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2016年8月22日 (月)

コンサートの記(249) 井上道義指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第500回定期演奏会

2016年7月21日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第500回定期演奏会を聴く。記念すべき500回目の定期演奏会のタクトを執るのは、勿論、大阪フィルハーモニー交響楽団首席指揮者の井上道義。

大阪フィルハーモニー交響楽団は、1947年に関西交響楽団として誕生。「楽団員が関西中から集まっている」ということで常任指揮者の朝比奈隆の意向を受けてのネーミングだった。関西交響楽団としては125回の定期演奏会を行ったが、1960年に大阪フィルハーモニー交響楽団に改称。「大阪フィルハーモニー」のネーミングはNHK大阪放送局が所持していたが、朝比奈隆の自伝などを読むと、朝比奈がNHK大阪から名前を買い取ったらしいことがわかる。その際、定期演奏会も第1回から数え直しになり、大阪フィルとしては500回、関西交響楽団時代を加えると625回の定期演奏会をこなすことになる。


曲目は、バカロフの「ミサ・タンゴ」とベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」

ルイス・バカロフは1933年生まれの現役の作曲家。映画音楽を多く手掛けており、特にアカデミー賞音楽賞を受賞した「イル・ポスティーノ」の音楽で知られる。クラシック音楽の作曲家としても活躍しており、イ・ムジチ合奏団のための新曲、「合奏協奏曲」を書き下ろしたりしている(2011年にザ・シンフォニーホールでイ・ムジチ合奏団が演奏。私も聴いている。ちなみにそのコンサートではエンリオ・モリコーネと坂本龍一の新作も演奏された)。アルゼンチンのブエノスアイレスの生まれ、その後イタリアに移住してマカロニウエスタンの映画音楽作曲家として活躍。現在もイタリア在住でイタリア国籍を取得している。ルーツはブルガリア・ユダヤ系だという。


ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」であるが、井上道義の指揮なのでピリオド・アプローチなのかどうか事前に大フィル事務局次長の福山修氏に確認したところ、「実はモダン(アプローチ)なんです」と教えられる。現在ではモダン楽器によるピリオド・アプローチによる演奏が大流行で、どれもこれもピリオド・アプローチという状態だが、久しぶりにピリオドを前面に出さない「英雄」を聴くことになった。実はもっと聞きたいことがあったのだが、それは実演に接してからのお楽しみとして敢えて聞かないでおく。

今日のコンサートマスターは田野倉雅秋。前半のバカロフはドイツ式の現代配置。後半のベートーヴェンはヴァイオリン両翼配置だが、ドイツ式の現代配置の第2ヴァイオリンとヴィオラを入れ替えた独特の配置。またコントラバスは「ミサ・タンゴ」で合唱が使ったひな壇を利用して上手最後列に計8台、前列に2台、後列に6台という形で登る。


バカロフの「ミサ・タンゴ」。スペイン語による歌唱である。ということで、スペイン人メゾ・ソプラノのサンドラ・フェランデスと、アメリカ生まれだがベネズエラ系でカラカス音楽院で学んでいるバリトンのガスパール・コロンというスペイン語ネイティブの歌手二人が独唱者として招かれている。合唱は大阪フィルハーモニー合唱団。この曲の特徴としてパイプオルガンの代わりにバンドネオンが加わるのだが、日本を代表するバンドネオン奏者である三浦一馬が参加する。

ステージ後方上部に横長のスクリーンが下がり、日本語字幕が投影される。スペイン語では、「主よ」は普通の人に話しかけるのと同じ「セニョール」になるようだ。また「栄」「光」と「栄光」を二文字に分けて一字ずつ交代で立て続けて投影された後、ラストで「栄光」の二文字になるなど字幕にも外連が見られる。

