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2015年9月11日 (金)

コンサートの記(203) 「musics2015」

2015年9月5日 京都・木屋町三条下ルの元・立誠小学校講堂にて

木屋町通を下がったところにある元・立誠小学校に向かう。「musics2015」という音楽イベントを聴くためである。

遅れるのがいやなので(開場時間に間に合わない場合は特殊な事情がある場合以外は行かないか、向かっている途中なら帰る)早めに着いたのだが、着くのが早すぎた。スマートフォンでインストール出来る電子チケットを買って(「そんなものがあるのか」と感心した)、そこには15時と表記されていたため、当然、15時開演だと思い、会場である元・立誠小学校の講堂前に来たのだが、誰もいないし、リハーサルの真っ最中で音が漏れてくる。ということで、出演する湯川潮音のオフィシャルサイトで確認したところ、15時は開演時間ではなく開場時間で開演は16時であった。便利なものに頼りすぎると良くないようだ。ということで、しばらく時間を潰す。チケットは席番号が振られているものではなく、到着順の入場で自由席であるが、小さな会場であることはわかっているので前過ぎない方が良い。ということで、15時ちょっと前に元・立誠小学校に戻る。

今回の「musics2015」の目玉は、鈴木慶一率いるControversial Sparkと、久々に京都でのライブを行う湯川潮音。それにキツネの嫁入りというバンドと、本来は武川雅寬が加わるはずだったのだが、武川は急病に倒れ、しかも手術をしたというほど重く、大事を取って降板となった。武川の代わりに女性シンガーのpocopenが参加する。

鈴木慶一というと、私にとっては「ポピュラー音楽の神様」の一人である。YMOの三人(細野晴臣、坂本龍一、高橋幸宏)や山下達郎などと同クラスである。元・立誠小学校の講堂は楽屋がないため、今日は聴衆が会場前に開場前に並んでいる列の横の元工作室が楽屋代わりになる。ということで、鈴木慶一が私達の横を何度も通過したり、私の目の前にある元工作室に入ったりする。神様が近づいて来る度にこちらは自然と直立不動になってしまう。若い女性(といってもアラサーであろうが)が興奮しながら、「慶一さん! 慶一さん! 握手して下さい!」と鈴木慶一に駆け寄るのは見ていて微笑ましい。

「musics2015」は実は大々的に宣伝されてはいなかった。私同様、鈴木慶一のことを神様クラスだと思っている人は大勢いるため、大々的にコマーシャルを打つと、元・立誠小学校の講堂には入りきれないほどの人が押し寄せる可能性があるから、かどうかは知らないが、鈴木慶一が京都に来るという告知が通常のライブ並みにあったら、今日来た人数では収まらないだろう。

元・立誠小学校講堂はその名の通り立誠小学校の講堂兼体育館をほぼそのままに再利用しているもので、高くなった舞台も勿論あるのだが、今回はそれは使わず、上手奥のコーナーを客席と同じ高さのステージとし、客席となる横長の座椅子を斜めに置いて、ステージ(に見立てられた部分)が上から見ると三角形になるような使い方をしている。

トップバッターはキツネの嫁入り。男性4名、女性2名からなるバンドである。女性メンバーである、ひさよが育休中との断り書きがあるがどうやら復帰したようである。もう一人の女性メンバーである松原明音(まつばら・あかね)はトランペットとフリューゲルホルンという楽器を吹く。フリューゲルホルンは大型のコルネットであるが、コルネットも珍しい楽器なのにフリューゲルホルンとなると更に珍しい。今日はフリューゲルホルンの方が出番が多かった。女性メンバー二人はコーラスも担当する。

かなり複雑な音楽をやるバンドである。4拍子→5拍子→4拍子→5拍子、4拍子→3拍子→4拍子→3拍子などの変拍子を繰り返す楽曲が立て続けに演奏される。拍子をちゃんとカウントしていたため、肝心の歌詞が頭に入ってこなかったりする。その他にも5拍子の曲、ヴォーカルは5拍子で途中で女性メンバー二人が6拍子で加わって複合拍子となり、ヴォーカルも共に6拍子になった後で5拍子になり、ラストはヴォーカルとコーラスが6拍子になるという曲がある。ラストの「死にたくない」という曲だけが4分の4拍子で音楽はわかりやすいが歌詞は皮肉が利いている。

サラリーマンがメンバーにいて、転勤になったのでしばらく一緒に演奏出来ない状態だったとヴォーカル&ギターのマドナシが言っていたので、全員が社会人なのかどうかはわからないが、余り売れたいと思ってやってはいないはずである。一般人は単純なものを好む。複雑な音楽を面白いと思うのは、かなりの音楽好きだけである。

