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2015年12月28日 (月)

コンサートの記(219) 上岡敏之指揮 読売日本交響楽団第13回大阪定期演奏会「第九」公演

2015年12月26日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後5時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで読売日本交響楽団第13回大阪定期演奏会「第九」公演を聴く。指揮は上岡敏之。

大阪公演を重視し、年3回の大阪定期演奏会を行うようになった読売日本交響楽団。来年度の大阪定期の指揮者と曲目もすでに決まっている。


録音の世界ではすでに有名になっている上岡敏之。指揮者としてデビューした後で、ピアニストとしてもCDデビューしているという異色の存在である(ピアニストが指揮者になるという逆のパターンは良くある)。
1960年、神奈川県生まれ。県下随一の進学校である湘南高校に進学。一学年上に大野和士がいた(同じ1960年生まれだが、大野は早生まれ)。ただ、上岡の入学当時すでに大野は校内のヒーロー的存在であり、湘南高校内では勉強が出来る方ではなかった上岡は引け目を感じたという。一方で、大野の方は上岡のピアノの腕を高く買っていたようで、合唱を指揮する際のピアニストに上岡を指名していたという。湘南高校卒業後は先輩である大野と同じく東京芸術大学の指揮科に入学するが、芸大時代の教師からの評判は散々だったようで、芸大の大学院進学を目指すも不合格。教授に紹介されて帝国ホテルのフロントとして1年間働く。

帝国ホテル勤務時代も音楽家への夢を諦めたわけではなく、深夜勤務の時間帯などには紙の鍵盤でピアノの練習をしていたことが確認されている。

1年の社会人生活を経た後でドイツ留学のための試験に合格し、渡独。ここから上岡の快進撃が始まる。ハンブルク音楽大学入った上岡は学生有志を集めてオーケストラを結成。その他にも、ちょっとした休み時間があった場合は知り合いの学生を誘ってアンサンブルの指揮。ピアノでも高く評価され、芸大時代の劣等生が一躍ハンブルク音楽大学のヒーローになる。その後、ドイツ各地の歌劇場でコレペティトール(オペラの伴奏ピアニスト)を務め、キール歌劇場ではソロ・コレペティトールとなり、同時にオペラ指揮者としての活動も開始。エッセンやヴィースバーデンの歌劇場の指揮者として働いた他、北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に指名され、コンサート指揮者としてのキャリアもスタート。

2004年にヴッパータール歌劇場音楽監督およびヴッパータール交響楽団の首席指揮者となりヴッパータール市全体の音楽監督にもなる。この時代に上岡の名は日本でも知られるようになり、ヴッパータール交響楽団とはCD録音や来日演奏会を行っている。現在はザールランド州立歌劇場の音楽監督を務め、2016年9月からは新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任する予定である。

捲土重来の見本のような指揮者であるが、作り出す音楽はかなり個性が強く、賛否両論気味である。第九の演奏もヴッパータール交響楽団を指揮したものがライブ録音され、CDで出ているが、とにかくテンポの速い演奏で、音楽評論家や音楽ファンを戸惑わせている。全4楽章からなる第九を単一楽章の交響曲のように一気呵成に演奏している異色の演奏だ。


今日の読売日本交響楽団のコンサートミストレスは日下沙矢子(読売日本交響楽団にはコンサートマスターが日下も含めて4人いる)。合唱は新国立劇場合唱団。独唱者はイリーデ・マルティネス(ソプラノ)、清水華澄(アルト)、吉田浩之(テノール)、オラファ・シグルザルソン(バリトン)。


今日はステージ上手上方の2階席、RC席という、わかる人には「私らしい名前の席」と思われる席での鑑賞である。


読売日本交響楽団の月間無料パンフレットである「月刊オーケストラ12月号」に上岡敏之のインタビューが載っており(コンサートミストレスの日下沙矢子へのインタビューも載っている)、上岡はヴッパータール交響楽団と録音した第九について、「今ではあの解釈は良くなかったと思います」「全体的にはもう少しテンポを落とすでしょう」と書いているが、実際は今日も快速テンポの演奏であった。予定演奏時間は65分となっていたが、それより2~3分は短い。

