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2015年8月11日 (火)

観劇感想精選(158) トム・プロジェクト プロデュース 木村多江ひとり芝居「エンドロール」

2015年6月21日 西宮の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて観劇

午後3時から西宮北口の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで、トム・プロジェクト プロデュース 木村多江ひとり芝居「エンドロール」を観る。

元々は舞台女優であった木村多江であるが、最近では活動の主舞台を映画やドラマに移しており、私が木村多江の舞台を観るのは初めてになる。

熱心なファンが多いことで知られる木村多江。薄幸の美女役が最も似合う日本人女優の一人だが、そのことは無関係に遅咲きの女優であり、全国的な知名度を得たのはフジテレビ系のドラマ「リング~最終章~」と「らせん」の山村貞子役で、この時28歳であった。

東京都に生まれ、白百合女学園小学校・中学・高校を卒業。そのままエスカレーターで白百合女子大学にも行けたが、本格的な女優を目指して昭和音楽学院ミュージカル科(現在は改組されて昭和音楽大学音楽芸術運営学科ミュージカルコースとなっている)に進学。卒業後は舞台女優として活躍。映画のちょい役などにも出演していた。

日本では一般的に可愛い系の女優が若くして売れ、美人系の女優は売れるのが遅いが、これはどこに原因があるのかわからない。誰が見ても美人タイプの女優である若村麻由美や森口瑤子も本格的に売れ始めたのはアラサーになってからである。

トム・プロジェクトは、これまで25作品のひとり芝居を創ってきたが、それでもプロデューサーの岡田潔からして「確かに異形のスタイルだと思う」(「エンドロール」無料パンフレットより)と書いているように、一人芝居というのは特殊な劇である。ライフワークのように一人芝居を続けている俳優もいれば、一切出演しないという役者もいる。
今回の「エンドロール」は、木村多江には見えるとされる人物が客席にいる人からは見えないので、観る側が想像で補うというスタイルを取る。「返事は返ってこないが対話型のセリフ」が大半で独り言は少ないが、キキという愛猫がいるという設定であり、独り言ではなくキキに向かって語りかけるということで処理している。また、スマホでのやり取りも多い。

一人芝居となると、どうしても役者との距離が近い方が観客も想像力を働かせやすいため、「エンドロール」も東京ではキャパ160名ぐらいのところでやったが、関西では800名収容の兵庫芸術文化センター阪急中ホールでの上演となった。木村多江の芝居を観たことがなかったため(2002年に栗東で子供のためのシェイクスピア作品に出演したのは知っていたが観に行ってはいない)、今日の公演のこともノーマークで、兵庫芸術文化センターで別の公演を観た際に初めて知り、チケットを取るのが遅れたため席も1階席の後ろの方だったが、観劇に問題はなく、観ることが出来てラッキーであったと思う。

普通のサラリーマンから劇作家になったことで知られる、ひょうたの本を中都留章仁が演出。

「エンドロール」のチラシには、映画「ティファニーで朝食を」のオードリー・ヘップバーンのポスターを意識したスタイルの木村多江が一人で写っている。高級マダムのような衣装で、煙管を手にしている。

この劇は、映画好きの40代の女性、広田五月(パンフレットなどは売られていなかったので正確な漢字はわからないが、多分、この字だと思う。演じるのは勿論、木村多江)が、すばるエンターテイメントという映画配給会社の入社試験に合格し、自分の好きな道に進めることがわかったことから始まる。ジャンルはコメディである。

開演時間になると劇場が溶暗。映画「風と共に去りぬ」の“タラのテーマ”が流れ、場内が明るくなる。舞台は高級フレンチレストランである。五月は7歳年下で商社勤務の彼氏、カサイタツヤからレストランでの食事に誘われたのだ。「アラフォーだからマナーは心得ている」という五月だが、指を鳴らしてもウエイターを呼ぶことすら出来ない。立ち上がってもウエイターは五月の姿が目に入らないようで、近くに来たウエイターを驚かすようにして、ようやく呼び止めることが出来た。

五月は、就職が決まったということをタツヤに告げる。ある日、自宅のポストに映画配給会社である、すばるエンターテイメントからの募集案内が届いており、映画の仕事は昔からやりたい仕事だったので、五月は早速応募。見事合格した。五月は三ヶ月前にアルバイトを辞めてから無職であったが、不安定な生活からもこれでおさらばである。

五月は面接で、すばるエンターテイメントの社長である倉田と会っていた。六十代後半の優しげな紳士だそうだ。

ここで唐突にタツヤから箱を受け取る五月。中にはダイヤモンドの指輪。プロポーズであった。だが、タツヤが結婚後は妻に家庭に入って貰いたいタイプであることを知っていた五月はすぐには返事できない。

舞台変わって、すばるエンターテイメントのオフィス。この劇は一人芝居にしてはやたらと場面転換が多い。

今日は五月の出勤初日。だが、すばるエンターテイメントのオフィスには誰もない。電話が掛かってくるので受け取るが、相手に何を言っていいのかもわからない。というところで、すばるエンターテイメントの社員達がオフィスにやって来て、電話は先輩に代わって貰うことが出来たのだが、実は週初めは30分早く出勤して会議室で会議をすることになっていたらしい。五月は合格を知って舞い上がってしまったため、そのことが耳に入らなかったようだ。

