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2016年1月 3日 (日)

コンサートの記(221) 大阪音楽大学創立100周年記念特別公演 ヴェルディ 歌劇「ファルスタッフ」

2015年11月1日 大阪府豊中市の大阪音楽大学ザ・カレッジ・オペラハウスにて

午後2時から、大阪府豊中市庄内にある大阪音楽大学 ザ・カレッジ・オペラハウスで、ヴェルディの歌劇「ファルスタッフ」(大阪音楽大学創立100周年記念特別公演)を観る。シェイクスピアの『ウィンザーの陽気な女房たち』を作曲家でもあるアッリーゴ・ボーイトがリライトした台本を用いた、ヴェルディ最後のオペラである。オペラ界の巨星・ヴェルディは生涯に26の歌劇を書いたが、その大半は悲劇で、喜劇は2作品だけであり、有名な作品は「ファルスタッフ」だけである。当時は悲劇オペラ全盛の時代であり、イタリアの作曲家が得意とした喜劇オペラ(オペラ・ブッファ)は衰退の一途を辿っていた。ヴェルディが「ファルスタッフ」を書いたのはそうした状況を憂いてのことだったともいわれている。

指揮は下野竜也。演出は岩田達宗(いわた・たつじ)。ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団の演奏。出演は、田中勉、晴雅彦(はれ・まさひこ)、松田昌恵、石橋栄実(いしばし・えみ)、清水徹太郎、荒田祐子(あらた・ゆうこ)、並河寿美(なみかわ・ひさみ)、清原邦仁、小林峻、松森治、山川大樹(やまかわ・ひろき)、森本絢子ほか。人会戦術を用いており、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団のメンバーが数多く登場する。かなり若い人も加わっているが、あるいは大阪音大の学生も含まれているのかも知れない。演出の岩田達宗は今年の4月から大阪音楽大学の客員教授に就任している。

開場時間の午後1時ちょっと過ぎにザ・カレッジ・オペラハウスに入場する。ホワイエに岩田先生がいらしたのでまず挨拶。「ファルスタッフ」の原作である「ウィンザーの陽気な女房たち」はシェイクスピアの作品の中でも一二を争うほどの駄作という評価が定着しており(シェイクスピアの名を借りた偽作説もあるそうだ)、それを基にした「ファルスタッフ」の台本もラストなどは上手く出来ているものの全体としてはそう大したものではないと感じていたが、岩田先生にいわせると「大傑作」だそうである。「ファルスタッフ」はヴェルディのオペラの中でも人気の高い演目であるが、ある意味、ヴェルディの生涯の総決算ともいうべき部分があり、それが人々の心を惹きつけるのかも知れない。
ちなみに、岩田先生は東京外国語大学卒ということもあり、語学が得意で、語学力を生かして若い頃はヨーロッパを転々としていたそうで、ロンドンにいた頃はコヴェント・ガーデンでチャールズ・マッケラス指揮のオペラ公演も観ているという。故チャールズ・マッケラスは私の大好きな指揮者であったが、生で聴くことは叶わなかった。生で楽しめた岩田先生が羨ましくなる。

廻り舞台を採用。サー・ジョン・ファルスタッフの住む居酒屋ガーター邸の裏にフォード家のセットなどがあるのだが、ガーター亭は地下でその上に十字架があり、舞台が廻転すると、フォード家はその上にあるという見立てがなされており、中央の十字架以外にも複数の十字架があることから、ガーター亭は地下墓地であると暗示されている。

ハロウィンの時期ということもあり、定番の魔女の格好をしたキャストがいたり、ジャック・オー・ランタンが用いられたりと、楽しい演出がなされているが、単に愉快なだけの喜劇というわけではないこともわかる。

字幕は工夫されており(字幕原稿:唐谷裕子)、医師カイウス(清原邦仁が演じている)のセリフの語尾が「ザマス」になっていたり、「だめよだめだめ」という昨年の流行語が用いられていたり(日本エレキテル連合がテレビから消えたということもあり、余り受けなかったが)、バルドルフォ(演じるのは小林峻)のセリフがラッパー調で語尾に「yo!」が用いられていたりと面白い。

貴族でサー(卿)の称号も得ているジョン・ファルスタッフ(田中勉)であるが、左党であり、金のほぼ全てを飲み代に費やしてしまって今はすっからかんである。医師のカイウスがガーター亭の乗り込んできて、ファルスタッフの従者であるバルドルフォ(小林峻)とピスト―ラ(松森治)が「金をくすねた」と怒りをぶつけるのだが、ファルスタッフは適当にあしらう。カイウスは怒ったまま帰ってしまう。
住んでいるガーター亭の主から一週間分の勘定書きを渡されたファルスタッフであるが、持っている金は雀の涙。だが、更に酒を要求する。
ファルスタッフはウィンザーに住む二人の富豪夫人、アリーチェ・フォードとマルガリータ・ペイジ(愛称はメグ)という二人の女性に恋心を抱いており、二人をものにすることで金もいただこうという一挙両得の悪巧みを考えている。

