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2015年11月 3日 (火)

コンサートの記(212) シベリウス生誕150年 小林研一郎指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第492回定期演奏会 シベリウス 交響曲第2番ほか

2015年10月14日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第492回定期演奏会を聴く。今日の指揮は「炎のコバケン」こと小林研一郎。熱烈なファンと強烈なアンチを持つという一人AKBのような指揮者である。ヘルベルト・フォン・カラヤンもファンとアンチに二分されるタイプだが、カラヤンの場合は耽美的な傾向と「傲岸」といわれた性格が災いしていたのに対し、コバケンさんの場合は性格的には腰の低い人で、濃厚な演奏スタイルが好悪を分かつようである。

曲目は、小林研一郎の「四季への憧憬(パッカサリアより)の自作自演、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」(ヴァイオリン独奏:南紫音)、シベリウスの交響曲第2番(作曲者生誕150年記念)。

今日のコンサートマスターは田野倉雅秋。なお、10月1日付けで、井野邉大輔がヴィオラ・トップ奏者に就任、同じく久貝ひかりがヴァイオリン奏者として入団している(久貝は第2ヴァイオリン奏者としてスタート。「ヴァイオリン奏者として入団」としか書かれていないため、このまま第2で行くのか第1に回るのかは不明だと思われる)。

大阪フィルでは毎年夏の「三大交響曲」演奏会のタクトを1991年から任されている小林研一郎だが、大フィルの定期演奏会に登場するのは久しぶりとなる。

早足で登場した小林は、指揮台に上がる前に、「皆様、今晩はようこそお越し下さいました」と挨拶。だが、私も含めて聴衆は「え? どういうこと?」と戸惑い、無反応だったため、「何とか反応を下さい(ママ)」と続けて聴衆が拍手を送った。

小林は1曲目に自作を指揮するので、曲目の説明をするためにトークを入れたのだった。「指揮者が演奏の前に語るというのは不遜な気がします」と言った後で、「自分の作品を1曲目として、しかもモーツァルトやシベリウスという大作曲家の前に演奏するなど、言語道断、という気がします。不遜とも思いますが、大フィルの首席指揮者の井上道義さんがどうしてもやって欲しいというので、やることにしました」と語り、秋に始まって夏に終わる「四季への憧憬」で描かれているものを説明する。

小林研一郎は、東京芸術大学音楽学部を二度出ている。二度目の入学は3年時編入学ではなく、一から受験勉強しての再受験である。もっとも、学士入学が流行り出すのは1980年代以降であるため、小林の時代には3年時編入学というものがなかった可能性も高いのだが。最初は作曲科を卒業し、その後に指揮科に入学、卒業している。作曲科も指揮科も優秀な成績で卒業しているが、指揮者としての活動が活発化したため、作曲に割く時間がなかなか取れなかった。「パッカサリア」は、小林が2000年に作曲し、自身でも取り上げている唯一といってもいい作品。日本初演の評判は「時代遅れ、時代錯誤」と散々だったらしいが、何だかんだで知名度はある。ただ「パッカサリア」の演奏時間は約30分を要するため、今回の大フィル定期のために小林が全10部中4部を抜き出して編曲し、「四季への憧憬」として纏めものを演奏することになったという。

曲はフルートが奏でる寂しげな「秋」で始まる。フルート独奏、フルート合奏が主で、クラリネット、ピアノ、ハープが合いの手を入れる。小林はフルートの旋律を尺八の音を念頭に作曲したそうで、極めて日本的な作品である。「冬」はシベリウスの交響曲第4番の冒頭に少し似た入り方をする。弦楽が凍えた音を出すが中途半端な印象は否めない。「春」になると淡い彩りによる雅やかな音楽が始まるが、一部二部に分かれており、第二部に入ると「春」にしては賑やか過ぎるような気もする。「夏」は夏祭りの音楽で、賑やかであるが(打楽器は「インプロ(Improvisation。即興という意味)」という指示だそうだ)、小林の性格が真面目すぎるためか、今一つ弾けた感じがしない。もっと盛大にやってもいいと思われるのだが。

モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」。室内オーケストラ編成での伴奏。小林はノンタクトで指揮。指揮台の前に譜面台とその上に総譜が置かれたが、小林は結局、一度も総譜をめくるどころか触れることすらせず、暗譜による指揮であった。

