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2016年4月 8日 (金)

コンサートの記(235) 三ツ橋敬子指揮 いずみシンフォニエッタ大阪第36回定期演奏会

2016年2月6日 大阪・京橋のいずみホールにて

午後4時から大阪・京橋のいずみホールで、いずみシンフォニエッタ大阪の第36回定期演奏会を聴く。「魅惑のイタリアン&誕生《第5》!」というタイトルで、イタリアの20世紀音楽、そしていずみシンフォニエッタ大阪の音楽監督である西村朗の室内交響曲第5番〈リンカネイション(転生)〉が初演される。

指揮はイタリア・ヴェネチア在住の若手、三ツ橋敬子。


曲目は、レスピーギの組曲「鳥」、ベリオの「フォークソングス」より第1、2、3、5、6、7、11曲(ソプラノ独唱:太田真紀)、シャリーノの「電話の考古学」、西村朗の室内交響曲第5番〈リンカネイション(転生)〉(ソプラノ独唱:太田真紀)


いずみシンフォニエッタ大阪は非常設の団体であり、普段は他の団体やソリストとして活動している人が基本的には年2回の定期演奏会のために集結してアンサンブルを繰り広げる。
ちなみに今日は全曲コンサートマスターが違い、レスピーギでは小栗まち絵が、ベリオでは釋伸司が、西村朗の新作では高木和弘がコンサートマスターを務め、シャリーノは弦楽が各楽器一人の編成であったが中島慎子(なかじま・ちかこ)がヴァイオリン代表としてコンミスの位置に座った。

メンバーはいずれも関西出身か関西に拠点を持っている演奏家によって構成されている。古部賢一(日本フィルハーモニー交響楽団首席オーボエ奏者。相愛大学非常勤講師)、内田奈織(ハープ。映画「夕凪の街 桜の国」で音楽担当。京都府出身)、そして京都市交響楽団のトランペット奏者である稲垣路子もレスピーギのみではあるが参加している。


演奏会の前にロビーコンサートがあり、オーボエの古部賢一、クラリネットの上田希(大阪音楽大学卒。現在は大阪音楽大学ならびに京都市立芸術大学非常勤講師)、ファゴットの東口泰之(京都市交響楽団副首席奏者、大阪芸術大学大学院非常勤講師)によって、ミヨーの「コレット」組曲が演奏された。


ステージ上ではハープの内田奈織がチューニングをしていたが(ハープは自力では持ち運べないのでステージ上でチューニングを行う必要があるのである)、それが済んでから西村朗が登場。続いて指揮者の三ツ橋敬子も呼ばれてプレトークが始まる。なお、西村と三ツ橋は東京芸術大学卒業および同大学院修了で先輩後輩に当たるのだが、西村がプロフィールに「東京芸術大学」と新字体を採用しているのに対して三ツ橋は「東京藝術大学」と旧字体を用いている。西村と三ツ橋の出会いは、三ツ橋が「情熱大陸」に出演した際に、西村のクラリネット協奏曲をカール・ライスターのクラリネットソロ、三ツ橋の指揮で初演する模様を収めるというので挨拶を交わしたのが最初だという。三ツ橋は2ヶ月に1度の割合で関西での仕事が入るのだが、大阪ついて「イタリア人というのはお喋りで賑やかなんですけれど、大阪はイタリア人が目立たない街」という表現をする。西村朗によると大阪というのはイタリアンレストランのレベルが高く、本場のイタリア料理よりも美味しい店が沢山あるそうである。

ちなみに三ツ橋敬子は身長151cmと、女性としてもかなり小柄な方であるが、そのためもあってかフォルテの時に思い切って伸び上がった指揮をするなど、身振り手振りが大きくなるため、たまに指揮台から転げ落ちることがあるそうである。

西村によると三ツ橋は幼少期にピアノをバリバリ弾きこなし、作曲もこなして「天才少女」と呼ばれたこともあったそうだが、将来は音楽家ではなく弁護士になりたいとも考えていたそうだ。だが、十代の頃、イスラエルを訪れて、当時のイツハク・ラビン首相の前でピアノの御前演奏を行った際、ラビン首相から与えられた主題によるピアノの変奏曲を即興演奏して大いに褒められたのだが、その後、ラビン首相が暗殺され、「国境や人種を越えて人々を繋ぎ合わせることが出来るのは法律ではなくて音楽だろう」と思うようになり、高校入学と共に指揮の勉強を始めたそうである。ピアニストなどのソリストではなく指揮者を選んだのは「他の人と一緒に音楽を作り上げる作業をしたかったから」だそうである。
曲目解説であるが、レスピーギの「鳥」はバロック以前の楽曲を再構成したものであり、ベリオの「フォークソングス」も既製の楽曲にベリオ独特の特殊奏法を多用した伴奏を付けたもので、いずれも作曲家のオリジナルのものではないそうである。
シャリーノの「電話の考古学」は置き電話や携帯電話などのベルを模した音を楽器が奏でるという作品。13の楽器による小編成の作品である。西村は「シャリーノは途轍もない天才ですが、間違いなく病気ですね。知り合いになりたくないタイプ」と話す。