隣の席は大卒2年目のナガシマ。五月はナガシマに対しては社会人の先輩として振る舞う。一方で、高橋という社員は何故か五月を目の敵にしているようである。

社長の倉田から五月に初の仕事が言い渡される。アメリカのアクション映画の台本を手渡され、これを4日後までに日本語に訳すよう命令される。英会話は少しは囓ったことのある五月だったが、流石に無理難題と感じる。五月はナガシマから「育てようとしているだ」と言われたようだが、「育て方ってものがあるでしょう。育て方を間違えたらダースベイダーみたいになっちゃう(アナキン・スカイウォーカーのこと)」と五月。

舞台はまた飛んで、五月の自宅マンション。明日までにテキストを日本語に訳さないといけないのだが、やたらと饒舌なことで知られるエディ・マーフィー主演のアクション映画なのでセリフが長く、苦戦中である。「シルベスター・スタローン主演のアクション映画だったら良かったのに。『ウッ!』、『オッ!』、『エイドリアーン!』しか言わないから」と五月はキキに愚痴る。

そこに五月の母親がやって来る。何かと思った五月だが、母親が写真を持ってきたのを見て、また見合いの勧めかと悟る。母親はキキに勝手にニャン太郎と名前を付けるが、「名前はキキ。え? 希林はいらない!」などと言っているところに、タツヤから電話が。すぐそばに来ているので会いたいというタツヤに思いとどまるように言う五月であったが、結局タツヤは五月の部屋に来てしまい……
この場面では木村多江はコミカルな演技で観る者を楽しませた。

徹夜した上に彼氏と母親の対面に巻き込まれたため、またも遅刻してしまった五月。翻訳したテキストを高橋に渡すが、書体を直すように言われたり、ページ番号を振るように言われたりする。高橋が何故自分に冷たいのかをナガシマに聞くが、ナガシマは特にそういう風には感じていないようである。
だが、高橋に呼ばれた五月は、スマホのカメラに写った自分の母親と倉田社長のツーショットを見せられる。俄には信じられない五月。

夕刻。五月は、倉田社長に何故自分の母親と社長が二人で出会っているのかを問う。倉田は「向こうの許可がいるので二人に関係については言えない」と言ったようだが、実は五月がすばるエンターテイメントに入社できたのは母親の斡旋があったからであることがわかる。ショックに打ちのめされる五月。思わず辞意を口走ってしまう。

自宅でキキに向かって語りかける五月。五月は倉田と母の仲を疑っている。そして自らの夢があっさりと水泡に帰してしまったことにため息をつき、「ムーン・リヴァー」を歌う。「ティファニーで朝食を」の劇中歌であり、ここでチラシのオードリー・ヘップバーンのスタイルと繋がる。

木村多江の歌う「ムーン・リヴァー」であるが、音程が正確なだけでなく、哀感の表出に長けていて流石の演技力を見せる。

五月の父親は村の小さな映画館を経営していた。しかし、五月が高校生の時に映画館を畳むことにした。ほどなくして父親は入院。余命僅かと宣告されたときに父親は最後に映画を観たいと言い、五月は自宅からVHSを持って来た。父親が観た最後の映画は「風と共に去りぬ」。父親はグレース・ケリーやイングリッド・バーグマンも好きであったが、ヴィヴィアン・リーが一番のお気に入りであったという。

そこに倉田からスマホに電話が入る。倉田は今、ミニシアターにいるのだという。全てを知るためにミニシアターへと向かう五月だったが、五月の母親と倉田とは別に怪しい関係ではなく……

木村多江という女優の魅力を楽しむための舞台と断言しても良い。ストーリー自体は「もし一人芝居ではなく普通の上演スタイルでやったら結構お花畑系」なのであるが、木村多江の魅力を引き出す装置としてのエクリチュールと割り切れば十分に機能していた。

「エンドロール」というタイトルであるが、映画のエンドロールを最後まで観るタイプか、途中で退場派かに分かれ、五月は最後まで観る派であり、タツヤもそうなので価値観が合うというちょっとした幸せに掛けられている。また、劇のラストでは壁面に映像が投影され、本当の映画のエンドロールのようになっていた(役名はローマ字表記だったので漢字はわからなかった)。

冒頭とラストに「風と共に去りぬ」のタラのテーマが流れ、その他にも「明日に向かって撃て!」のオープニング&エンディングテーマ(「雨に濡れても」ではない)が使われているのが確認出来た。映画音楽はその他にも使われていたが、私が分かったのは「ムーン・リヴァー」だけである。

上演終了後、喝采を浴びた木村多江。「800人を前にというので緊張するかなと思いましたが、とても温かいお客さんで、笑うとこともちゃんと笑って下さって、大変嬉しく思います」というようなことを述べていた。

木村多江の印象であるがまず何よりも「可愛らしい人だな」という印象を受けた。容姿だけでなく、ちょっとした仕草が可愛らしい。上演時間約1時間40分と、決して短くはなく、稽古で苦戦もしたはずだが、そうしたところを感じさせないほど自然体の演技が出来ていた。

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