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2015年11月14日 (土)

観劇感想精選(169) 「喜劇 有頂天旅館」

2015年7月12日 京都四條南座にて観劇

午後3時30分から、京都四条南座で、「喜劇 有頂天旅館」を観る。北條秀司の「比叡颪し」を“現代の戯作者”といわれる齋藤雅文が演出。劇中に出てくる方言は北條が指定したものとは違い、出演者の出身地のものであり、そのため設定もわずかに違う。出演:渡辺えり、村田雄浩、徳井優、曽我廼家文童(そがのや・ぶんどう)、綾田俊樹、森本健介(京言葉方言指導兼任)、二反田真澄、椿真由美、水月舞、新納慎也(にいろ・しんや)、キムラ緑子ほか。

滋賀県大津市の琵琶湖沿いにある老舗料理旅館、魚吉楼(うおよしろう)が舞台である。巡査・溝呂木を演じる徳井優が口上役と狂言回しを務める。溝呂木は魚吉楼で事件が起こり、その容疑者を紹介するという形で主要キャストが花道から出てきて横一列に並び、自己紹介をして劇は始まる。

魚吉楼の主である直三郎(村田雄浩)は、東京の大学を出て実家の魚吉楼を継いだが、自らが「髪結いの亭主」と名乗るとおり、旅館の運営は妻で女将のおかつ(渡辺えり)に任せっきりであり、女遊びに現を抜かしていた。おかつは山形の芸者だったが(渡辺えりが山形県出身なので設定を変えてある)、山形に出張に来た直三郎に見初められ、恋仲となる。直三郎には妻がいたが、病気で入院しており、余命幾ばくもないということで、直三郎が妻と籍を抜く前におかつは直三郎と一緒になってしまい、大津に出てきて魚吉楼を任されたのだ。

おかつは遣り手の女将であるが、欠点は新宗教に溺れていること。いかがわしい宗教の教祖を盲信しており、何をするにも教祖が決めた暦通りにしたり、教祖・光尊(椿真由美)の神託を真に受けたりしている。

魚吉楼はおかつと、女中頭の信代(キムラ緑子)が両輪となって動いている。信代は「~だす」という独特の語尾表現をするが、これはキムラ緑子の出身地である淡路島の方言であるようだ。

実は女好きの直三郎は信代とも男と女の仲である。

魚吉楼の板前が、三井寺の階段から転げ落ちて足を痛め、魚吉楼に通えなくなってしまう。そこで新たな板前、島吉(新納慎也)が呼ばれる。島吉は女形のような身なりと言葉遣い、というのは見せかけで、事件を起こして追われている犯罪者だった。そして島吉の女房が他ならぬ信代であった。信代は魚吉楼の乗っ取りを企んでいたのである。時あたかも東京オリンピック前夜、名神高速道が魚吉楼の敷地内を通る計画があり、信代は高額が予想される立ち退き料をもせしめる魂胆であった。

魚吉楼の従業員であるが、ギャンブル狂いの男衆・国松(綾田俊樹)、好色な番頭・善助(曽我廼家文福)、手癖の悪い飯炊き・おたき(森本健介)、不器用な下女の千代(水月舞)など、頼りない面々が並んでいる。千代は直三郎から特別に小遣いを貰うなど可愛がられており、信代は直三郎と千代の関係を疑うが、直三郎は千代は実は自分の実の娘と打ち明ける。

教祖・光尊がおかつにお告げを下す。「そちはこの家に縁薄き女」といわれたおかつは、直三郎が気に入りそうな下女を全員追い出し、芸者も入れないことに決める。だが実は光尊と信代はグルであり、逆に信代がおかつを追い出しやすくするよう仕向けていたのだった。信代は千代と直三郎の間が怪しいとして千代も追い出すことに成功。

だが、隣の家に空き巣が忍び込み、魚吉楼の人間全員に疑いが掛かる。隣家で事件があった日は、おかつが「日が悪い」として全員に魚吉楼から出ないように命じ、自分は逢坂山の光尊の家で託宣を授かり、その後、京都の円山公園にある連れ込み旅館で千代が働いているという情報を受け、千代の身を引き受けに出向いていた。

魚吉楼から出てはいけないはずであったが、直三郎は「山科に行く」と言って出ていき、島吉は「石山にいる親戚の容態が急変」と嘘を付いて魚吉楼を出る。信代もまた出掛け、男衆の国松は集金のために店まで出向く。直三郎や信代から口止め料を貰った番頭の善助も出掛けてしまう。つまり、アリバイがない人が大勢いたのだ。アリバイを洗っていくうちに事実が明らかになる……

誰が観ても分かりやすいように、少し開かれた形の上演となっている。登場人物の性格も表と裏の二つだけであり、重層的に入り組んでいるわけではない。ただ、そのままでも十分に分かりやすい戯曲であるため、音楽や照明が説明的に過ぎるのはやはり気になった。

日本を代表する舞台女優である渡辺えりとキムラ緑子であるが、意外にも二人とも南座の舞台を踏むのは初めてだという。キムラ緑子は同志社女子大学出身で、京都で活動を始めた劇団M.O.P.の看板女優であっただけに余計に意外という印象を受ける。ちなみにキムラは渡辺が主宰していた劇団3○○(さんじゅうまる)の大ファンだったそうである。

渡辺えりは自身の持ち味を前面に押し出した演技。対するキムラ緑子は二つ(数え方によっては三つ)の顔を持つため、硬軟自在の演技を披露する。村田雄浩は時折かなり面白い演技をする俳優であるが、今日は正攻法であった。

主要キャストはそれほど多くないが、幾つもの役を掛け持つ端役は新劇の台本の常として大勢いる。名前を挙げた人を除いて全17名の大所帯である。多い人は一人で六役を演じ分ける。

ラストが浪花節なのが好悪を分かちそうだが、謎解きも含めた楽しさに関しては万全の仕上がりである。

なお、大津が舞台ということで、南座の1階売店横には近江牛や近江米を始めとする滋賀県の名産品発売ブースが設けられていた。

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