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2018年5月14日 (月)

コンサートの記(382) 井上道義指揮 第9回「現代日本オーケストラ名曲の夕べ」

2008年4月25日 京都コンサートホールにて

午後7時より京都コンサートホールで、第9回「現代日本オーケストラ名曲の夕べ」というコンサートを聴く。2000年に始まり、毎年開催されているコンサートだが、毎回開催地が異なる。第1回は東京文化会館で行われ、それから大阪、前橋、金沢、名古屋、東京・初台の東京オペラシティコンサートホール、福岡、山形と来て、今年は京都での開催になった。

今回の指揮は井上道義。オーケストラは「京都市交響楽団を中心としたオール・ジャパン・シンフォニー・オーケストラ」。

オール・ジャパン・シンフォニー・オーケストラを名乗るにあたって、宣伝チラシやプログラムにも「京都市交響楽団を中心とした」と枕を入れているが、そこから察せられるように、オーケストラメンバーの大半は京都市交響楽団の団員である。だから、正確に記すなら、「ほぼ京都市交響楽団によるオール・ジャパン・シンフォニー・オーケストラ」になる。米軍が戦争を仕掛けるときに、大半がアメリカ軍でありながら、国×軍や多○籍軍を名乗るのと同じようなものである。他のプロオーケストラからの参加は20名足らず。他のプロオーケストラだって今の時期は定期演奏会を始めとした多くのコンサートを開いているのだから、そこの奏者が大挙ホームグラウンドを離れて京都に押し寄せるということは不可能である。
これまでの開催地も全てプロオーケストラの所在地(群馬交響楽団の本拠地は高崎市だが、前橋市も群馬県の県庁所在地であり、群馬交響楽団の演奏会も数多く開かれている)であり、やはりそこのプロオーケストラを中心にオーケストラが編成されたのだろう。
なぜ単独のオーケストラでコンサートを行わないのかというと、「現代日本オーケストラの夕べ」は、社団法人日本オーケストラ連盟の主催するコンサートなので、やはり連盟に加わっている複数のオーケストラでやらないと意味が薄まるのだと思われる。
とはいえ、私の予想では「関西の楽団か、遠くても名古屋のオケのメンバーしか来ないのかな」と思っていたが、関西圏や名古屋圏のみならず、山形交響楽団や群馬交響楽団、読売日本交響楽団からも複数名が参加し、NHK交響楽団からも一人参加している。


曲目は、芥川也寸志の「オルガンとオーケストラのための『響』」、伊東乾(いとう・けん)の「天涯の碑」、石井眞木の交響詩「祇王」(陰影の譜)、指揮者である井上道義作曲の「メモリーコンクリート」

作曲家の知名度通り、というわけではないけれど、やはり芥川也寸志の作品が一番面白かった。作品名通り、「響」が面白く、またオーケストラが豪快に鳴る。

伊東乾の「天涯の碑」は1992年、京都市交響楽団の委嘱によって作曲された作品。作曲者の伊東乾も会場に来ていて、作品を演奏する前に井上に呼ばれてステージに上がり、話をする。パンフレットに曲の説明(天正少年使節がどうのこうの)が書かれているが、伊東本人によるとそれはポーズで、実際は伊東が子供の頃に他界した父への思いを託した曲とのことである。前半はいかにも日本の現代音楽的な響きが続くが、その響きの中から、チェロとコントラバスによって奏でられた讃美歌の旋律が何かの啓示のように突然現れ、その旋律がヴィオラ、第二ヴァイオリン、第一ヴァイオリンへと受け継がれていく。
初演時は、ベートーヴェンの第九との組み合わせで演奏されたそうで、旋律の受け渡しは第九の第4楽章を意識している。

当初の予定では、3曲目が井上の「メモリー・コンクリート」、4曲目が石井眞木の交響詩「祇王」(陰影の譜)であったが、京都コンサートホール内に曲順が入れ替わったという張り紙がしてあり、3曲目が石井眞木の、トリが井上の作品となった。井上本人も「ゴリ押しして」などとステージ上から語っていたが、井上と井上の作品の性格からいってそうなるだろうと思う。

交響詩「祇王」は、横笛奏者である赤尾三千子のために、赤尾の父親である石井眞木が作曲した作品。赤尾は龍笛、篠笛、能管の三種類の横笛を吹き、今様を唄う。
この手の作品の常として、大河ドラマの音楽を想起させるところがあったが、それなりに面白い。

