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2018年12月10日 (月)

コンサートの記(466) 岡山大学交響楽団第65回記念定期演奏会大阪公演

2018年12月3日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後6時30分から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、岡山大学交響楽団第65回記念定期演奏会大阪公演を聴く。指揮は吹奏楽ではお馴染みの保科洋。

旧制第六高等学校や旧制岡山医科大学などを前身とする岡山大学。旧制第三高等学校である京都大学とは同じナンバースクールで、更に岡山医科大学(現在の岡山大学医学部)は元々は第三高等学校の医学部だったということで、京都大学と交流があり、5年ごとに京都大学交響楽団とのジョイントコンサートを行うのが恒例だそうで、今回も第1曲目であるワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲は岡山大学交響楽団と京都大学交響楽団の合同演奏となる。


曲目は、前記ワーグナー作品の他に、保科洋の「饗宴 Deux Paysanges Sonores Ⅰ,Ⅱ」とブルックナーの交響曲第7番。


岡山大学交響楽団(通称:岡大オーケストラ、岡大オケ)はその名の通り岡山大学の交響楽団なのだが、オフィシャルホームページの「岡大オケ概要」にもある通り「岡山大学の学生、及び周辺の大学の学生で構成されるオーケストラ」であり、岡山理科大学、ノートルダム清心女子大学、川崎医療福祉大学、就実大学の大学生、更に岡山理科大学専門学校と岡山科学技術専門学校の専門学校生も入っている。今回の公演だけなのかどうかはわからないが、岡山大学のOBやOGも参加していることがわかる。
京都大学交響楽団も俗にいうインカレは多いようで、メンバー表を見ると、同志社大学、京都工芸繊維大学、京都産業大学、京都薬科大学、京都女子大学、京都府立大学、龍谷大学、立命館大学、滋賀大学の学生が加入していることがわかる。

大学オーケストラと一口に言っても、早稲田大学交響楽団のようにカラヤン・コンクールで何度も優勝している本格志向の楽団から単なるオーケストラサークルに至るまで幅広いが、岡山大学交響楽団の場合は約半数が入団時初心者であるものの、個別指導やプロの指導、保科洋による「岡大オケ・システム」という独自の養成方法の確立などもあり、かなり本格的に取り組んでいることがうかがえる。


岡山大学交響楽団常任指揮者の保科洋は、1936年生まれ。小澤征爾の1つ下、シャルル・デュトワやズービン・メータ、エリアフ・インバルと同い年ということになる。東京芸術大学作曲科出身。卒業作品で第29回毎日音楽コンクール作曲部門(管弦楽)で1位を受章。その後、東京音楽大学、愛知県立芸術大学、兵庫教育大学で教鞭を執ると同時に作曲活動を続け、特に吹奏楽曲では日本の第一人者と目されるまでになっており、「風紋」は最も有名な吹奏楽曲の一つとなっている。
保科は、昨年の4月に脳出血で入院。6月に退院したが、健康上の不安はあるようで、今日は杖をついて登場。ブルックナーの交響曲第7番では指揮台上に椅子が置かれ、楽章間にそれほど長い間ではないが腰を下ろして休憩を取っていた。

ワーグナーとブルックナーは保科が指揮するが、保科作曲の「饗宴」は秋山隆がタクトを執る。
秋山隆は保科洋の弟子で、現在は川崎医科大学病理学教室に勤務する現役の病理専門医である。中学時代に吹奏楽を始め、岡山一宮高校時代には学生指揮者として賞を得ている。岡山大学医学部入学と同時に岡山大学交響楽団にトランペット奏者として入部し、保科の指導の下で演奏。学生指揮者としても活動を始め、岡大オケを第2回全日本大学オーケストラコンクール1位獲得に導いている。卒部後は、岡山大学交響楽団サブコンダクターとして保科を支えている。


ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲。京都大学交響楽団との合同演奏で、コンサートマスターは京都大学農学部4年のM君が務める。
弦楽の輪郭がクッキリとせず、主旋律がどこに行ったのかわからなくなるなど、混沌とした演奏であるが、臨時特別編成の学生オーケストラということもあり、こんなものだろうとも思う。


保科の「饗宴」以降は岡山大学交響楽団の単独演奏で、コンサートミストレスは教育学部4年のNさんが担う。無料パンフレットを読むとNさんのニックネームが「ラムエル」らしいことがわかるのだが、何の説明もないため由来は不明。執筆者は新日本フィルハーモニー交響楽団のヴァイオリン奏者で岡大オケ第1ヴァイオリントレーナーの篠原英和であるが、聴きに来るのは全員身内という前提で書かれていると思われ、端折ったのであろう。

「饗宴」は、下野竜也指揮広島ウインド・オーケストラによる吹奏楽版のCDは出ているが、管弦楽曲版の音源はないようで、貴重な体験となる。岡大オケのメンバーも保科の作品ということもあってか全身全霊での演奏。繊細な味わいのある見事な仕上がりとなった。下手側の席で聴いていた保科は演奏終了後に秋山に促されて立ち上がり、喝采を受けた。


ブルックナーの交響曲第7番。ワーグナーと保科作品はチェロが上手手前に来るアメリカ式の現代配置での演奏であったが、ブルックナーはドイツ式の現代配置で演奏される。

パート別では木管楽器が最も安定しており、冴え冴えとした音を響かせる。弦楽器はやはり輪郭がやや曖昧であり、金管もずれが目立つ場面があるが、アマチュアオーケストラとしてはまずまずの水準に達しているように思われる。ブルックナーの交響曲はそのまま演奏してもブルックナーの音楽にならないところがあり、難度は高いのだが、交響曲第7番はメロディー主体ということもあり、ブルックナーを得手としていない指揮者やオーケストラでも聴かせる演奏を行うことは可能である。音楽を聴く喜びを感じることが出来た。

こうしてブルックナーの交響曲を聴いてみると、ブルックナーが誰よりもキリスト教的な音楽を書いているということがわかり、その点で最もヨーロッパ的な作曲家だということが確認出来る。

思い出されるのは、朝比奈隆と大阪フィルハーモニー交響楽団が、ブルックナーの眠る聖フローリアン教会で交響曲第7番を演奏しようとした際、本番前に現地の老人が朝比奈の楽屋を訪れて、「キリスト教徒でない者にブルックナーが演奏出来るはずがない」と抗議のようなものを行ったという、比較的よく知られた話である。ブルックナーがキリスト教の精神そのものを音楽に昇華したというわけではないため、キリスト教徒でもない日本人でもブルックナーの交響曲を見事に再現することは可能であるように思われるのだが、楽曲から受け取るものはヨーロッパ人とは大きく異なるのも事実であるように思われる。ブルックナーは日本人にとって奥の院の音楽だ。

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