« 観劇感想精選(202) ミュージカル「フランケンシュタイン」2017大阪 | トップページ | コンサートの記(280) いずみシンフォニエッタ大阪第38回定期演奏会「満喫!楽聖ベートーヴェン」 »

2017年3月10日 (金)

コンサートの記(279) ザ・カレッジ・オペラハウス 歌劇「鬼嫁恋首引」&「カーリュー・リヴァー」

2014年10月11日 ザ・カレッジオペラハウスにて

午後5時から、大阪府豊中市にあるザ・カレッジ・オペラハウスで、歌劇「鬼娘恋首引」と「カーリュー・リヴァー」を観る。

歌劇「鬼娘恋首引」は、鈴木英明の作曲により1980年に初演された比較的新しいオペラである。台本を書いたのは茂山千之丞であり、茂山は狂言「首引」を基にオペラのための本を書いている。上演時間約45分一幕物という短編である。

歌劇「カーリュー・リヴァー」はベンジャミン・ブリテン作曲のオペラ。能「隅田川」がベースとなっているということもあって日本でも知られている作品である。私がザ・カレッジ・オペラハウスまでやって来たのも「カーリュー・リヴァー」の実演を観たいという思いからだった。

ザ・カレッジ・オペラハウスは、大阪音楽大学のオペラハウスで、カレッジというのは大阪音楽大学の英語名が、Osaka College Of Musicであることに由来する。日本の大学の場合、単科大学であってもUniversityを名乗る場合が多いが、大阪音大は単科大学を意味するCollegeを使用している。

ザ・カレッジ・オペラハウスは専属のプロオーケストラ(ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団)と、専属のコーラスを持つ本格的な劇場であるが、キャパが狭いこと、オペラ公演数がそれほど多くないことに加え、京都造形芸術大学の京都芸術劇場もそうだが、日本では大学が持つ劇場はあくまで大学の施設として捉えられ、劇場として認められない傾向が強いため(京都芸術劇場の渡邊守章氏が語っていた)日本のオペラハウスにはカウントされていない。

ザ・カレッジ・オペラハウスは近年、ベンジャミン・ブリテンのオペラをたびたび取り上げており、2011年の歌劇「ねじの回転」(十束尚宏指揮、岩田達宗演出)では優れた出来を示していた。また、昨年の歌劇「ピーター・グライムズ」は私は高知に行っていたため観ることが出来なかったが高い評価を得ている。

大阪音楽大学とザ・カレッジ・オペラハウスがあるのは、豊中市の庄内という場所であるが、伊丹空港(大阪国際空港)が近いため、旅客機が低空飛行をしていて騒音も凄い。ただ流石というべきか、ザ・カレッジ・オペラハウスの中では旅客機の音は一切聞こえなかった。

 

歌劇「鬼娘恋首引」と歌劇「カーリュー・リヴァー」は、共に山下一史の指揮、井原広樹の演出で上演される。

「鬼娘恋首引」の出演は、川口りな(番茶姫役)、中川正崇(なかがわ・まさたか。伊呂波匂之助役)、田中勉(素天童子役)、木澤佐江子、福島紀子、柏原保典、木村孝夫(以上4人は地謠となる)

井原広樹の演出は、舞台の三方をスクリーンにし、そこに様々な映像を投影するのが特徴である。「鬼娘恋首引」では、狂言というよりも歌舞伎の手法を取り入れた演出法。少し型にはまった感じで、「折角、地謠が4人なのだから四天王にすればいいのに」と不満もあったが、映像の使い方は効果的。ラストでは、今(2014年)、京都国立博物館で公開が行われている「鳥獣戯画図」からの引用が用いられている。

ストーリーは、鬼の素天童子(すってんどうじ。田中勉)の支配する鬼面山に、京都一のモテ男である伊呂波匂之助(いろはにおうのすけ。中川正崇)が迷い込んだことに始まる。鬼は人を喰らうので、素天童子も伊呂波匂之助を喰おうとするが、娘の番茶姫(川口りな)がまだ人を食べたことがないのを思いだし、色男である伊呂波匂之助を食い初めとすれば目出度いということで、番茶姫を呼ぶ。ところが、番茶姫が伊呂波匂之助に惚れてしまい……、というものである。

伊呂波匂之助は、その名の通り、いろは歌に掛けた自己紹介のアリアを歌う。

伊呂波匂之助と番茶姫による腕相撲や、首引(首に縄を掛けて引っ張り合い、相手を寄り切ったり倒した方が勝ちとなる)の場面などはユーモラスだ。

怖ろしい鬼の素天童子が親バカというのもギャップで笑わせるところだと思われるのだが、田中勉演じる素天童子は隈取りをしているだけでさして怖ろしくは見えない。ここももう一工夫欲しかった。歌舞伎の手法を取り入れていたが、歌舞伎の場合、悪役はもっと身振り手振りのメリハリがくっきりしている。

歌手達はまずまずの歌唱を聴かせ、山下指揮のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も上手かった。

