選(151) 市村正親、益岡徹、平田満 「ART」 | トップページ | 信長忌 阿弥陀寺に墓参に行きました »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/61676552

この記事へのトラックバック一覧です: 観劇感想精選(152) 野田地図(NODA・MAP)「エッグ」2015大阪:

« 観劇感想精選(151) 市村正親、益岡徹、平田満 「ART」 | トップページ | 信長忌 阿弥陀寺に墓参に行きました »