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2018年9月 3日 (月)

観劇感想精選(254) 舞台「野球」~飛行機雲のホームラン~

2018年8月25日 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて観劇

午後5時から梅田芸術芸場シアター・ドラマシティで舞台「野球」~飛行機雲のホームラン~を観る。作・演出:西田大輔。音楽:笹川三和。出演:安西慎太郎、多和田和弥、永瀬匡、小野塚勇人、松本岳、白又敦、小西成也、伊崎龍次郎、松井勇歩、永田聖一朗、林田航平、村田洋二郎、田中良子、竹内諒太、本間健大、書川勇輝、秋山皓郎、今井直人、田上健太、藤木孝。野球監修:桑田真澄。

第二次大戦中の中学野球(現在の高校野球に相当)を舞台に戦争と友情を主題にした群像劇が繰り広げられる。

伏ヶ丘商業学校の唐澤静(多和田和弥)と会沢商業学校の穂積均(安岡慎太郎)は小学校時代の友人にしてライバル。唐澤は甲子園の常連校である伏ヶ丘商業に進み、穂積は敢えて伏ヶ丘商業を避け、会沢商業に進んだ。1944年、戦争の激化のため、全国中等学校野球選手権は2年連続の中止が決定。予科練に進んだ野球部員は唐澤の神風特攻前日にかつての所属学校野球部ごとに分かれ、試合に臨む。南海軍(南海ホークス。英語が敵性言語であるとしてニックネームとしての使用も禁止されたための措置)に進むことが決まっていた唐澤だが、夢は絶たれた。肘を傷めていた唐澤だが、マウンドに上がるのは今日が最後であり、全力で投球する。

立ち上がりが不安定であるが、ストレートの威力は沢村栄治に匹敵するといわれる穂積。穂積が会沢商に進むきっかけとなった先輩の岡光司(永瀬匡)、併合当時は日本人とされたが差別も受けてきた朝鮮半島出身の伏ヶ丘・菱沼力(小野塚勇人)、唐澤の姉で新聞記者だったが反戦記事を書き続けたために解雇となった唐澤ユメ(田中良子)、ユメと共に狂言回しの役割を受け持つ海軍中佐の遠山貞昭(藤木孝)、新聞記者になること夢見て唐澤に関する記録を書き続けていた伏ヶ丘の三塁手・堂上秋之(松井勇歩)、会沢商業の監督に指名されるが野球には疎い街軍中尉の菊池勘三(名前の似ている菊池寛にちなんであだ名は「父帰る」である。演じるのは林田航平)らが時系列を飛ばす形でドラマを構成する。舞台後方には黒板状のスコアボードがあり、試合が進むごとに、出演者がチョークで得点を記していく。

八百屋飾りの舞台。マウンド、各塁、バッターボックスなどは特定の場所に置かれず、状況によって次々とフォーメーションを変えていく。客席通路も使用し内外野の守備が客席で行われることもある。

ボールは使用するが、投手役の俳優が直接投げることはない。なお、開演前に「本日は演出としてボールを使用いたします。ボールが客席に飛び込むことがあるかも知れませんが、ボールはスタッフが回収に伺いますので、くれぐれも客席に投げ返さないようお願いいたします」という影アナがあった。当然ながら劇場でそんなアナウンスを聞くのは初めてである。

PL学園時代に甲子園での高校通算最多勝記録となる20勝を挙げ、読売ジャイアンツとピッツバーグ・パイレーツで投手として活躍した桑田真澄が野球監修を手掛けており、そのためピッチャーの二人は桑田によく似た仕草をする。特に穂積均役の安西慎太郎は前屈みになったサインの見方、ワインドアップから右肩を下げながらのテイクバック、上体を捻って打者に背中を見せるところなどが桑田のフォームに瓜二つである。腕の使い方は桑田よりも元カープの池谷公二郎に似ているが、安西は世代的に池谷を知らないはずなので、たまたま似たのだと思われる。唐澤役の多和田和弥はサイン交換時のポーズは桑田や穂積と一緒だが、その後は違う。

俳優陣で私が知っているのはベテランの藤木孝だけ(最も重要なセリフを与えられているのも彼である)。若い俳優達に関してはほとんど知らないが、開場時間を予定より15分早めて行われたグッズ販売に女性が長蛇の列を作っており、相当な人気があることがうかがえる。後で調べたところミュージカル「テニスの王子様」の出演者が多いことがわかった。
私自身は「桑田真澄が野球監修をするなら」ということで観に行ったのだが、客席に男性はほとんどいない。劇場と球場に通う層はどうやら重なっていないようである。

戦時ということで野球自体が敵性競技として疎まれており、使用語はストライクが「良し!」、ボールが「駄目!」、ファールが「圏外球」、セーフが「安全」といった風に日本語に直され、アラビア数字も駄目で背番号は漢数字で書かれている。グローブも戦前戦中のものは現在と大きく異なるのだが(当時はスポットの浅い握るタイプのもの。挟み込むタイプの現在のものとは違い、片手を添えて両手で捕らないと取りこぼしてしまうことになる。日本では今でも「ボールは両手で捕る」が常識化しているのはこのためである)、客席にそこまでこだわる人はいないのと、ドラマ進行状に特に問題とはならないので、現代タイプのものを使用している。

漫画原作も手掛けるという西田大輔の本と演出はスピード感と視覚効果を大事にした上で外連味にも富むもの。一貫したストーリーよりもシャッフリングされた矢継ぎ早の展開を重視しており、各々のエピソードを絡めてラストへ持って行く形はラヴェルの「ボレロ」のようである。客席が女性中心ということで客席の各所からすすり泣きが聞こえ、上演としてはかなりの成功だと思える。

上演後は毎回アフタートークがあるようで、今日も永田聖一朗と伏ヶ丘商業の生徒達によるトークが行われる。天才エース・唐澤静役の多和田和弥は実は野球が大嫌いであったことを明かす。子供の頃のキャッチボールが顔に当たったことがトラウマになっており、野球が好きな人の気持ちが理解出来ないほどであったそうだが、この舞台をきっかけに野球が好きになったそうである。



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