今日は世界初演となる西村朗の室内交響曲第5番〈リンカネイション(転生)〉は、2015年の9月から12月にかけて作曲されたもので、2楽章からなり、第2楽章にはソプラノの太田真紀による独唱が入る。晩秋に始まり、冬を経て春の描写で音楽は終わる。


レスピーギの組曲「鳥」。バロック以前の旋律を取り入れているだけあって、端正な旋律が奏でられるが、ベルリオーズ、リムスキー=コルサコフと並んで「三大オーケストレーションの達人」に数えられるレスピーギの巧みな管弦楽法により、煌びやかな音がそれに加わる。20世紀の音楽に比べると形式的だったはずの旋律がブラッシュアップされて聞こえる。
三ツ橋の指揮は端正にして明快。指揮棒を持たない左手の指示が相変わらず上手い。


ベリオの「フォークソングス」より。ソプラノ独唱の太田真紀は大阪府堺市出身。同志社女子大学学芸学部声楽専攻を経て大阪音楽大学大学院歌曲研究室修了。東京混声合唱団のソプラノ団員として活動後、文化庁新進芸術家海外研修生としてローマに留学。平山美智子に師事する。ちなみに太田によると平山美智子は若い頃に植木等の声楽の先生だったこともあったそうで、平山曰く「植木等の『スーダラ節』は私の指導の成果が出ている。発音がはっきりしている」のだそうである。

後半のプレトークの時には西村朗と太田真紀がベリオについても語ったのだが、太田によると「(ベリオに)お会いすることは出来なかったんですけれど、噂に聞くと『凄く嫌な奴』だったそうですね」と言い、西村は「私以外の作曲家は大抵嫌な奴です」と応えていた。
ちなみに太田真紀は現在は大阪府富田林市在住だそうだが、富田林は覚醒剤で逮捕された清原和博の出身校であるPL学園の所在地ということで、西村も「今、大変なことに」などと触れていた。

歌自体は20世紀音楽の常道から大きくはみ出たものではないが、やはりベリオらしい特殊奏法満載の伴奏が特徴的である。
太田の声は澄んでいて耳に心地よい。


後半、シャリーノの「電話の考古学」。ステージ下手に陣取った沓野勢津子(くつの・せつこ。京都市立芸術大学卒。メインはマリンバだが打楽器全般を演奏する)が奏でる鉄琴が電話のベルを模し、その後ファゴットが携帯電話のバイブレーションの音を真似た単調な響きを生み出す。最後は金管が着信音のメロディーを奏でる。その間、ヴァイオリンが弓で弦を擦ったり、フルートが穴を一切押さえずにスカスカの音を生んだりと特殊な奏法が次々と繰り出される。
面白い曲であるが、西村の言うとおり神経症的な印象は受ける。


新作である西村朗の室内交響曲第5番〈リンカネイション(転生)〉。第1楽章ではトランペットなどが典雅な旋律を吹く場面もあるが、基本的には旋律よりも響きの美しさで聴かせるという西村らしい作品である。
第2楽章では太田真紀がまず春の息吹を表す吐息を2度発した後で、『新古今和歌集』に収められた2首の和歌、「浅緑 花もひとつに 霞みつつ おぼろに見ゆる      春の夜の月(菅原孝標女)」と「今桜 咲きぬと見えて 薄ぐもり 春に霞める 世のけしきかな(式子内親王)」が断片的にちりばめられる。はっきりと美しく歌われることはないが、これはおそらく人間というよりも精霊が歌うようなイメージを企図しているのだと思える。
私は現代音楽に関しては即断を下すことはまずないのだが、この曲は楽曲としては間違いなく成功作である。

三ツ橋のオーケストラコントロールも優秀であり、いずみシンフォニエッタ大阪の合奏力も高かった。
演奏終了後、三ツ橋と太田によってステージに呼ばれた西村は聴衆の喝采を浴びた。

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