« 史の流れに(2) 「大関ヶ原展」 | トップページ | 楽興の時(14) 「テラの音 冬のクラシックコンサート」2017 »

2017年2月25日 (土)

観劇感想精選(200) 中谷美紀&神野三鈴二人芝居「メアリー・ステュアート」

2015年7月11日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇

午後7時から梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで、パルコ・プロデュース公演「メアリー・ステュアート」を観る。中谷美紀と神野三鈴による二人芝居。作:ダーチャ・マライーニ(フリードリヒ・シラー作『メアリー・ステュワート』の自由な翻案)、テキスト日本語訳:望月紀子、演出:マックス・ウェブスター。リュート演奏:久野幹史/笠原雅仁。音楽監督:辻康介。衣装デザイン:ワダエミ。

数奇な運命を辿ったスコットランド女王メアリー・ステュアートの主に後半生を女優二人のみで演じるという舞台である。作者のダーチャ・マライーニはフィレンツェ生まれだが幼少期の7年間を日本で過ごしているという。父母がイタリアのファシスト党を支持していなかったために敵性外国人と見なされ、最後の2年間は名古屋の強制収容所で暮らした。46年にイタリアに帰国。25歳で小説家としてデビューし、フェミニズムの立場から積極的に社会活動にも参加し、「怒れる女」という異名も取っているという。

今回が3度目の舞台となる中谷美紀。初舞台「猟銃」でも、2度目の舞台となる「ロスト・イン・ヨンカーズ」でも圧倒的な演技を披露し、私が生で演技を観たことのある舞台俳優の中では迷うことなくナンバーワンに挙げたい天才女優である。今回も役作りのためにスコットランドを旅して回ったとのこと。

中谷美紀の演技を受けて立つのは、いつの間にかベテラン女優の領域に達した神野三鈴。新劇から小演劇まで幅広く演じてきた女優である。彼女も役作りのためイングランドまで行ったらしい。

中谷も神野も数役を演じる。基本は中谷はメアリー・ステュアート、神野がエリザベス女王(エリザベスⅠ世)であるが、中谷はメアリーを演じている時には神野はメアリーの乳母であるエリザベス・ケネディを演じ、神野がエリザベス女王を演じている時には中谷が侍女のナニーに扮する。いずれも気位の高いメアリー・ステュアートとエリザベス女王に対し、ナニーとケネディはどちらかというと気弱であり、二人の女優が正反対の女性を交互に演じることになる。二人は男性の役も声のみで演じ、また中谷美紀はレティス・ノールズという女性も演じる。

メアリー・ステュアートとエリザベス女王、更にその周囲の関係はかなり込み入っている。イギリスがまだU.K.ではなく、イングランドとスコットランドとに分裂していた時代の話である。メアリー・ステュアートとエリザベス女王は従姉妹に当たる(正確には更に遠い血縁である)。ヘンリーⅦ世がエリザベス女王の祖父であり、メアリー・ステュアートの曾祖父になる。ヘンリーⅦ世は娘をスコットランド王室に送り込み、ジェームズⅣ世と結婚させる。ジェームズⅣ世の息子であるジェームズⅤ世がメアリー・ステュアートの父親である。またヘンリーⅦ世の後を継いてイングランド王となったヘンリーⅧ世の娘がエリザベス女王である。

メアリー・ステュアートは生後6日でスコットランド女王として即位するが、その後イングランドとスコットランドの争乱から逃れるためにフランスに渡り、スコットランド女王であり続けながらフランス王妃にもなっている。フランス王フランソワⅡ世と結婚したメアリーであるが、病弱なフランソワは若くして亡くなり、メアリーもスコットランドに戻る。グレートブリテン島内はプロテスタントとカトリックの間で争いが起きていた。イングランド領内はプロテスタントが、スコットランドではカトリックが優勢であり、メアリーは一貫してカトリックの信仰を続けた。エリザベス女王はイングランドとスコットランド統合のためにレスター卿ロバート・ダドリーとメアリー・ステュワートとの結婚を画策するも上手くいかなかった。
その後も、アン・ブーリンが殺害されてエリザベスは庶子扱いとなってため、血筋の上ではメアリー・ステュアートの方が上であり、エリザベス女王の悩みの種となっていた。

中谷演じるメアリー・ステュアートも、神野演じるエリザベス女王も芯の強い女性であるが、メアリー・ステュアートの方がどちらからというとスマートで色恋も多いのに対し、エリザベス女王は石頭という印象を受ける。またメアリーが「お世辞は嫌い」と言い切るのに対して、エリザベスはアメリカでの黒人の扱いを美辞麗句で飾ることに腐心しており、好対照である。メアリーにとっては取り繕わないのが正義であるが、エリザベスはいかに上手く取り繕うかが国家運営のためには大事だと思っている節がある。

