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2018年3月17日 (土)

観劇感想精選(234) 「シャンハイムーン」2018西宮

2018年3月14日 西宮北口の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて観劇

午後6時30分から、兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで、「シャンハイムーン」を観る。作:井上ひさし、演出:栗山民也。中国現代文学の父である魯迅(中国文学おける現代は日本の現代とは違い、中華民国建国から1948年以前までを指す。1949年以降は「当代」を用いる)を主人公にした会話劇である。出演:野村萬斎、広末涼子、鷲尾真知子、土屋佑壱、山崎一、辻萬長(つじ・かずなが。愛称は「つじ・ばんちょう」)。声の出演:浅野和之ほか。

舞台は1934年の上海。北四川路底にある内山書店の二階倉庫である。上海で内山完造と美喜の夫妻が始めた内山書店。東京・神田のすずらん通りにある内山書店は完造の弟である内山嘉吉が東京で始めたものである。すずらん通りにある内山書店は、私が明大生の頃、毎週のように通っていた懐かしい場所である。
魯迅は、蒋介石率いる国民党に追われて、計4度の逃亡生活を送るが、「シャンハイムーン」ではその4度が1回に纏められている。

仙台医学専門学校(後の東北帝国大学医学部。現在の東北大学医学部)に学んだ魯迅(本名は周樹人。演じるのは野村萬斎)であるが、上海に住む今は反日的思想の持ち主である。日本の近代化には蘭学医が西洋の考え方を採り入れることで貢献したと考え、医学を学んだが、今では日本人は西洋人に残酷さを学んだと考えている。西洋の「優勝劣敗」の思想に感化された日本人は欧米列強に倣って上海に進出、租界を拵えて我が物顔で振る舞っている。魯迅は国民党と共産党が組んで日本の勢力を中国から追い出すべきだと考えているが、共産党を潰したい国民党にとって、それは受け入れがたいことであり、そのため魯迅は国民党に追われることになる(国共合作が実現するのはもっと後のことである)。

魯迅と現在の妻の許広平(広末涼子)は、内山完造(辻萬町)とみき(鷲尾真知子)の夫妻に匿われることになるのだが、魯迅は多くの病に体を蝕まれており、「病気の百貨店」状態。そこで日本人医師の須藤五百三(すどう・いおぞう。山崎一)に診て貰おうとしたのだが、困ったことに魯迅は仙台医学学校出身にも関わらず大の医者嫌い。「嫌いなものは、一にお医者様、二に歯医者様、三四がなくて五が蒋介石の国民党)という状態である。大の魯迅ファンでもあった須藤は、医師であるということを隠し、ただの魯迅ファンとして近づき、握手した隙に脈を測ったり、内山完造と許広平に合図を送ってあくびをさせ、魯迅がつられてあくびをした際に口内の状態を調べようとする。それでも結局は、医師だと名乗り出た須藤への協力を拒否。マートン(阪神タイガースにいた外国人バッターではなく、おまるのこと。中国では室内ではおまるを使うことが多かった)への用便(医師はそれを見て健康状態を把握する)すら拒否する。

今度は、肖像画家を名乗って魯迅に近づく男が一人。歯医者の奥田愛三(土屋佑壱)である。奥田は笑気ガスを魯迅に吸わせて気絶させ、その間に魯迅の体調を診ようとするのだが、笑気ガスを吸った魯迅は幻覚を見る。その場にいる人が過去に出会った他人に見えるという「人物誤認症」である。「藤野先生」こと藤野厳九郎を始めとする過去の人々に魯迅は苛まれ、ひたすら詫びるのだが……。

「シャンハイムーン」というのは魯迅が構想していたという設定の架空の小説のタイトルである。人間というものは全くわかり合えないということをテーマにした小説であるが、繋がっていく命を知ることで、魯迅は「シャンハイムーン」の構想を翻すことになる。人種や国籍、出身地に拘泥することなく、命や思想を繋げていくことが尊いというメッセージがある。

野村萬斎の持ち前の飄々としたところを生かした魯迅像がコミカルでもあり、なんとも魅力的である。失語症になった魯迅の場面では笑いを次々に取っていく。状況的にはシリアスな場面で笑いを取るというのが、いかにも井上ひさしの戯曲らしいところであり、野村萬斎の技量も存分に発揮されている。
ベテラン陣によるアンサンブルも万全。色男の奥田愛三を演じる土屋佑壱も様になっていた。広末涼子は瞬間最大風速的にはかなり強烈な演技力を持っているだが、持続力にはやや欠けるような気もした。やはり映像の人なのだろうか。
ただもう、とにかく私は彼らのような人々が好きだ。とても好きだ。



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