今月の14日に、京都の磔磔(たくたく)でライヴを行うそうなので、音楽がどれだけ複雑か知りたい方は是非行かれたし。

Controversial Spark。鈴木慶一率いるバンドである。ポップな音楽を演奏するが、こちらも、4分の4拍子→8分の3拍子→8分の4拍子と変わる変拍子の楽曲があり、普段余り音楽を聴かない人が接すると、「え? え? 何?」ということになるかも知れない。

他人がどう思うかはわからないが、私としては「いやあ、凄いなあ。流石は鈴木慶一だなあ」と感心しきりである。

pokopen。普段は女性デュオsakanaのメンバーとして活動しており、ソロとしても活動しているが、最近出したセカンドソロアルバムはソロとして22年ぶりのリリースになるそうで、あくまでメインはデュオらしい。声域はアルト。音楽性はブルースに一番近い。歌詞の内容はコミカルなものから切ないものまで幅広い。それにしても今日のイベントの出演者の音楽性は音楽マニアクラスでないと付いて行けないほどに広範である。出演者の知名度に比べて聴衆の数が少ないのは、世の中には音楽好きではあってもマニアまではいかないというある意味健全な人が多いからだと思われる。

トリを務めるのは湯川潮音。アメリカに2年ほど語学留学に行っており、音楽活動をしばらく休止した後で復帰した湯川であるが、今度は活動の拠点をニューヨークに移すそうである。

声の結晶度に関しては日本の現役女性シンガーの中で最高と断言出来るほどの美声と圧倒的な歌唱力を持つ湯川潮音。うじきつよしが率いていた子供ばんどの元メンバー、湯川トーベンのお嬢さんである。作風であるが、メルヘン調、寓喩などを用いた歌詞というより歌詩のような言葉選びと、聴いている分には心地良いが、歌うにはかなり難度が高いと思われる旋律が特徴である。ファルセットの美しさは天下一品だ。

最新アルバム『セロファンの空』からの楽曲が多いが、「逆上がりの国」など定番の曲も歌われる。マイクなどの音響に問題があり、調整のためにステージにスタッフが入ったところ爆音がしたり、「キーン」というノイズが入る曲があったりと、万全の状態で聴けなかったのは残念であるが、やはり湯川潮音は良い。コンサートに行き慣れているため、滅多なことでは「怖ろしいほど美しい」という感情を覚えることはない私であるが、湯川の美声には久々に怖ろしさを感じて、背筋がゾクッときた。

トークの時間が長かったのは音響の調整のための場つなぎの意味もあったと思われる。ライブなので何が起こるのかは誰にも分からず、聴衆に事故発生を悟られないようにする技術は大抵のミュージシャンは持っている。

なお、湯川はこの後、東京でソロコンサートを行った後で、なぜかペルーでの単独ライブが決まっているそうで、「しかも1500人ぐらい入るところで、誰がチケット買うんだろうと思っていましたが、お陰様で完売」だそうである。湯川の歌声をちょっとでも耳にしたことがあるなら「ライブで聴いてみたい」と思う人は世界中にいると思われる。

「Wikipediaによると私の肩書きが女優になっているんですけれど、映画に出たことがあって、セリフ二つぐらいだけの役」と自嘲的に語った湯川であるが、その映画「リンダ リンダ リンダ」での湯川の役どころは、「信じられないほど歌の上手い女子高生」であり、「The Water is Wide」や「風来坊」を歌った湯川は、本当に観客が驚くほどの歌声を披露している。私が湯川の存在を知ったのも「リンダ リンダ リンダ」を観てである。

「リンダ リンダ リンダ」に出て、共演した香椎由宇や松山ケンイチの演技を見た湯川は「俳優さんって、本当に凄いなあ」と思ったそうである。最新アルバムである『セロファンの空』に入っている「役者」という曲はその時の経験と、妻夫木聡が出演している未来へ行くエレベーターが出てくるビールのCMを見て思いついたそうである。「役者」は湯川としては分かりやすい歌詞を持つ曲であるが、聴いているとラビリンスに迷い込んだ末に突然の救済が訪れたかのような趣がある。

実はアンコールは用意されていなかったのだが、湯川は聴衆の鳴り止まない拍手に応え、他の出演者の方々に向けても拍手をといった後で、「ルビー」をギターで弾き語りする。「ルビー」は私も大好きな曲である。

約4時間という長丁場の音楽イベント。湯川潮音の歌声を聴いた後は、誰も会いたくなく、どこにも寄りたくなく、余韻に浸るため真っ直ぐ自宅へと帰った。こうした疲労感とこの手の孤独感は実に心地良い。

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