« 三橋美智也 「星屑の町」 | トップページ | 個室美女・第4回 あんたバカァ?の女 »

2015年12月 1日 (火)

コンサートの記(214) 内田光子ピアノリサイタル in 名古屋2015

2015年11月13日 名古屋・栄の愛知県芸術劇場コンサートホールにて

午後6時45分から、名古屋市栄の愛知芸術劇場コンサートホールで、内田光子ピアノリサイタルを聴く。

「日本人最高のピアニスト」という名声を確固たるものにした感のある内田光子。「日本人ピアニストとしては別格」と評価される一方で、熱海生まれであるが外交官の娘で12歳の時からずっとヨーロッパで育ち、今もロンドン在住ということで、「生まれも国籍も日本だけれど、中身はヨーロッパ人」といわれたりもした。実際、「素っ頓狂に上手い」などという変な日本語を使う人でもある。21世紀に入ってからは国籍をイギリスに変更し、名実共にヨーロッパ人にもなったわけだが、内田本人は「日本が二重国籍を認めないので英国籍に変えただけで、私は日本人」と語っている。日本国籍のままだとヨーロッパで演奏旅行を行うのに煩瑣な手続きが必要となるため、国籍をイギリスに変更したのだという。
2009年にエリザベスⅡ世女王からデイムの称号(男性の「サー」に相当)を贈られ、デイム・ミツコを名乗ることも許されている。一方で、日本の文化功労者にも選出されている。

曲目は、シューベルトの「4つの即興曲」作品142とベートーヴェンの「ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲」。先日行われた東京のサントリーホールでのリサイタルでは皇后陛下が臨席され、御前演奏会となったものと同一プログラムである。

シューベルトは「4つの即興曲」を2つ書いている。作品90と作品142の2つだが、作品90に比べると作品142の方は「4楽章のピアノ・ソナタ」と考えられるほど4つの曲の関連度が高くなっている。

今日はピアノ付近以外の照明を絞っての演奏であるが、非常口誘導灯は消灯しないままでの演奏であった。

内田は黒の上下の衣装に黄色のシースルーのジャケットを纏って登場。世界的ピアニストの貫禄十分である。残念ながら、今日は3階ステージ上手寄りの席であり、演奏中の内田の顔はピアノの蓋の陰になって表情を見ることは出来なかった。

シューベルトの「4つの即興曲」作品142。内田のピアノは確固たる造形美、極めて高いメカニック、説得力のある表情付け、硬軟自在の音色、明と暗の対比など、いずれもトップクラスのシューベルトを奏でる。暗い旋律を奏でているときは、本当に地獄からの響きのような音がする。

内田は他のピアニストとは調弦の違うピアノを用いているそうで、それが仄暗い音を出すのに効果的だそうだが、当然ながらそれを生かす表現力は必要となるわけで、調弦さえ違えば良い演奏が出来るというわけではない。

第2曲の詩情の豊かさと、奥行きが特に印象的である。

ベートーヴェンの「ディアベッリのワルツの主題による33の変奏曲」。この曲は、アントン・ディアベッリという楽譜出版で一儲けした富豪にして作曲家という人物が、自身が書いた短いワルツを主題とした変奏曲を書くことを複数の作曲家に依頼。ベートーヴェンにも依頼が舞い込んで書かれたものである。他に作曲を委嘱された作曲家には、教則本でお馴染みのツェルニー(ベートーヴェンの弟子)、フランツ・クサヴァー・モーツァルト(ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの四男(成人した者だけで考えると次男)で、「モーツァルトⅡ世」を名乗って活動したが、名声を得られぬまま早世している。そもそもモーツァルトの実子ではないという説もある)、カール・マリア・フォン・ウェーバー、フランツ・リストなどがいる。

ディアベッリとしては本気で自作を売り込もうと思ったのではないはずで、ベートーヴェンが33もの変奏からなる本格的な楽曲を生み出したことに一番驚いたのはディアベッリ本人なのではないだろうか。

ディアベッリの比較的簡素なワルツが奏でられた後に、ベートーヴェンの変奏が登場するわけだが第1の変奏が出た時点で、ディアベッリが作曲したものとは比べものにならないスケール雄大にして力強い音楽が奏でられる。

内田の演奏は、全曲を通してベートーヴェンの精神的な気高さが窺えるもので、変奏毎の巧みな表情の弾き分け、堂々たるスケール、難しいパッセージも楽々と弾きこなす技術、心底からのエレガンス、抜群のリリシズムなど、美点を挙げていったら切りがない。

内田光子は女性であるが、とても男前な演奏をするピアニストである。格好良かった。

アンコールなしでお開きとなったが、聴き応えのあるピアノリサイタルであった。

|

« 三橋美智也 「星屑の町」 | トップページ | 個室美女・第4回 あんたバカァ?の女 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/62782429

この記事へのトラックバック一覧です: コンサートの記(214) 内田光子ピアノリサイタル in 名古屋2015:

« 三橋美智也 「星屑の町」 | トップページ | 個室美女・第4回 あんたバカァ?の女 »