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2017年3月31日 (金)

観劇感想精選(206) 人形浄瑠璃文楽京都公演2017「妹背山婦女庭訓」四段目

2017年3月17日 京都府立文化芸術会館にて観劇

午後6時から、京都府立文化芸術会館で、人形浄瑠璃文楽京都公演「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」を観る。

    
「妹背山婦女庭訓」は上演時間が10時間を超える大作であるため、今日は四段目のみの上演が行われる(全作の一挙上演の方が珍しい。近年では昨年4月に通し上演が行われたという)。「杉酒屋の段」「道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」「姫戻りの段」「金殿(きんでん)の段」の4つ。

「妹背山婦女庭訓」は、近松半二らによる合作。飛鳥時代を舞台とする、文楽の中でも時代設定が古い作品である。『古事記』に出てくる苧環伝説なども上手くアレンジされている。


まず午後6時から、豊竹靖太夫による作品解説がある。「妹背山婦女庭訓」の登場人物がまず紹介される。酒屋の娘で身分の低いお三輪、烏帽子折(烏帽子職人)を名乗る求馬(もとめ)、そして謎のお姫様である。
豊竹靖太夫は舞台上の作りも紹介。まず上手花道に床が作られていることを説明し、下手花道舞台寄りに立つ字幕を映し出す機械の名前が「G・マーク」という駄洒落由来のものであることを説明し、G・マークとやり取りをする。

床の出演は、豊竹咲太夫、鶴澤燕三(つるさわ・えんざ)、豊竹睦太夫(とよたけ・むつみだゆう)、豊竹靖太夫、豊竹咲寿太夫(さくじゅだゆう)、野澤錦糸、鶴澤清馗(せいき)、鶴澤清丈、野澤錦吾、鶴澤清志郎(せいしろう)、竹本津駒太夫、竹澤宗助。人形遣いは、吉田玉勢(よしだ・たませ)、吉田文昇(ぶんしょう)、吉田和生(かずお)、豊松清十郎、吉田清五郎、吉田蓑二郎、吉田玉也ほか。


飛鳥時代。三種の神器の一つ、十握(とつか)の御剣を盗み出した蘇我入鹿が権勢をほしいままにしている。眼病に伏す天智天皇と、入鹿によって宮中から追われた藤原鎌足、藤原淡海(ふじわらのあわうみ)親子らは蘇我入鹿追討を図る。
蘇我入鹿の父親である蘇我蝦夷(劇中では読みは同じだが「蘇我蝦夷子」表記)は、子が授からないことを案じ、妻に白い牝鹿の生き血を飲ませた。こうして生まれたのが蘇我入鹿。鹿の血が入っているので入鹿である。獣の血が入っているために剛毅比類なき蘇我入鹿であるが、それが弱点でもある。爪黒の牝鹿の生き血と疑着の相のある女の生き血を注ぎかけた笛を吹けば入鹿は正体を失ってしまうのだ。藤原親子は千頭に一頭しかいない爪黒の鹿の血を手に入れることに成功、というところで本日上演される段が始まる。

大和国三輪の里(現在の奈良県桜井市三輪)。最初の段は杉酒屋という酒屋が舞台である。酒屋の娘であるお三輪は寺子屋に行っている。お三輪の母親も留守だ。ということで、杉酒屋には丁稚の子太郎(こたろう)しかいない。子太郎は、向かいに住む烏帽子職員の求馬の家に、輝かしい服装をした娘が入っていくのを目撃する。どこかの姫に違いない。求馬はお三輪と恋仲。寺子屋から帰ったお三輪(「手習草紙」という冊子を手にしている。「婦女庭訓」というのは寺子屋で用いられる女の身だしなみについての教科書のことで、横恋慕してきた姫は婦女庭訓に背くことになる)にその事実を告げる。子太郎に求馬を呼び出すように言うお三輪。やって来た求馬をお三輪は問いただすが、求馬は「ただの女中だ」としらばっくれる。今日は七夕。お三輪は寺子屋で習ったという、苧環(おだまき。手持ち式の糸巻き車)を使った縁結びの手法を求馬に伝える。求馬に赤糸の苧環を持たせ、自身は白糸の苧環を持つ。苧環が鵲(西洋の星座でいうはくちょう座に当たる。牽牛と織姫の間を取り持つ役目を担う)になるよう願いを込める三輪。
そこへ姫が杉酒屋に入ってきてしまう。この姫というのがお嬢さん育ちで、少し無神経なところがあり、お三輪を本人の目の前で「端女(はしため)」などと形容してしまう。激怒するお三輪。というわけで言い争いが始まる。そこに求馬の正体を知ったお三輪の母親が帰って来て……。