ベーレンライター版の楽譜を使用(そのため第4楽章ではピッコロの大活躍が聴き取れる)。ドイツ式の現代配置での演奏だがピリオド・アプローチを採用。弦のビブラートは全般を通してみると、それほど抑えているというわけではなかったが、部分部分で徹底したノンビブラート奏法を用いることでメリハリを付けている。

冒頭から快速進行。「無調」といわれる部分が終わり、短調に変わる場面は余りドラマティックにしないが、全般を等して緊張感のある演奏である。音楽は「緊張」と「弛緩」からなっているのだが、上岡指揮の第九には「弛緩」する場所がない。そのため、一筆書きのような独特の第九を生む。弛緩する場面がないからといって一本調子かというとそんなことは全くない。
ピリオド・アプローチであるため弦は薄くなっているが、第1楽章では緊張に次ぐ緊張の連続であるため音楽が怒濤のように押し寄せ、聴く者を押し流さんばかりになる。

第2楽章は緻密なアンサンブルで森羅万象の鳴動を聴かせる。上岡の指揮(暗譜での指揮である)はビート幅は基本的に小さいが、ここぞというところで両腕を大きく使う。また上体の動きは機敏で、第1ヴァイオリンに指示していたかと思うとサッと180度回転してヴィオラを指揮する。この楽章ではヴィオラが突然それまでとは違う音色で鳴ったことに驚いた。他の弦楽器の音色は変えることがなかったのでヴィオラだけが浮かび上がる形になるが、一つの楽器だけ音色を変えるという発想がこちらにはなかったため、ハッとさせられる。
第2楽章のラストはピアノ(楽器ではなく音の強弱の方)で終わる。川瀬健太郎指揮大阪交響楽団の年末の第九演奏でもやはり第2楽章の締めを小さくしていたが、ベーレンライターにそうした指示があるのかも知れない(上岡と川瀬以外にピアノで終わった演奏は聴いたことがないが)。

第3楽章はノンビブラートの弦楽器が美しく鳴る。管楽器も好調で、テンポはかなり速めであったが、せわしない感じは受けない。また、第1楽章、第2楽章も含めて、反復記号を全て繰り返していたが、テンポが速いため、それでも繰り返しをカットしたモダンスタイルの演奏よりは楽章ごとの演奏時間は短い。「冗長」ともいわれる第3楽章であるが、上岡の指揮では「長い」とは少しも感じなかった。

第4楽章に入る前に独唱者や打楽器奏者、ピッコロ奏者がステージ上に現れるが、聴衆は上岡の意図を把握しており、拍手が起こることはなかった。

その第4楽章も快速テンポ。「歓喜の歌」のメロディーをチェロとコントラバスの低弦群が歌う前に間を開けるのが慣例であるが、上岡は間髪を入れずに歌わせる。逆にバリトンが歌い出すまでは間を置き、バリトンのシグルザルソンも慣れていないような仕草を見せていた。なお、西洋の歌手は第九を歌うことに慣れていないため、楽譜を手に歌うのが必要であるが、上岡のインタビューからリハーサルが徹底して行われたことが察せられ、また東京と横浜で数公演を行ってから大阪入りして今日が楽日ということもあってか、シグルザルソンもソプラノのマルティネスも暗唱であった。

テンポが速いことばかりを書いているが、インテンポではなく、緩急自在で即興的に聞こえるところがある。また強弱も自在だが、ちょっと神経質に思える箇所もあった。フェルマータを短くするのも特徴である。

新国立歌劇場合唱団も独唱者達も好調。読響の演奏も見事で、ラストの超快速テンポを見事に弾ききる。


インタビューで「僕が一番嫌いなのは、「定番」と言われるような演奏です」と答えている上岡。確かに感動させるような第九ではなく、聴く者を圧倒するような第九であり、これまで聴いてきた中で最も衝撃的な第九の演奏だった。深みがある演奏ではないかも知れないが、音の情報量が多く、濃密であり、鮮烈な印象を受ける。音楽は生き物であるということがヒシヒシと感じられた。第九に関しては、年末だけでなく、年がら年中CDで聴いており、よく分かっているつもりになっていたが、「つもり」に過ぎなかったことを思い知らされる。余りにもインパクトの強い演奏を聴いたため、終演後、梅田に向かって歩いている間は茫然自失の体であった。クラシックを聴いたのに未来の音楽に接したかのような不思議な気持ちで。

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