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2015年10月 1日 (木)

観劇感想精選(163) 加藤健一事務所「滝沢家の内乱」

2015年8月22日 京都府立府民ホールALTIにて観劇

午後3時から、京都府立府民ホールALTIで、加藤健一事務所の第94回公演「滝沢家の内乱」を観る。優れた海外演劇の翻訳劇公演を行っている加藤健一事務所であるが、今回は和物。主人公は滝沢(曲亭)馬琴である。作:吉永仁郎(よしなが・じろう)、演出:髙瀬久男(逝去により加藤健一が演出代行)。

加藤健一と加藤忍(同姓であるが血縁関係はない)による二人芝居であるが、声のみの出演として風間杜夫(友情出演)と高畑淳子(友情出演)が参加する。もう一人、子供の声担当として五味川友樹の名がクレジットされている。

曲亭馬琴こと滝沢解(たきざわ・とく。加藤健一)と、馬琴の息子である宗伯(風間杜夫)の妻となったお路(加藤忍)の二人が主人公。話の流れから考えると主役は馬琴ではなくお路であるとも考えられる。

「南総里見八犬伝」がヒット中の馬琴であるが、武家に戻るための御家人株を買おうと画策しており(滝沢家は馬琴の父までは武士であったが、馬琴の兄が貧窮のため家督を馬琴に譲るも馬琴も放蕩者であったため家は傾き、今は町人同然であった)、そのためには戯作の収入では足りないようで、庭に植えた梅や薬草、薬などを売って生活の足しにしている。そして若い頃とは異なり、質素倹約を旨としている。なお、戯作者同士は仲が悪いようで、馬琴は為永春水や柳亭種彦を見下した発言をする。味方であるはずの版元も誤字だらけの本を刷って「南総里見八犬伝」の評判を落としており、馬琴は「孤立無援」と感じているようである。

馬琴の息子の宗伯は生来の病弱。そのため馬琴は宗伯を子供の頃から外に出さずに育てたのだが、宗伯はそのために人嫌いになってしまう。馬琴は「育て方を誤った」と後悔している。何とか医師にはなれた宗伯であるが、自分の病気も治せない医師とあっては信用を得ることは出来ない。特に胃腸が悪く、しょっちゅう厠に駆け込んでいる。ちなみに宗伯は田原藩家老・渡辺崋山と交遊しているのだが、それが後に問題になりそうになる。馬琴の妻であるお百(高畑淳子)も癇性で病弱であり、しょっちゅう怒鳴っている。病弱のため二人とも奥に引きこもっており、声のみの出演となっている。
滝沢家には何人か女中がいるが、使いに出たまま逐電するなど、余り頼りにはならない。馬琴は「この世の中ろくでなしばかり。それでも世界が回っているのはまともな人間が後始末をしているからだ」と言い、お路を「まとも」と見なして味方に引き入れようとする。

滝沢家に嫁いだばかりのお路はおつむが足りない感じだが、徐々に凛とした知的な女性へと成長し、馬琴の右腕となっていく。

馬琴は自宅の屋根に上ってものお思いにふけるのが趣味であるが、一度、屋根の上で寝ぼけてお路に誘惑される夢を見てしまい、馬琴は日記に「悪夢だ」と記す。ちなみに夢の中でお路に引退後の趣味について聞かれる場面もあったのだが、お路に「芝居は?」と聞かれた馬琴は「馬鹿馬鹿しい」と答えている。

冒頭での加藤忍の演技は、江戸時代の女性にしては表情が豊かすぎるような気がして少し気になったが、後半のお路(馬琴から「琴童(きんどう)」という雅号を送られる)と対比させるための手法とみるなら悪くない。「滝沢家の内乱」はお路の成長を描く芝居のようなところがあるが、演技の引き出しから次々と最適な声音や表情、仕草などを繰り出す加藤忍はやはり良い女優である。

加藤健一演じる老馬琴であるが、予想以上ということはなかったが、安定した演技で楽しませてくれた。馬琴はまず右目が悪くなり、その後に両目とも失明するのだが、「見えているけど見えてない」演技の上手さは流石である。

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