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2016年1月26日 (火)

観劇感想精選(175) 第7回さざなみ演劇祭より グループ「橋」 「雲のうえの『べゑすぼおる』」

2015年12月20日 滋賀県大津市のスカイプラザ浜大津7階スタジオ1にて観劇

第7回さざなみ演劇祭。グループ「橋」という劇団の「雲のうえの『べゑすぼおる』」という作品を観る。午後2時開演。
東京巨人軍(現・読売ジャイアンツ)の投手として活躍するも、22歳の若さでフィリピン・レイテ島の戦場に散った大津出身の広瀬習一と広瀬を囲む人々の話である。

原作は上田龍の『戦火に消えた幻のエース』。ちなみに著者である上田龍は客席に招かれていた。東京からみえられたそうである。脚本は草川てつを。

広瀬習一の話であるが、主人公は追分(大津市の中でも京都市方面の山側にある町である)に住む絵描きの八軒先生である(気合いを入れるときには五郎丸ポーズをする)。

広瀬も追分の出身であり、戦前の大津市のメイン球場は追分からも近い緑が丘球場(緑が丘グラウンド、緑が丘運動場)という野球場(現存せず)だったようである。戦前には全国中等学校野球選手権(全国高等学校野球選手権の前身)の京滋大会の舞台となった他、京津戦という中等学校(現在の高等学校に相当)の野球交流戦があったそうで、京都市の平安中学(現・龍谷大平安高校)、京都商業(現・京都学園高校)、膳所中学(現・滋賀県立膳所高校)、大津商業(今も高校として存在)などが定期的に試合を行っており、またこの球場で行われた大津商業対膳所中学の試合は、「大津の早慶戦」とも言われて人気を博していたそうである。商売人の人たちは大津商業(略称は「大商(だいしょう)」。一般的に「大商」というと大阪商業大学を連想しがちだが、大津に限っては大津商業のことを指すようである)を、サラリーマン家庭は膳所中学を応援したそうである。

広瀬習一も勿論登場するが、出番はそれほど多くなく、広瀬を巡る人々の人間ドラマとなっている。
広瀬は運動神経抜群で、尋常小学校時代には水泳選手としても大人を驚嘆させるほどであり、陸上競技をやらせても大津一の俊足で、大津商業に入った時には運動部の間で取り合いになったそうだが、広瀬は野球を選んでいる。
広瀬は最初はショート兼投手だったようで、春の選抜甲子園には1番・ショートとして先発出場している。試合の模様は、八軒先生の家のラジオで聴かれるという設定なのであるが、広瀬は2つもエラーをしてしまい(史実のようである)、1-3で初戦敗退。広瀬は社会人野球を経て東京巨人軍に入団することになる。

巨人軍の藤本定義監督が今日の先発投手をどうするか、飯泉春雄マネージャーと話している場面から劇は始まる。戦中であり、敵性言語である英語は用いることが出来ず、東京ジャイアンツは東京巨人軍としか名乗ることを許されなかった。巨人には戦地から復帰した沢村栄治がいたが戦場で肩を故障しており、また最近は不調が続いている。須田博(すた・ひろし)と名前を変えざるを得なかったヴィクトル・スタルヒンは肋膜炎で戦線離脱。巨人の初代背番号18のエースで左腕の中尾輝三(戦後は中尾碩志に改名)も酷使で使いづらい。そこで、藤本は大津商業出身のルーキーピッチャー広瀬習一に白羽の矢を立てる。広瀬は期待に応えてデビュー戦を散発3安打の完封で勝利。巨人のデビュー戦完封勝利投手第1号となるのだったが、戦局が悪化し、やがて広瀬も戦場へと送られることになる……。

名前だけの登場であるが、若林忠志や野口二郎の名前が出てくるなど、野球好きが相好を崩すこと必至の劇である。

アマチュアの劇団であるが、出演者の演技も楽しめる水準に達している。脚本も上手いが、ラストは演劇しすぎである。ただ、優れた実績を上げながら余り知られていない人物に光を当てるのは後世の人がやらねばならない仕事であり(広瀬習一は1942年に21勝6敗、防御率1.19の好成績で最高勝率投手に輝いている)、良い劇を観させて貰った(日本語としては余り使いたくない言い回しだが他に良い書き方がない)と思う。

演劇祭のための上演で上演時間は1時間と決まっていたのだと思われるが、広瀬習一もただ純朴な野球小僧というだけではなかったはずであり、倍の尺で広瀬についてもっと掘り下げたバージョンも観てみたいと思った。

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