舞台後方は鏡張りになっており、かなり効果的に使われる。特にメアリー・ステュワートの裁判シーンの手法は鮮やかだ。セットは比較的簡素であり、テーブルに椅子、いくつかの木の箱などが置かれているだけである。

イングランド国内で軟禁生活を送っているメアリー・ステュアート。国内統治のためにはメアリーを処刑した方がいいのだが、エリザベスは処刑の話をするナニーに、「王の首が跳べば、民衆は王の首を刎ねても良いのだと思って次は自分の首を狙う」と話す。このように、中谷美紀演じるナニーが中谷美紀演じるメアリーを追い込むセリフが幾つかあり、鏡に映ったような転倒が見て取れる。「シンメトリーの鏡」という言葉もセリフの中に登場する。メアリーはある意味自滅した女性であるため、こうした手法は効果的である。

メアリーはこれまでの人生や自分を巡る男達についてケネディに語る。音楽家のダヴィッド・リッチョ暗殺の場面では狂乱の場も用意されており、中谷美紀の見せ場である。ヘンリー・ダーンリーの子を身籠もった時は、破水から出産に至るまでも演技と語りで表現される。ヘンリー・ダーンリーとメアリー・ステュアートの間に生まれたジェームズⅥ世が後にスコットランド王からイングランド王ジェームズⅠ世になり、ブリテン統一が果たされるのである。
ちなみにエリザベス女王の命令で無理矢理結婚させられそうになったレスター卿ロバート・ダドリーに対してはメアリーは一貫して冷たい。メアリーは命令されるのが嫌いな女なのだ。これに対してやはり中谷が演じるエリザベス女王の侍女ナニーは命令されるのが大好きであり、余りに素直すぎるのでエリザベスに怒られたりする。一方で、エリザベスは自分に無断でレスター卿ロバート・ダドリーと結婚した若いレティス・ノールズ(中谷美紀)をたしなめたりもする(レスター卿ロバート・ダドリーとエリザベス女王は恋仲だったという説がある。このシーンではレティスとエリザベスのシーンでは女性の方が喜びそうなことも行われる)。このレティス・ノールズは自らの意思に忠実という、ある意味自立した理想的な女性像として特別に登場している節がある。

大英帝国の礎を築いたエリザベスも自立した強い女性であるが、一国の君主であることのくびきからは逃れることが出来ない。人々はエリザベスに皇太子を生むことを求める。
 

基本的にスリリングでタイトな心理劇であるが、途中でロバート・ダドリーを「豚」とおちょくるユーモラスな歌が用意されており、中谷と神野の二人がマイクを手に歌う。アイドルグループ出身であり、坂本龍一のプロデュースでヒット曲も生んでいる中谷と、音楽劇などにも多数出演している神野は二人とも歌がかなり上手であった。ちなみに「豚」はイケメンだったらしい。

「イギリスと結婚した」として生涯独身だったエリザベス女王と、何人もの男性と付き合いイングランド王を生んだメアリー・ステュアート。メアリーの子がイングランド王室を継いだ(ステュアート朝)ということを思えば、U.K.はエリザベスとメアリーの共作ということにもなるだろう。劇中ではメアリーがエリザベスに向けた手紙で「わたしたちのいずれかが男であったなら」という手紙を読み上げるシーンがあり、もっと直接的な共作の夢が語られている。

メアリー・ステュアートとエリザベスⅠ世は、手紙のやり取りは頻繁に行っていたが、実際に会ったことはないそうである。だが、この舞台「メアリー・ステュアート」では夢の中でエリザベスとメアリーが出会う場面がある。その時のメアリーを演じる中谷は急に愛らしい女性へと変身。流石の演技力を見せる。

構造自体は歴史的背景もあって複雑であり、かなり巧みに出来ている。そのためイギリスの歴史のグチャグチャさに呆れることにもなるのだが、中谷も神野も別の女性へと一瞬で、それも自然にチェンジしているため、二人の演技力を存分に楽しめる公演になっている。

|

« 史の流れに(2) 「大関ヶ原展」 | トップページ | 楽興の時(14) 「テラの音 冬のクラシックコンサート」2017 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/64936583

この記事へのトラックバック一覧です: 観劇感想精選(200) 中谷美紀&神野三鈴二人芝居「メアリー・ステュアート」:

« 史の流れに(2) 「大関ヶ原展」 | トップページ | 楽興の時(14) 「テラの音 冬のクラシックコンサート」2017 »