そして、アリーチェとメグに書いた恋文をバルドルフォとピスト―ラに届けるように命じるのだが、バルドルフォもピスト―ラも「名誉のためにそれは出来ない」と断る。ファルスタッフが「名誉が何になる。名誉などただの言葉に過ぎない。名誉で腹が膨れるか」とある意味理性を批判するような歌を唄う。ファルスタッフは従者達をクビにし、恋文を小姓のロビンに託す。ちなみにロビンは少年という設定でありながら女性の森本絢子が演じているが、森本は大阪音楽大学の短期大学部ミュージカルコース卒であり、在学中はダンス、演技、歌を習い、現在はミュージックスクールの主催者ということで、セリフはないロビンの役をバレエを含む巧みなダンスで魅力的に演じている。

なお、医師カイウスは金ピカの衣装で俗物ぶりを発揮しており、バルドルフォとピスト―ラはハリウッド映画に出てくる怪物のようなメイクと格好(しっぽがあったりする)をしており二人ともまともな人物ではないことが示されている。

第1幕第2場で登場する女性陣(ウィンザーの陽気な女房たち)は、全員白を基調としたきちんとした衣装であり、女というものがファルスタッフが見下すような愚かな存在ではないことがわかる。

アリア―チェ(松田昌恵)とメグ(並河寿美)は、共に恋文を受け取ったことで心躍らせているが、恋文を交換して読んでビックリ。二通ともファルスタッフからのもので、宛名が違うほかは文章は一字一句違わぬそのままのものであり、ファルスタッフの署名も印鑑も一緒である。完全に見下した態度である。肥満体(「メタボ」という訳語が用いられている)の老人が今も昔のままの色男気取りでいることに呆れたアリア―チェとメグはファルスタッフを懲らしめる計画を立てる。

一方、ファルスタッフの従者であったバルドルフォとピスト―ラは主を裏切り、アリア―チェの夫であるフォード(晴雅彦)にファルスタッフが妻を寝取ろうと企んでいることを告げる。フォードはアリア―チェの浮気を疑い、フォンターナ(日本語訳された「泉」と表示される)という偽名を用いて、ガーター亭を訪れることにする。隠れて男達の会話を聞いていたアリア―チェは夫の嫉妬を警戒する。

アリア―チェとフォードの娘であるナンネッタ(石橋栄実)は、フェントン(清水徹太郎)という若者と愛し合っている。だが、フェントンは今は好青年風であるが、かつてはチンピラであり、フォードからは嫌われていた。一人になったフェルトンは愛の不変を歌うが、一方のナンネッタは人間は日々姿を変える月のように変化していくものと歌っている。二律背反のように思えるが実際はこれは両立可能なことである。

第2幕。ウィンザーの陽気な女房たちの一人であるクイックリー(荒田祐子)が、ガーター亭を訪れ、ファルスタッフに、「アリア―チェもメグもあなたを恋い慕っている」と嘘の報告をする。そして、フォードが毎日午後2時から3時までの間は外出しているとアリア―チェが語ったと告げる。アリア―チェが靡いたと思い込んだファルスタッフは早速、午後2時過ぎにフォード邸を訪れることにする。勿論、クイックリーがファルスタッフに告げたことはウィンザーの陽気な女房たちがファルスタッフを陥れるために練ったものである。

クイックリーと入れ替わるように、泉(フォンターナ)という偽名を用いたフォードがファルスタッフを訪れてくる。泉はアリア―チェを恋い慕っているのだが、アリア―チェは泉を愛を示さない。そこで、ファルスタッフにアリア―チェと恋仲になってもらうよう提案する。ファルスタッフにアリア―チェが落とせるなら自分とアリア―チェの間に恋が芽生えるというのもあり得ない話ではないというのだ。ファルスタッフを見下した奇妙な話であるが、ファルスタッフは深くは考えず安請け合いしてしまう。
そうこうしているうちに午後2時が迫り、ファルスタッフはアリア―チェに会いに行くことを告げる。「2時から3時までは毎日自分が外出している」ということをファルスタッフが知っていることで、妻の浮気を確信するフォード。実はフォードの勘違いなのであるが、そのまま話は進む。

クイックリーはガーター亭での作戦が成功したことをウィンザーの陽気な女房たちに聞かせ、アリーチェやメグは喜ぶが、ナンネッタだけは上の空。話を聞くと、父親のフォードから医師カイウスと結婚するよう厳命されたとのこと。アリーチェ、メグ、クイックリーは、「あんなゲスと?」、「ザマス男と?」、「だめよだめだめ」とフォードが進める縁談に反対する。

