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2018年3月 9日 (金)

コンサートの記(356) 坂本龍一ソロピアノコンサート「/05」大阪

2005年12月15日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

京阪七条駅から特急に乗って大阪へ。フェスティバルホールで坂本龍一のソロピアノコンサート「/05」を聴くためである。他のコンサートに比べると、年齢層が幅広いことがわかる。10代からお爺さんお婆さんまで。
私の左隣にはお婆さん(といっても50代半ばぐらい)が座ったのだが、まるでヨン様を見る韓流ファンように、坂本龍一を憧れの眼差しで「龍様」と言わんばかりに見つめていた。

10分押しで午後7時10分にコンサートが始まる。章子怡出演のCMでおなじみの「アジエンス」に始まり、「戦場のメリークリスマス」、「ラスト・エンペラー」といった映画音楽から、「美貌の青空」のように歌をピアノ用にアレンジしたもの。「アモーレ」、「エナジー・フロー」などCMでお馴染みのもの。そしてアルバムに収録された曲など、バラエティーに富んだ選曲。
客席からの「教授! 『シェルタリング・スカイ』を弾いて下さい!」というリクエストに応じるという場面もあった。

私が坂本龍一の音楽を本格的に聴き始めたのは中学生の時だから、なんやかんやでファン歴は15年以上になる。坂本のピアノを聴きながら、流れた月日を思い起こしたりもする。「89年のクリスマスにテレビ朝日の番組で坂本がピアノを弾いていたっけ」、「高校の頃、ヨーロッパツアーの模様がテレビで流れていたな」、「高校2年の時に音楽の授業のピアノ発表会で『シェルタリング・スカイ』を弾いたよな」、「YMO再結成の時は興奮したな」という風に。勿論、それに付随して、坂本とは直接には関係のない「当時の記憶」も蘇ってくる。

坂本のMCも聞きもので、「ええと、業務連絡になってしまうのですが、ちょっと(ステージ上の温度が)寒いんですけれど。2℃ほど上げてもらえますか」、「こう見えても気が弱いので、緊張を和らげるために、開演前にワインを飲むことにしていたのですが、昨日、飲み過ぎて失敗してしまったので今日は飲んでません」、「2年前に煙草をやめたのですが、煙草の匂いは好きなので、今はシガー、葉巻ですね。を楽しんでいます」など、坂本ファンには興味深い話を聴くことが出来た。

アンコールも拍手に応えて何曲も何曲もやる。それでも拍手は鳴りやまない。最高のコンサートである。坂本の音楽とそれにまつわる私自身の記憶が重なり、溶け、脳内麻薬のように気分を高揚させる。「今、ここで死んでしまっても構わない」とまで思う。
実際は私も責任ある立場なので、ここで死んだら多くの人に迷惑をかけることになり、死ぬわけにはいかないのだけれど。

終演後、隣りの龍様お婆さんが「良かったなあ」と私に語りかける(自分の好きなアーチストに向かって、私が熱心に拍手しているのが嬉しかったのだろう)、「素晴らしかったですねえ」と私は応える。一瞬だけど心が、坂本龍一という存在を媒介にして、通い合う。

スタンディングで拍手したときは、同じくスタンディングオベーションを送る人々と目が合い、「同志ですね」と目で語り合うことが出来る。
演奏家との、そして聴衆同士の言葉によらない交信と交流。コンサート会場に来なくては、CDを聴いていただけでは絶対に得られない経験と喜びがここにある。

人は生まれる場所も時代も選べない。しかし私と、今日コンサート会場にいた多くの人が、「今、この時代にこの国に生まれ、坂本龍一と同じ時代を生きて、彼の音楽をリアルタイムで楽しめる。良かった」という幸せと、自己肯定のようなものを獲得したはずだ。そしてそういう気持ちにさせてくれる坂本龍一という存在は私にとってやはり特別なのである。

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