鈴木英明の音楽は完全な調性音楽でわかりやすく、上演終了後に登場した鈴木は客席からの喝采を浴びた。

 

ブリテンの歌劇「カーリュー・リヴァー」。原作の能「隅田川」は、世阿弥(観世元清)の子である観世元雅の作である(その後、世阿弥と観世元雅の親子は足利将軍家から嫌われて流罪となり、世阿弥の血統は絶えてしまっている)。歌舞伎にもなっており、私も京都四條南座で坂田藤十郎と中村翫雀(現・中村鴈治郎)の親子共演による「隅田川」を観ている。
能「隅田川」はいかにも能らしく幽霊が出てくるが、歌舞伎版「隅田川」には幽霊は出てこない。ちなみに観世元雅は幽霊を登場させているが、父親である世阿弥は幽霊が出てくることに反対していたという。

ブリテンは、舞台をイギリスに置き換え、キリスト教の話として「隅田川」を脚色。狂女の役も男性歌手が担当する(これは狂言や歌舞伎に則っているともいえる)。

オーケストラの編成は室内楽規模であり、ヴィオラ(上野亮子)、フルート(江戸聖一郞)、パーカッション(安永早絵子)、オルガン(岡本佐紀子)、コントラバス(増田友男)、ホルン(伏見浩子)、ハープ(山根祐美)のみである。

井原広樹の演出は工夫を凝らしており、まず、歌手、演奏者、指揮者の山下一史を含めて全員が、客席後方から、客席通路を通って登場する。全員、黒いコートを纏い、歌手達はキリスト教のコラールを歌っていて、そのまま舞台に上がる。山下一史とザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団のメンバーはせり上がって客席とほぼ同じ高さにあるピットに入る。とても効果的な演出である。歌手達が通路を通ってくるのはそれほど珍しくないが、指揮者や演奏者まで歩いて来るのは余り例がない。ちなみに「カーリュー・リヴァー」はブリテンの指示によると指揮者なしでの上演が正式ではあるようだ。

シテである狂女を歌うのは西垣俊朗(にしがき・としろう)、ワキの渡し守には桝貴志、同じくワキの旅人に西村圭市、ストーリーテラーでもある修道院長には西尾岳史、少年の霊は榎並晴生(西宮少年合唱団)が演じ、少年の声は老田裕子が袖で歌う。その他の人物はザ・カレッジ・オペラハウス合唱団の団員である。一応、狂女役のアンダースタディとして角地正直が控えている。

井原は、「カーリュー・リヴァー」でも映像を多用しており、十字架がマストに変わったりする。

ザ・カレッジオペラハウス合唱団の団員はおどろおどろしい仕草をする。狂女よりも一般民衆の方が狂っているという解釈なのかも知れないが、これだと狂女の演技が生きないという結果になってしまう。

出だしでオルガンが奏でるのは笙を模した音だ。ブリテンは来日経験があり、NHK交響楽団を指揮したほか、ピーター・ピアーズの歌う歌曲のピアノ伴奏を務めたり(ピーター・ピアーズもベンジャミン・ブリテンも同性愛者であり、二人は恋人でもあった)、笙を買い求めたりもしている。そして、能「隅田川」を観て衝撃を受け、「カーリュー・リヴァー」の作曲を思いついたという。カーリューというのはダイシャクシギのことだという。在原業平がモデルである「伊勢物語」の主人公が隅田川まで来たときに、「名にし負はばいざ言問はむ都鳥 我が思ふ人はありやなしやと」と詠んだ都鳥(別名:ゆりかもめ)がダイシャクシギに置き換えられている。

ただ筋書き自体は換骨奪胎がなされており、日本的な要素は余り残さず、イギリスの話として通るように仕上げている。

ただ、オペラとしての面白さはまた別として、能「隅田川」とオペラ「カーリュー・リヴァー」のどちらがより感銘深いかというと、断然、能「隅田川」である。やはり無常観ということに関しては日本人の方が優れた感受性を発揮しているように思う。「カーリュー・リヴァー」で描かれているのは、死生観であるが無常観までは達していない。両者は似ているが差は大きい。

ラストは、歌手、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団の団員、山下一史らが黒いコートを纏い、客席通路を通って退場する。歌手達はコラールを歌う。やはり効果的な演出であった。

ブリテンの音楽は優れてはいるものの、彼のベストではないように思う。

|

« 観劇感想精選(202) ミュージカル「フランケンシュタイン」2017大阪 | トップページ | コンサートの記(280) いずみシンフォニエッタ大阪第38回定期演奏会「満喫!楽聖ベートーヴェン」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40048/64993486

この記事へのトラックバック一覧です: コンサートの記(279) ザ・カレッジ・オペラハウス 歌劇「鬼嫁恋首引」&「カーリュー・リヴァー」:

« 観劇感想精選(202) ミュージカル「フランケンシュタイン」2017大阪 | トップページ | コンサートの記(280) いずみシンフォニエッタ大阪第38回定期演奏会「満喫!楽聖ベートーヴェン」 »