ヴァイオリンの独奏の南紫音(みなみ・しおん)は、先日、ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで第2位を獲得したばかり。コンクール終了後初の仕事が、この大フィル定期でのヴァイオリンソロだという。

関西でも聴く機会の多い南紫音。1989年、福岡県北九州市生まれのヴァイオリン奏者である。そのため、2005年には北九州市民文化奨励賞を、翌2006年には福岡県文化賞を受賞している。
2005年にロン=ティボー国際音楽コンクールで第2位に入り、注目を浴びる。その前年である2004年にはアルベルト・クルチ国際ヴァイオリンコンクールで優勝している。西南学院高等部を経て、桐朋学園大学を卒業。現在はドイツのハノーファー在住である。一般には知名度の低いハノーファーという街だが、ハノーファー国立音楽演劇大学出身の日本人演奏家が多く、また大植英次が同校の終身教授を務めているためクラシックファンにはよく知られている。プロフィールには、「現在、ハノーファーににてクシシトフ・ヴェグジンに師事」としか書かれていないが、南紫音もおそらくハノーファー国立音楽演劇大学で学んでいるのだと思われる。

自身の名前に掛けたのかどうかわからないが、紫のドレスで登場した南。磨き抜かれた美しい音を聴かせる。

南の実演にはこれまでも何度か接しており、「スケールが小さいな」という印象を抱いていた。ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで2位になったことで変化することを期待していたが、そう簡単に成長するということはないようで、今日もやや一本調子気味。音色は美しいのだが曲調の描き分けが十分とはいえず、変化に乏しい。

小林指揮の大阪フィルは時にデモーニッシュな響きも奏でるのだが、南のヴァイオリンは陰影が十分とはいえないように思う。左手のメカニックは抜群なのだが、表現においては壁に当たっているような印象を受ける。ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールも南が「今回で最後」という思いで受けたコンクールで、2位という結果には納得したそうだが、優勝できなかったのは「技術に偏りがち」と取られた可能性を否めない。

シベリウスの交響曲第2番。

「炎のコバケン」の愛称通り、小林研一郎というと、熱い演奏を思い浮かべがちなのだが、実際の小林はかなり器用な指揮者であり、このシベリウスでも演奏にふさわしいヒンヤリとした響きを大阪フィルから引き出す。

比較的ゆっくりとしたテンポでスタート。各楽器をよく歌わせるが、歌い方が悪く書くと演歌調になりがちなのが小林のクラシック指揮者としての弱点である。小林研一郎は美空ひばりが大好きだそうで、結果として日本的な歌い方を採り、それが日本的に噛み砕かれたクラシックを好む人には指示され、ヨーロッパ至上主義の人からは「異端」と見なされるのかも知れない。

第4楽章の入りでテンポをグッと落とすところなどは実に日本的である。

シベリウスの交響曲第2番というと、金管の威力、特にホルンの腕が試されるのだが、今日の大フィルのホルン陣は好調。完璧とまではいかなかったが、先月の大植英次指揮のブラームスでの不調が嘘のように達者な演奏を披露する。金管の中でもむしろトランペットが能天気な軽い音を出しており、シベリウスには不似合いであった。無料パンフレットを執筆した片山杜秀が、最終楽章について、「ドイツ的高潮」「フィンランド的高潮」として、完全に凱歌という解釈をしており、小林もそうした解釈をしていることがわかる。間に挟まれた不穏な部分については片山は「準備運動のような経過」とのみ書いており、その暗さには触れていない。小林も暗さを強調することはなかった。

私自身が、「第4楽章は凱歌」という解釈には疑問を抱いている。そう考えるのは勿論私だけではないようで、例えば大植英次などは、暗い部分を強調して単純な凱歌としない解釈で聴かせている。

演奏終了後、小林は指揮棒を指揮台の上に置き、弦楽器奏者達と握手、第1ヴァイオリン奏者とは全員と握手する。いったん退場してから再登場した小林はホルン奏者達の下へと歩み寄り、台の上へと登って握手。その後、ティンパニ、オーボエと握手をして回り、フルート、クラリネットを立たせて拍手を送った。

再び指揮台のそばへと歩み寄った小林は、「実に雄渾な演奏だったと思います。皆様達と同じように私も大フィルのファンでございます。このような素晴らしい演奏を聴いた後ではもう何もお聴きにならない方が良いと思います」とユーモアを交えて語り、楽団員全員と共に二度頭を下げ、コンサートはお開きとなった。

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