続く、「道行恋苧環」。浅葱幕が垂れており、「天岩戸」伝説に掛けた謡が始まる。やがて浅葱幕が落ちると、背後に大神神社への参道が見える。姫の後を追って来た求馬。姫の正体を知りたいのだが、姫が頑として答えない。そこへお三輪もやって来てまたも口喧嘩になるのだが、同じことが続いても退屈ということで、ここでは人形三体による舞が行われる。
そして、姫の振り袖に苧環の赤い糸を刺すことに成功した求馬は姫の後を追う。お三輪も同じアイデアを思いつい、求馬の袖に白い糸をつけるのだが、糸は途切れてしまい、追跡することが出来ない。

姫が帰ったのは、三笠山の上に建つ蘇我入鹿の御殿。ということで、求馬は、姫の正体が蘇我入鹿の妹である橘姫であることを知る。実は求馬の正体は藤原鎌足の長男である藤原淡海。蘇我氏とは仇敵なのだった。橘姫は、正体が藤原淡海であることを知った上で求馬に恋したのだが、正体がばれたら淡海と別れなければならない。それが嫌で蘇我入鹿の娘であることを隠していたのだった。
下女の一人が、橘姫の袖に赤い糸が刺してあるのに気づく。そして糸をたぐり寄せると求馬が現れる。求馬は嘘をつくが、下女達は求馬が橘姫の恋人であるということには気づいており、「庭へもろくに下りない姫君に男が出来た」ということで、逆に歓迎されてしまう。求馬こと藤原淡海に正体が知られたことを悟った橘姫は、淡海に刺されて死ぬことを「本望」とするが、淡海は橘姫に、「夫婦になりたくば一つの功を立てられよ」と言って、入鹿が宮中から盗んだ十握の剣を奪い返すよう命じる。橘姫は、「親よりも兄よりも恋人よりも、天子のためを思うのが第一」として、天智天皇と藤原氏のために手柄を立てることを決意する。

遅れてやって来たお三輪。やって来た下女に、求馬と姫が華燭の典を挙げると知り、「人の男を盗むくさって」と激怒。正体を偽って、内祝言の場に近づこうとするが、官女達に正体を見破られ、嬲り者にされてしまう。恥辱に震えるお三輪。そこに男が現れる。その男、鱶七(ふかしち)の正体は藤原鎌足の忠臣・金輪五郎である。金輪五郎は、お三輪が疑着の相をしていることに気づいた……。


人形の愛らしさ、大和言葉の美しさ、苧環を回転させることで糸がないのに糸があるかのように見せるという演出。今日もまた、昔の日本人の頭の良さに感心することになる。
男女の間の心遣いの細やかさという日本人の長所と、弱い者に対する陰湿ないじめが好きという短所の両方が描かれており、作品に奥行きを与えている。

「文楽」「伝統芸能」「世界無形遺産」と聞くと、いかにも高尚なようで身構えてしまう人もいるかも知れないが。元々は町人のための娯楽ということで、ユーモラスな場面もふんだんに用意されており、笑って楽しむことも出来る。

人形遣い達の人形捌きは実に巧み。ちょっとしたサーカスのように見える部分もあり、これほどの技術が必要となると、「一人前になるには二十年から三十年掛かる」のも当然だと思えてくる。

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