フォード邸にファルスタッフがやって来る。ファルスタッフはアリーチェのことをベタホメする一方で、メグに関しては「あんなあばずれ女」などと評して、隠れて話を聞いていたメグを怒らせる。クイックリーはメグを何とかなだめる。アリア―チェはファルスタッフの話に簡単には乗らない。そこへ、クイックリーとメグが登場し、「フォードが帰ってきた」と告げる。実はこれは嘘なのであるが、ファルスタッフは屏風の後ろに隠れる。だが、ウィンザーの陽気な女房たちはフォードが泉(フォンテーヌ)の偽名を使ってファルスタッフを訪れていたことは知らない。嘘を付いて洗濯籠の中にファルスタッフを入れ、その後、二階の窓からファルスタッフを川に突き落とす作戦だったのだが、フォードが大勢の仲間を連れて本当に帰ってきてしまったため、ファルスタッフを取り敢えず屏風の裏に隠しておくことにする。フォードは間男を探すよう、仲間や手下に命令する。男達が、邸の隅々を探すために散ったところで、女房たちはファルスタッフを洗濯籠の中に入れることに成功する。

騒ぎをよそに、ナンネッタとフェントンがフォード邸で密会。屏風の裏に隠れて、愛を語らう。屏風の裏に人がいることに気付いたフォード達は、それがファルスタッフとアリーチェだと思い込み、襲撃するも、実際に現れたのは若い二人。娘とフェントンが一緒にいることでフォードが激怒する。そして、男達がファルスタッフを見つけようと、また散ったたのを見計らい、女房たちは下男達に命じて洗濯籠の中のものを川に落とすように命令。かくしてファルスタッフは川に突き落とされて恥を掻くことになる。

第3幕では、ウィンザーの女房の行いに腹を立てているファルスタッフであるが、クイックリーがやって来て、アリーチェからの手紙を渡され、それが逢瀬の誘いだと知ると、またもコロリと騙されてしまう。ウィンザーの女房たちとフォード、カイウスらはガーター亭の上の部分でクリックリーとファルスタッフのやり取りを聞いているという演出がなされているのだが、ファルスタッフの単純さに皆呆れる。

アリーチェの手紙には、「真夜中に王立公園のハーンの樫の木のところで待っているので、黒い狩人に扮して来て下さい」と書かれていた。黒い狩人はハーンの樫の木で首を吊って自殺しており、往生出来ずに幽霊となった付近を彷徨っているという話がある。ハロウィンの霊と同じである。

王立公園には、みなが精霊や妖精に扮装して出掛けることになり、ナンネッタが白いヴェールを着けた妖精の女王に扮することを知ったフォードはカイウスとナンネッタを無理矢理結婚させるチャンスだと考えるが、女達の方が利口であった。

第3幕第2場、ウィンザーの公演の場では、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団の団員が木々に化けるという演出が施されている。ちなみにハーンの樫の木はファルスタッフの戯画が用いられており、神秘性よりも諧謔性重視の演出である。ジャック・オー・ランタンを模したオレンジ色の灯りが登場し、視覚的にはハロウィンそのものである。

最後の歌「世の中はみな冗談」が歌われ、人々はみな騙し合い、最後に笑う者が最も良く笑うと告げられる。そして、最後は「全部、冗談でしたー!」と言って、最初のガーター亭の場面に戻り、ファルスタッフが勘定書きに署名するシーンで終わる。「ファルスタッフ」そのものが夢幻の冗談のようなものであり、同時にファルスタッフが署名することで、聴衆のみなさんから受け取ったお代の分はこうしてお返ししましたよというメッセージも込められているかのようだ。

下野竜也の指揮は瞬発力と爆発力に優れており、それほど編成が大きいとはいえないザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団からキビキビとした力強い音色を引き出す。ザ・カレッジ・オペラハウスは比較的空間が狭いので、大音量の場面では音が飽和してしまうが、ヴェルディが書いた分厚い音を再現するにはこうした思い切った演奏も必要なのだと思える。

歌手達のコミカルな動きを多用してユーモラスな演出を行った岩田達宗。その他にも、第3幕第2場では、ナンネッタ役の石橋栄実を1階席の下手入場口から登場させ、そのまま2階サイド席への階段を途中まで上らせて歌わせ、舞台上で歌うフェントンとの立体的音響を作り出すなど面白い仕掛けが色々ある。

コメディを得意とする晴雅彦がダンディー(だが俗物)なフォードを見事に演じていたり、ナンネッタ役の石橋栄実は声も容姿も可憐だったりと、歌手陣も充実していた。

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