で、井上道義の「メモリー・コンクリート」なのだが、予想通りというか何というか、井上がこれまで聴いてきた音楽の断片を取り入れるといった趣向の作品であった。「メモリー・コンクリート」について、以前、中瀬宏之さんと、「『これは私が子供の頃に好きだった曲で』、といった風の音楽なんじゃないか」と話したことがあるのだが、それに近いものであった(二人とも単に当てずっぽうで言ったのではなく、ショスタコーヴィチが交響曲第15番でそういったことをしているので、そこからの類推である)

演奏前に井上による解説があり、子供の頃にバレエをやっていた時に踊ったハワイアンや、やはり子供の頃に宝塚歌劇団が好きだったということで「すみれの花咲く頃」などのメロディーはそのまま出てくるということが知らされたが、それ以外にもそのまま出てきたのはショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」第1楽章より。それとわかるように出てきたのはグリーグの「ペール・ギュント」より“朝の気分”とリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」の冒頭。断片として出てきたのは「オー・ソーレ・ミオ」。童謡「故郷」の旋律に似たものも出てきたがはっきりとは確認出来ず。それ以外の旋律もどこかで聴いたもののパロディーが多い。
指揮者として忙しいことを表すために、動悸と息切れの音をオーケストラメンバーが出し、井上は指揮台の上で心臓を抑えて苦しんでみせてりもする。
曲の途中には、「指揮者のためのカデンツァ」なるものがあり、指揮者が音楽以外の何かをする場所とのこと。
そこに差し掛かったときに、井上にピンのスポットライトが当たり、他の照明は落ちる。で、井上がジャケットを脱ぐと、下にスーパーマンのTシャツを着ていることがわかる(「ツァラトゥストラはかく語りき」のパロディーもあったことだし、クラーク・ケントが変身するスーパーマンよりも、ニーチェ的な「超人」という意味に近いかも知れない)。井上はタップダンスを踊り、舞台袖から運ばれてきた花束から花を一本ずつ抜き取って京響以外のメンバーに渡し、舞台の床に隠すようにして置かれていた王冠をかぶってみたり、やはり床に隠すように置かれていた、くたびれた感じの帽子を出して物乞いの真似をしてみたりする。
それまでの3曲と違って、メロディーのはっきりした作品である。その旋律の大半が模倣だったり、オリジナリティに欠けていることもあって音楽としては今一つ。
チラシやパンフレットにはコンサートの副題として「道義の一押し」と書かれていたが、こうなるともう「道義の道義(みちよしのみちよし)」である。
この曲を3番目にやってしまったら、次に真面目な曲を演奏することは出来ないだろう。
個人的な感想を言うと、ショスタコーヴィチの交響曲第11番をそのまま入れてしまったのはまずかった。そこだけが迫真の響きで、他の部分がふやけたように聞こえてしまった。
音楽はともかくとして、やはり井上は自身が主役でありたいのだなということがわかる。井上は出来ることなら俳優にだってなりたいし、ハリウッド映画などにも出てみたいのだ。自身が主役なら指揮者でなくても、更には音楽でなくてもよいのかも知れない。

しかし、同時に、井上のインフェリオリティ・コンプレックスが浮き上がるのも見えた気がした。井上は心から音楽を愛しているわけではなく(インタビューでも本音かどうかはわからないが「指揮者には消去法でなった」と語っている)、それゆえに本気で音楽を愛している音楽家に対してコンプレックスを抱いているのではないか。コンプレックスがないのなら、カラヤンや井上の師であるチェリビダッケのように指揮だけをして堂々と「俺が主役だ」と威張っていたっていいのだ。井上が他のことまでやってしまうのは、「僕って凄いでしょ」と示すと同時に「指揮者になって間違ってなかったでしょ」という承認を聴衆に求めているような気がした。「指揮者になって間違ってなかったでしょ。音楽に何時間でものめり込めて、音楽や指揮をすることに何の疑問も持たない音楽家が出来ないことをするんだから」

もちろん井上には指揮者としての才能がある。だが、才能がある、それも多方面に渡る才能があるゆえに迷い続けている人の寂しさを見てしまったようで、複雑な気持ちになった。

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