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2018年8月 7日 (火)

観劇感想精選(250) 「触覚の宮殿」

2018年7月27日 京都・東九条のstudio seeboxにて観劇

午後7時30分から、南区にあるstudio seeboxで、あごうさとし作・演出による「触覚の宮殿」を観る。太田宏(青年団)、辻本佳、松本杏菜による三人芝居。

studio seeboxはマンションの3階にある小スペースである。

照明は抑えめであり、セリフの99%以上は太田宏が発し、松本杏菜のセリフは二つだけ。辻本佳は言葉を発しない役である。

太田宏の一人語りで話は進む。あごうさとし(石見国吾郷氏の家系)の先祖である三善氏にまつわる物語とあごうさとしが子どもの頃の思い出の二つが瞬時に入れ替わるというスタイルである。

吾郷氏の祖である三善氏は百済からの渡来人。三善氏は百済系の渡来人と漢人系渡来人の二つがあり、現在まで続いているのは漢系の渡来人の家系らしいのだが、百済系と漢系が混じったという説もあり、今回の芝居では百済系一つに纏められている。百済系三善氏の最重要人物は大学頭にまで出世し、菅原道真のライバルとして有名で、一条戻橋の名の由来となる蘇生伝説でも知られる三善清行であるが、今回は鎌倉幕府の初代問注所執事となった三善康信(一応、漢系渡来人の家系とされる)が主人公になっている。三善康信は算術を生業とする下級公家の家の生まれである。

三善康信の母は源頼朝の乳母の妹であり、三善康信も幼い頃から頼朝を知っていたのだが、頼朝には可愛らしさよりもタナトスのようなあるいはサディスティックな願望を抱いたことが語られる。
一方、あごうさとしの話は、5歳の時に入院した時の記憶に始まり、10歳の時に父親の仕事の都合で香港に渡ったときのこと、バブル期の日本人は香港で傍若無人だったこと、12歳で香港の浮浪者に襲われそうになった時のことなどが語られる。入院した時に隣のベッドにいたのは喘息持ちのリョウタという青年であったこと、香港はまだイギリス統治下であり、クイーンズイングリッシュ(イギリス英語)が優勢で、アメリカの英語の発音をするとイギリス人の家庭教師に怒られたこと、中国語も北京語は美しく広東語は汚いとされていたことなどが語られ、あごう少年は、「東京の言葉は綺麗で、関西の言葉は汚いということか」と反発を覚える。香港のイギリス政府は日本人である吾郷ファミリーにも指紋押印を求めたそうで、東洋人は生まれながらにして犯罪者のような扱いだったらしい。

三善康信は、治承・寿永の乱で一貫して頼朝・義経方を支持、兄弟が対立した折は頼朝に与して、武家社会の到来に貢献している。下級公家の出では一大出世は見込めず、新しい武家の世で出世することに懸けたのだ。
康信は、「玉葉」で知られる関白・九条兼実とも交流。九条兼実はseeboxにほど近い九条殿を本拠としていたが、三善康信は九条殿に立ち寄った帰り道、鴨川沿いで一人の賤民を見かける。その男は自らの歯を抜こうとしていた。康信は男の姿に天台座主(セリフには一切出てこないが、九条兼実の実弟で「愚管抄」を著したことで知られる慈円である)よりも遥かに「聖人」に近いものを感じる。
また康信は、法然とも出会う。当時、「知恵第一」と呼ばれ、都においては尊きも貧しきも知らない者はいないと言われた法然坊源空の弟子の一人に康信は欲情する。「男と男が交わってもいいものか」と考える康信に法然は「結縁せねばならないのなら結縁するがよろしい」と説いた。

昭和の終わりは、香港では特に大きくは扱われなかった。そして栄華を誇った公家社会にも終わりが来る。寿永の乱が終わった時に、元号は文治に変わった。武断ではなく文治政治を続けたいという後白河法皇の願望が込められていたのだが、頼朝は納得せず、大軍を率いて上洛。九条兼実や後白河法皇と会談し、諸国守護権が認められ、元号は建久に変わる。かくして新しい世の中が訪れる。

ラストは松本杏菜の、「天皇は象徴として寿ぐ」という意味のセリフで閉じられる。

あらすじを見るだけで、大体のことは把握できるという内容である。

東九条を中心とした京都演劇新時代への意気込みを語る作品であるのだが、テイストが1970年代風であるため、アクチュアルな感じがしないのが難点といえるだろう。
なお、狂言の台詞回しがあるのだが、大蔵流の茂山あきらに指導しても貰ったことが無料パンプレットに記されている。

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