井上はこの曲はノンタクトでの指揮。

「キリエ」「グローリア」「クレド」「サンクトゥス」「アニュス・デイ」の5曲からなる演奏時間35分ほどの作品。最初のうちは歌詞がラテン語でなくスペイン語だという以外は普通の宗教音楽のようだったが、その後、ラテン色が急激に濃くなり、明るい音と旋律による音楽が展開する。その後またシリアスに戻るが、今度はコンガ、ギロ、スネアドラム、大太鼓などが打ち鳴らされ、タンゴというよりサルサに近いノリノリの音楽となる。その後、いかにもタンゴ的なリズムの部分を経て、バンドネオンとチェロソロによる哀切な掛け合いがあり、ラストの「アニュス・デイ」では再び敬虔なムードに帰って終わる。

サンドラ・フェランデスとガスパール・コロンの二人の独唱者はまあまあの出来だったが(特に目立った独唱曲がないということもあるが)、大阪フィルハーモニー合唱団はかなり健闘したと思う。もっとも、発音については私はスペイン語を学んだことがないのでどのレベルにあるのかはわからない。

三浦一馬のバンドネオンは高度な技巧とシリアスな音色を合わせ持ち、聴き応えがあった。


ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。井上は譜面台に総譜を置いたが、結局ページを開くことはなかった。暗譜による指揮である。
モダン・アプローチとはいえピリオドの影響皆無というわけではなく、ピリオド・アプローチが盛んなる前のモダンスタイル比べるとビブラートもやや少なめであるし、第1楽章などはテンポも速い(テンポに関してはピリオドの影響とは一概にいえないところがある)。ただボウイングはピリオドのそれとは異なる。フェスティバルホールの音響もあってか、明るめの音色による演奏であり、楽器も抜けの良い音を出している。
井上は金管の内声部を表に出したり、チェロの音を浮かぶ上がらせたりと自在な指揮。盛り上げ方も上手い。
そしてクライマックス。トランペットが旋律を……最後まで……吹き切った。実はベートーヴェンの時代にはトランペットは今ほど発達しておらず、クライマックスのトランペットでは高音が出ないという理由で、途中で主旋律担当が木管楽器に変更になるのである。ところが木管楽器はトランペットに比べると音が弱いので他の楽器の演奏に埋もれてしまい、主題が行方不明になることで有名である。1990年代までは、「ベートーヴェンもトランペットが当時もっと発達していたら当然最後までトランペットに吹かせただろう」という理由で、編曲して演奏するのが主流だったのだが、その後、「ベートーヴェンが書いた通りにやろう」ということで、主題行方不明を採用する演奏が増えた。木管がベルアップして吹いて主旋律が聞こえるよう工夫した演奏もある。
だが、やはりトランペットが最後まで旋律を吹いた方がずっと興奮度が高い。実は「トランペットを最後まで吹かせるのか」というのが福山さんに本当は聞きたかったことなのである。第500回定期演奏会というハレの場にふさわしい演出である。流石、井上ミッキー!

第2楽章はテンポを落としてじっくりとした演奏に変わる。第2楽章でのクライマックスでもそれほど熱くならない格調の高い演奏である。
ベートーヴェンの「運命動機」というと交響曲第5番で初登場と思われがちだが、「英雄」でも「ジャジャジャジャン」の音は全編を通して用いられている。井上の作る「英雄」は運命動機の把握がしやすい。

第3楽章はトリオのトリオホルン(駄洒落ではない)が有名なのだが、かつての大フィルはホルンに弱点があった。だが、メンバーが入れ替わるなどして腕は上がり、今日も1カ所だけ軽いミスがあったが、その他は輝かしい吹奏を聴かせる。

第4楽章も美しく、パワフルな演奏。井上は第1ヴァイオリンへの指示から素早く第2ヴァイオリンへの指示に切り替えたり、音型通りに指揮棒を左右に激しく振ったりと外連味もたっぷりな指揮。楽しい「英雄」となった。ヒロイズムも十分だ。


演奏終了後、井上は、「500回続けるのは大変なことです」と客席に語り、「明日は満席だそうです。フェスティバルホール万歳! 大フィルありがとう! みなさん、おやすみなさい!」で締めた。

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